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日常系・現代物小説集

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何気ない日常を描いたもの、現代を舞台にした小説をまとめています。
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#短編小説

雷火

 昨日裏庭の古木に雷が落ちた。  古木は二股に分かれた幹の分かれ目から発火し、瞬く間に枝…

水瀬 文祐
2週間前
108

泳ぐ鳥

 大学時代、暇さえあれば喫茶店に行っていた。  彼女と僕とは腐れ縁というか、高校一年のと…

水瀬 文祐
2週間前
117

手紙

 彼女が最後に残した手紙を読み返し、丁寧に折り畳んで封筒にしまうと、机の引き出しに入れた…

水瀬 文祐
3週間前
119

燃える空の向こうに

 夜の河川敷は人でごった返していた。  花火の火の玉が尾をたなびかせて空に舞い上がり、弾…

水瀬 文祐
3週間前
131

真剣勝負

 少年は拳を握りしめ、右足をわずかに引いて体を半身開いた。  握りしめた拳には、必要以上…

水瀬 文祐
1か月前
110

渦を奏でる

 坂道を下って、かたつむりの殻のように渦を巻いた道を抜ける。  そうするとトンネルがあっ…

水瀬 文祐
1か月前
118

青い街

 地面の下には水が埋まっていて、その底には街がある。  水底の街は青く輝いていて、そこには僕らにそっくりな人間がいるけれど、彼らは水の中でもくぷくぷと息をすることができて、くぷくぷという音で会話するらしい。どういう原理か分からないけれど、街には灯りがあって、電気で光るのだが、それが青い光なので、街は青く輝くのだ。  それを教えてくれたのはじいちゃんだった。  じいちゃんは猟師だったが罠にかかった猪にとどめをさそうと棍棒を持って近づいたところ、手負いの猪は最後の力を振り絞ってじ

ピリオド

 こん、こん、とキッチンに卵をぶつけて片手で開き割り、フライパンの中に落とす。  油がち…

水瀬 文祐
1か月前
119

借物の外套

 私は本屋のアルバイトだった。しがない本屋のしがない学生アルバイト。  大学でも地味でぱ…

水瀬 文祐
3か月前
116

ポートレート

 笛が鳴る。  彼女の手が、足が躍動して、一迅のオレンジの風のように走り抜けていく。その…

水瀬 文祐
3か月前
140

麻薬読書者

 男は後ろをやけに気にしながら歩き、ある小路の入り口に立つと、殊更に警戒心を剝き出しにし…

水瀬 文祐
3か月前
130

スパイ・オア・ストーリーテラー

 病室の窓から外を眺める。青空に無数の魚影のような雲が泳いでいる。  午後のロードショー…

水瀬 文祐
3か月前
113

空色のダイヤモンド

 世界には空に穴の空く場所があって、その穴の中には空色をしたダイヤモンドが眠っている。 …

水瀬 文祐
3か月前
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波間に揺れる

 波打ち際に貝殻が転がっていた。押し寄せては引く波に弄ばれ、ころころ、ころころと転がった。  僕は裸足のつま先でそれに触れると、波に逆らうように転がしてやった。 「意地悪ね」と彼女が手で庇を作りながら眩しそうに目を細めて言った。 「死んだ貝だよ」と僕が口を尖らせて言うと、彼女は諭すように「死んでいるからこそよ」と言ってしゃがんで貝殻を拾い上げた。  彼女は手のひらの上にその巻き貝を載せ、まるで生きているかのように指先でつついて見せた。  僕はその巻き貝をぼんやり眺めながら、そ