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雪の白、湯に火照る朱の頬


■日記

今日は家族全員が休みということで、近場の温泉に行くことに。
温泉では子どもたちが男の子なので、私が引き受けて入りましたが、普段はやんちゃな彼らもお利口にして入ってくれたので、私は大助かりでした。

温泉の食堂でお昼を食べて、再度また温泉に入り、としている内に雪が降ってきました。雪中の中の露天は寒いものの風情もあり。なかなかよかったです。早々に退散しましたが。

お風呂の中だと考え事がはかどるので、温泉もどうだと思ったのですが、温泉は人が周りに常にいるので、集中するには適さないことが分かりました。まあ、子どもが隣にいて常になんやかやと話しかけてくるので、集中もくそもないんですけどね。

そんなこんなで一日が過ぎ。そして三連休長編は遅々として進まぬという悪循環に陥っているわけです。

というわけで、会話劇のようなもので現実逃避を。

■会話劇~温泉での二人~

「ああ~、湯が肌に染みるねえ」
「年寄りみたいに温泉に入るな、久保」
「まあもう年寄りですよ。来年三十ですから。若い子から見ればおじさんの領域」
「お前の顔を見てると子どもおじさんって言葉が浮かんでくるよ」
「や。雪が降ってきたな」
「話を逸らしたな。ああ。だが湿っぽい。みぞれだな」
「みぞれと聞くとかき氷が食いたくなるなあ」
「久保、お前正気か? こんな寒空の下にいてかき氷が食いたいなんぞ。おれは断然鍋がいい。それも舌がひりつくようなキムチ鍋だ」
「鍋って手抜き料理だろ? ただ素を入れて野菜や肉をぶち込んだだけのさ」
「久保。嫁さんにそんなこと言ってないだろうな」
「言うわけないだろ。智美料理苦手なんだから。機嫌損ねないようにどんな不味いものが出てきても、笑顔でうまいよ、て言うよ。鍋だって文句言わない。言いたいけど」
「お前は一度一人暮らしをして、生活することの大変さを学ぶべきだ。鍋だって、作ろうと思えば手間がかかるんだ。そういうことにありがたみをもて」
「そうは言うけどさ、木島。そういうお前は独身じゃんか」
「縁がないだけだ。それにおれ自身独り身が性に合っている」
「本当かなあ。この間総務部の要さんにふられたって聞いたけど」
「……! 誰から聞いた」
「ま。風の噂ってやつで」
「ふん。おれはただ、要さんのような人なら、価値観も合うだろうと思っただけだ」
「確かに、要さん美人だし、仕事もできるもんなあ。あれで彼氏もいないのが信じられないよ」
「彼氏はいない。だが、彼女はいる」
「は? ああ、そういうことか。木島、お前災難だったなあ」
「言葉を慎め、久保。災難なんかじゃない。おれは彼女に惹かれたことを誇りに思っている。おれが焦がれたのは、物事に対してニュートラルな見方ができる彼女なんだろう」
「まだ諦めきれてない言いっぷりだなあ」
「想いを寄せるのは自由だ。要さんと彼女さんの幸福を、陰ながら祈っているさ」
「まあお前がそれで満足ならいいんだけど。で、智美の妹が木島に興味があるらしくて、会いたいって言ってるんだけど」
「話題を急転回するな。お前の悪い癖だ。時々お客さん困ってるぞ」
「分かってるよ。うるせえなあ。で、どうなの、会ってみる?」
「妹さんっていくつだ」
「高校生」
「ばか野郎、犯罪だ!」
「木島。お前がそう思うのはお前の邪念のせいだ。誰も異性として興味があるとは言ってない」
「な、ならなんだ」
「木島の高学歴に目をつけたらしいよ。家庭教師とかやってくれないかなって。妹さん来年受験生なんだけど伸び悩んでるらしいし。志望校もお前の出身大らしいから」
「そういうことならそう言え。ややこしい言い方をするな」
「ややこしくしたのは木島の邪念で……」
「邪念はもう分かった。智美さんには前向きに検討させてもらうと伝えてくれ」
「役人みたいな言い方するなよ。引き受けるのか受けないのかはっきりしてくれ」
「おれに教えられるか、一度本人に会って決めさせてもらいたい。ひょっとしたら、おれよりしかるべき学習塾なんかに通った方がいい場合もある」
「相変わらず慎重でくそ真面目な男だよ、お前は」
「そういうくそ真面目な男に長年付き合ってるお前も大概だと思うぞ」
「そうかもなあ。木島の子どもの顔を見るまでは死ねんなあ」
「親のような感慨はよせ。それにおれは子どもをもつ気はない」
「なんでだよ」
「おれがどういう環境で育ったか、お前なら知っているだろう、久保。ごみ溜めのような部屋、いつも酒臭い父親と、とっかえひっかえ男を連れ込んでくる母親。挙句の果てには刃傷沙汰だ。そんなおれが、子どもを育てられるわけがない」
「木島……」
「子どもも生まれてくるなら、久保や智美さんの元がいいはずだ。お前が何か焦ってるのも、見てれば分かる。だが、智美さんに負担を強いるなよ。身も心も。それを疎かにする人間に父親が務まるとは、おれには思えんのでな」
「かえって気を遣わせちまったみたいだな。すまない」
「いいさ。それより久保、提案なんだが」
「なんだい?」
「おれは暑いのに弱くてな」
「キムチ鍋を食いたがるのにか」
「そうだ。まぜっかえすな。それで、今おれの目の前はぐるぐると回り始めている。公園によくあっただろう、回転する地球型の遊具。あれを高速で回しているような感じでな」
「冗談だろ」
「冗談でこんなことは言わん。だから、かき氷をおごってやるから、救急車を呼んでくれ」
「おい木島? 木島ー!」
「すみませーん、誰か救急車を!」

「のぼせるまで付き合う馬鹿がどこにいるんだよ。言いたいことに辿り着くまで回りくどすぎるんだよ。でも、お前の言いたいことは伝わったよ、木島。智美とよく話し合ってみる」

■後書き

普段の私の小説は地の文が過多なので、今日は会話文のみで物語を展開してみました。
温泉にちなんで露天風呂の中での会話劇という形式で。オチがうまくつきませんで。もっとこう、すとんと落としたかったのですが、ノープランで書き始めたので落ちるところに落ちませんでした。

温泉が近くにある環境なので、一人になれたときに足を伸ばしてみるのもいいかもなあと思いました。市民なら安く入れますし。一人なら考えごともはかどる、かも?

湯に浸かって心地よく体が疲れたところで、今夜はゆっくり眠れそうです。

それでは、みなさまもよいお湯を。

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