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大人たちはわかってない。

ーーー「大人たちはわかってない。」

多くの幸せな子どもたちが、大人たちに自分の感覚をありのままにさらけ出したときに感じる、最初の幻滅。

一世紀近くの間、世界中で愛読されてきたフランスの名作「星の王子さま」。伝染病がはびこり、社会に余裕がなくなっていく今だからこそ心に響いてくる、サン・テグジュペリの素敵な感性。

一緒に読んでいきましょう。「星の王子さま」冒頭部分よりーーーー


「星の王子さま」より。ゾウを呑み込んだ大ヘビ。

6歳の時、ぼくは「本当の話」というタイトルの、熱帯雨林に関する本の中で、とても素敵な絵を見たことがありました。

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その絵の下には、次のように書かれていました。

「熱帯にいるボアという蛇は、動物をまるごと呑み込んでしまいます。それで動けなくなったボアは、そのあと、6か月かけてその動物をゆっくりと消化します。」

そこで、僕はジャングルを探検している自分の姿を想像してみました。

すると、すごいわくわくしました。

それから、色鉛筆を使って、絵を描きました。ぼくが描いた絵の第一号です。それは、こんな絵でした。

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僕はその絵を大人たちに見せて、こうたずねました。

「ねえ、すごく恐いでしょ?」

すると、大人たちはこう答えました。

「どうして帽子が恐いんだい?」

ぼくが描いた絵は、帽子ではありませんでした。

それは、ゾウを消化している大ヘビだったのです。

そこで、僕は、大ヘビの中が透けて見える絵を描きました。

大人って言うのは、真実を見抜くことができないからです。

僕の絵の第二号は、こんなふうな絵でした。

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その絵を見た大人たちに僕はこんなことを言いました。

「そういうくだらない絵なんか描いてないで、地理や、歴史や、算数や、国語を勉強した方がいいよ。」

そこで、僕は、6歳の時に、画家になる夢を捨ててしまいました。初めて描いた絵を、大人たちに散々けなされたからです。

大人たちは頭が固いので、事実をありのままに見ることができません。そんな大人たちに、いつもいつも教えてあげなければならないので、子どもたちはやがてうんざりしてしまうのです。

(中略)

ぼくは、これまでの人生で、とっても多くの、とっても頭の固い大人たちに会ってきました。そんな大人たちの間で生きてきたのです。すぐ近くから彼らを観察してきました。そして、いまでも、

「やっぱり大人たちはわかってない」と思っています。

ときどき、この人ならわかるかもしれない、と思うことがあります。

そんなときは、いつも、第一号の絵を見せることにしていました。

ものごとの本質が見えるかどうかを試してみたんです。

でも、答えはいつもこうでした。

「帽子がどうかしたの?」

僕はがっかりして、熱帯雨林のことや、大ヘビのことや、星のことを話すのを辞めました。そして、ゴルフのことや、政治のことや、お金のことを話したのです。

そうすると、相手の人は、僕をまともな大人だと思って安心するのでした。

そんなふうにして、ぼくは、一人きりでさみしく生きていました。

(サン・テグジュペリ作 浅岡夢二訳 「星の王子さま」Kindle版より)


解説 ~大人たちはわかってない~

大人たちはわかってない。

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