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オトナ
チャイムが鳴った。今日の授業はこれまで、という先生の声が聞こえてくる。
今日もこれで終わりか。これといってなんの変哲もない日々。刺激が欲しいけど、何か新しい世界に踏むこむ勇気も持てず、ただただ時間をぼーっとして過ごすだけの日々。
私は高校2年生だ。普通の高校生。特に何かに打ち込んでいるわけでもない。なんとなく回転寿司屋でバイトして、なんとなくバンドやってギターを弾いている。そんな高校2年生。人ごみの中にいれば探すのにものすごく時間がかかるような、これといって特色のない顔。色のない性格。「やあ。」って言われれば、にこやかに「おつかれ」と返す。そんな性格。
今日の予定は何だったっけ。そうだ、これから帰って着替えてバイトに行かなきゃ。
ちょっと遅刻してしまった。18:00からのシフトなのに、着いたのは18:10。
「すみません、遅れました。」
頭を下げる。眉をしかめるバイトリーダー。
「時間を守る。社会では常識だよ。」
常識。たしかに、それは身につけなくてはならない。
「すみませんでした。以後気をつけます。」
返事がない。バイトリーダーはぷんぷんしながら着替えている。このままここにいると他の人にもっと迷惑をかけることになる。というわけで私は怒っているバイトリーダーをその場に置いといてすぐに調理に入った。
まな板の前でひたすら切り身を拵える。今日はサーモンがよく売れる。家族連れが多いのかな。
「シュークリーム一丁!」
声がした。
顔を上げると、そこには幼い子供のきらきらした眼があった。
客席と調理場は完全に遮蔽されているものの、回転レールはどちらも通らなければならないため、壁にはレールに乗った寿司が通るための四角い空間がぽっかり空いている。その空間から、幼い子供が覗き込んでいる。
「シュークリーム一丁!」
ええと、こういう時はどうしたらいいんだっけ?
俺は接客マニュアルの文章を思い出そうとした。たしか、大変申し訳ございませんと謝ってから客席にあるタブレットで頼むようにお願いする、というのが正解だったはず。なら、そう言わなきゃ・・・
口を開きかけた俺の横から、ふいにニュっと手が伸びてきた。
「ほい、シュークリーム一丁。」
バイトリーダーだった。恥ずかしそうに微笑みながら、100円皿の上に乗ったシュークリームを四角い穴の中にすっと入れる。
「ありがとう。」
少年は笑顔でお礼を言うとあたふたと走り去っていった。ママー、もらった~。まあ、よかったわねえ。
バイトリーダーはまたいつものしかめ面に戻ると、せかせかとカツオの切り身を拵え始めた。
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