一作

20代雑文家 好きな作家はゴーゴリ

一作

20代雑文家 好きな作家はゴーゴリ

マガジン

  • 童貞日記

    本を読む童貞のつれづれ日記

  • #1000文字小説

    小さな小さな箱の中から、無限に広がる世界をあなたに。

  • 草子集

    オリジナル作品。

最近の記事

どうせ阿呆なら

アホ臭えという言葉、これは核爆弾、ダイナマイト、プレミアムガソリンである。最近はもうホントにこの言葉に助けられている。 例えばある日の駅のホームで、突然見舞われる。例のアレである。体中の皮膚の下に、ダニのように這いつくばった無数の恥ずかしさが、ホームに流れる底抜けに明るい鉄道チャイムに共鳴して愉快なダンスを始める。「いったい何の意味があるんだ?」と無限に問うてくる、鋼鉄のように武装した冷酷な処女が、毎日の生活を力強く進んでいくための精神的なエネルギーを容赦なく奪ってくる。

    • 物書きを自称する人

      物書きを自称する人①: ベルトコンベアーの上に載せられたカップラーメンの箱の上に、緑色の蛙が一匹潰れて死んでいるのを見た時からずっと、自分の二の腕にひっついている気味の悪い蛭をひっぺがすために、原稿に向かう人。 物書きを自称する人②: 流産した赤ん坊を弔うために、涙を流しながら産前の自分の行いに対する反省文を書く人。 物書きを自称する人③: 同じ穴の貉ということわざを、自分の中で決着をつけるためだけに、芥川賞に応募する人。 物書きを自称する人④: 数年前に外国に

      • 盗作詩

        唐突だが、たまたま拾った百均のメモ帳に書かれた言葉ほど、面白いものはないと思う。それは太陽からの拾い物である。 黒くうねりのある畔が、視界の端々、地平線の向こう側まで続き、太陽の肛門に頭から巣食う寄生虫のように見えた。 目に入るものが食えるか食えないか、そのことだけを極めて生真面目に追求した彼の眼は、無数にある鱗の一つ一つが宇宙を内包しているように見える時もあれば、くだらないビー玉みたく幼児の唾液のように輝くときもあった。 用水路の流れるコンクリート製のトンネルに住んで

        • 青空が爆薬で濁る

          作家ゴーゴリがウクライナのヴェルィーキ・ソロチンツィの正教会礼拝堂で、洗礼を受けてからわずか150年しか経っていないのである。150年前といえば、まだ自分の曽ヶ祖父が生きていたころだろうか。脈々と続く家系の流れの中で、あらゆる時代を生き抜いてきた自分の祖先に思いを馳せてみたりする。顔も分からぬ、声も聞いたことのない自分の祖先が、時代の風に揉まれながらも懸命に生き抜いていったことだけは、今自分がこうしてキーボードを叩いていることから分かる。 毎日のように流れてくる信じられない

        どうせ阿呆なら

        マガジン

        • 童貞日記
          36本
        • #1000文字小説
          32本
        • 草子集
          30本

        記事

          マイルドセブン

          テニスコートの上は真夏の光にさらされ、余計な蒸気が肌に不快な潤いを与えるような、そんな真夏の午前に、「おじさん」は現れた。 とは言っても、この出来事にはなんの事件性もないし、おじさんは変わり者ではあったが悪人ではないみたいだった。ただ、彼はフェンスの外からずっと中学生たちがテニスをしているのを眺めていた。「朝練」という名の拷問に中学生たちが若き肢体を伸ばして取り組む姿やら、夕暮れ時、燃えるようなオレンジ色に染まったクレイのテニスコート脇で、ボールを数える新入部員の手先やら、

          マイルドセブン

          頭痛恨み節

          何かしら理由をつけては酒を飲むという愚行をやっているのだが、その後に必ず来るこの頭痛には耐えがたい。実際自分は日曜に3度目のワクチン接種を済ませたばかりであり頭痛に関してはここ数日で嫌というほど味わったのである。それなのになぜ病み上がりのさっぱりした頭に劇薬を流し込んでしまったのだろう?私は後悔する。だが後悔したところで血中の毒物が蒸発してくれるわけでもなく鉛のような頭を抱えて酒以外の新たな慰めを求めた結果noteを開いている。そんな夜である。 自分は普段、テレビとは無縁の

          頭痛恨み節

          この世で最も怠惰な趣味

          斜面を下れば下るほど、私は自由になってゆく。高校生の初化粧、友だちから貰ったファンデーションを初めて顔につけてみた、断続的な空からの乳液で潤った山肌を、これ以上ないほど清潔で、悪魔じみた輝きを持つ雪粉でおめかしした、冬の斜面。ところどころに生える針葉樹は、若き肌に突き刺さる毛根のような冷たい根を雪の下に張り、その出番を待つ。一年のうちたった30日ほどしかない、彼らの出番の時を。 山スキー、と呼ばれているこのいかがわしい趣味にハマり出したのは最近だろうか。毎年多数の遭難者と死

          この世で最も怠惰な趣味

          宵闇の こもりうた

          隣の奴らが合唱をしていてうるさいので壁をガンガンに叩いてやろうと万年床を捲り上げた。午前2時。築40年の古アパートといえどもやりすぎである。ここは一つ、我が正義の鉄槌を下してこの世に安眠という社会福祉的な天国がきちんと存在することを隣人にも教えてやらなければならない。だがむくりと起き上がると同時に薄い壁を通して聞こえてきた陽気なアルペジオが私の調子を崩した。 泣きながら アヴェマリア 行き過ぎた 芦田愛菜 日が暮れた サンタマリア わがままな サラダ油 これに、「さくらま

          宵闇の こもりうた

          路傍の椅子

          手心を知らない季節風にやられ、鉄の脚は錆びつき、ニスが剥がれ落ちた台座のベニヤ板が、空からちらちらと落ちてくる雪をふんわりと受け止める。とある海沿いの、ベンチの物語である。 彼が設置されたのは地震の直後だった。日本海側ではめったに起こるはずのない津波を起こした大地震の後にできた砂地の上に、市に与えられた国庫支出金をなるべく使い果たすべく、だだっ広い砂地にドサリと置いていかれた。昭和39年のことであった。鉄製の脚はまだ真新しく、20世紀末の熱い太陽の光を鮮明に反射していた。切

          路傍の椅子

          アイデアが枯渇した時、皆さまなら何をしますか??

          アイデアが枯渇した時、皆さまなら何をしますか??

          白鳥おじさんのショウ・タイム

          「三代目白鳥おじさん」を初めて見た時から、何年経っただろうか。 冬の冷たい湖。そこらじゅうに穴がボコボコ開いている古い桟橋。下手をすれば踏み外して、彼の心臓の息の根を止めるのに十分なほど冷たい水の上に落下してもおかしくないのだが、我らが「白鳥おじさん」はそんな些事には一切目もくれず、スキップでもするように軽々と桟橋を渡っていくのだ!ギシギシギシ、という桟橋の悲鳴。笑顔のおじさん。雪灯りに浮かび上がる、白鳥の黄色いくちばし。 「白鳥おじさん」の仕事は、毎日午前9時、11時、

          白鳥おじさんのショウ・タイム

          町田康氏について語りたい

          あかんではないか。 町田康氏の文章と出会ったのはつい最近のことで、昨年の11月、親友とドライブ中に、ゴーゴリ的ユーモアを学びたいのだがどうすればよいか的な質問をぶつけてみたところこれを読めと勧められたのが町田康氏の「告白」であった。ただそれだけのことだった。 文庫本としては珍しいくらいの圧倒的なボリューム感に打ちのめされ、初めは読む気が失せてしまった。だが、我慢して文字を追ううちに夢中になってしまった。あそこまで書物に没頭できたのは小学生の頃に「かいけつゾロリ」シリーズを

          町田康氏について語りたい

          圧倒的ゴーゴリ

          夜中になり天涯孤独、一人パソコンのキーボードに向かいて、ああでもないこうでもないと書くべき内容を考え、読んだことはあるがさして興味もわかなかった小説やら論説やらを指を舐めつつ捲り、あやもうこんな時間だ、こんな時間に書き始めていたのでは偉大なるnote運営閣下による、「毎日投稿できててすごいです!」とか「創作が継続できてて自慢できちゃう!」などという誉め言葉のテロップが拝見できない、どうしよう、もう何でもいいや、どうにでもなっちまえ、ということで本日はただ自分が好きな作家につい

          圧倒的ゴーゴリ

          ただ一人、生き残った男の日記

          人間のいなくなった世界。夜は本当に真っ暗闇である。何一つ見えない。昨日は月も出ていなかった。雲もなかった。あの星空。前の世界ではあんなの一回も見たことない。いや、見れるはずもないか。新宿も渋谷も、夜はギラギラだったもんな。 それは宇宙だった。まんま宇宙。びっくりするだろ?だって空を見上げると、黒い部分の面積よりもむしろ輝いている星の部分の面積が多いんだぜ?光り輝く粒々の合間に、宇宙の本来の姿である真っ暗闇の黒色がちょろちょろと現れているのさ。まるでシャワー・ルームのカーテン

          ただ一人、生き残った男の日記

          神々もなんだかんだで大変だ

          キリストがこの現代世界に降臨してきて、まず始めに着手したいと思ったのは金儲けであった。彼は「庶民の敵」という菓子を作って道ばたで販売を始めた。それは何の変哲もないもので、小麦粉と砂糖とココアとバターを適当にこねくり回してロケットの形にして焼いただけの、なにやらクッキーらしき怪しき食べ物だったが、卓越したネーミングセンスが人々の心を打ち、彼の商品はまたたく間に大ヒットした。 ロン毛で、顔の彫りがやたら深くて、澄んだ目をした外国人が、道ばたの露店で「庶民の敵」という名の菓子を売

          神々もなんだかんだで大変だ

          偏差値99の難問

          問. 以下の手記を読んで、それに対するもっとも適切な答えをa~dから選びなさい。 相変わらずの部屋。相変わらずの壁。みかんもいつものみかんの味がする。この世で一番の幸福は自分の仕事を見つけられることだ。仕事?それは「金を儲ける手段」のことじゃない。自分の時間を切り売りするなら簡単に金を稼ぐことができる。今すぐにでもタウンワークを読むといい。貢献という名で功名にコーティングされた時間売買。まるでショートケーキみたい。スポンジのことなんか誰も気にしてなくて、ただ生クリームとイチ

          偏差値99の難問