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ワレワレハ、ポハピピンポボピア星人デアル(読書記録4)


※印象に残った言葉の記載がもれておりましたので、1月19日に追記しました。

■はじめに

久しぶりに破壊力のある作品を読んだな、という感じです。
頭の中にある既成概念を思い切り振りかぶったハンマーで叩き壊すような小説でした。

けれど、こういう破壊力抜群な小説、嫌いじゃありません。
何かを壊そうというには、物凄いエネルギーを使います。壊すより長いものに巻かれる方が圧倒的に楽なわけですから。

ジェイムズ・ジョイスも強いられた言語である英語を破壊しようとして、ユリシーズやフィネガンズウェイクのような凄まじい作品を世に生み出したわけで、破壊するという攻撃性の裏に隠れた憎しみ、嫌悪などの負の感情が爆発力となって、作品を生み出す推進力になることもあるわけです。

この作品で破壊しようとしたのは、我々の既成概念。一括りにして申し訳ないのですが、私たちよりも一定程度年齢が上の世代にまだ根付いている古い価値観。それを「地球星人」と「ポハピピンポボピア星人」という思想の二極構造を利用して破壊しにかかっているわけです。

じゃあ、若い世代が蚊帳の外かというとそうではなく、今の社会の在り方に疑問を投げかけることで、楔を打ち込んでいます。

■登場人物

〇奈月 魔法少女でポハピピンポボピア星人。ピュートというぬいぐるみの声が聞こえ、スプラッターな魔法が使える。子ども時代は自分がポハピピンポボピア星人だとは知らないが、いとこの由宇との出会い、成長するにしたがってポハピピンポボピア星人の自覚が芽生える。ポハピピンポボピア星人であるが、地球星人に洗脳されて「工場」で役割を果たしたいとも思っている。

〇由宇 奈月のいとこ。幼少期にポハピピンポボピア星人であることを奈月に告白する。大人になってからは地球星人に洗脳され、自分がポハピピンポボピア星人であることに批判的になっていく。

〇智臣 奈月の夫。「宇宙の目」を授かったと語り、ポハピピンポボピア星人でありたいと願っている。奈月が幼少期に過ごした秋級に強烈な憧れを抱いており、そこに行きたいと願っている。

■感想

登場人物の紹介を読んだだけで、「なんだこりゃ」となること必至だと思います。ポハピピンポボピア星人ってなんだ?(私は打ち込みすぎて予測変換に出るようになってしまった……)

正直「コンビニ人間」には食指が動かなかったんです。
でも、X(旧Twitter)とかで読了ポストが流れてきて、そのインパクトに圧倒されて。すぐにBOOKOFFで探しました。裏表紙の解説を読んで、これはいいんじゃないか、と迷わずレジに持っていきました。

設定がぶっとんでいる小説は他にもたくさんあると思います。でも、この小説は破壊の熱量を感じるとともに、冷静な目も見えるんです。作品を透徹するような、冷ややかな観察者の目が。
だから過激ながらも安心感があるんだと思います。

正直女性に限らず男性でも、性とか少数者の問題をテーマにした作品って多いと思いますが(特に新人賞とかだと顕著に思えます)、ドラクロワの民衆の女神のように、マイノリティという旗印をこれでもかと掲げて行進するものを目にすると、一歩引いて考えてしまって、作品としては楽しめないという傾向が私自身にあるものですから、「地球星人」の押しつけがましくない、でも作品中で主張はしっかりなされている、という書き方は私は好きだなと思いますし、作者の技量の高さに感服します。

主張がしたいなら叫べばいいわけで。その叫びが小説という形をとって生まれてくるならば、そこに語るべき物語があってほしいなと思います。

■印象に残った言葉・文章

  • テーブルにはイナゴの佃煮が載っていて、その横をバッタが走っていた。

  • 人間ではない命が、窓のすぐそばまで押し寄せてきていた。人間ではない生きものの気配の方が大きい夜は、不思議で、少し怖いけれど、野生の自分の細胞が疼いているような感じがした。

  • ここは肉体で繋がった人間工場だ。私たち子供はいつかこの工場をでて、出荷されていく。

  • 親指を握ると、手の中に暗闇ができる。うまくすると、手の中の暗闇を、真っ暗な、宇宙に近いいろにすることができる。

  • 世界に従順な大人たちが、世界に従順ではなくなった私たちに動揺していた。

  • 姉は、姉自身が喋っているのではなく、世界から喋らされているような調子で言葉を吐き出す。

  • 何で僕が、僕であることを許されなければいけないんだ。

  • 本当に怖いのは、世界に喋らされている言葉を、自分の言葉だと思ってしまうことだ。

■結びに

作品の内容については極力触れないようにしたので、未読の方には分かりにくい感想になってしまいましたが、これを読んでもし気になった方がいらっしゃいましたら、お手に取って、一読してみていただければと思います。

この作品のように、いつか私たちの常識を粉砕する破壊者が現れる日がくるかもしれません。それはポハピピンポボピア星人かもしれませんし、まったく違う星や世界からやってきた来訪者かもしれません。
もしくは私たち自身が変貌し、破壊者となるかもしれませんね。

あなたは地球星人ですか。それともポハピピンポボピア星人ですか?

私は、どっちだと思います?

それでは、謎かけを残しつつ。

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