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芥川賞第三回受賞作|アイヌとして生き死んでいった人々の物語|『コシャマインシ記』鶴田知也著
なぜ歴史を描いた小説は読んでいて胸が苦しくなるのだろうか?
私は本作を読みながら、まずそんなことを考えた。歴史的な事実として、アイヌ民族は和人に土地を奪われ、文化を奪われ、生きていくために同化を余儀なくされる。アイヌが和人に戦い、勝利を収め、権利を取り戻した。そんな歴史がないことを知っている。
本作の主人公『コシャマイン』は、アイヌの集落(コタン)の長の息子だ。父が尊き戦いに挑み、敗れる中で血を残すために母とともに北海道各地のアイヌ集落を巡り歩く。
いつかいつかは、と時を狙い、修練を積み、大人になる。信条を貫き立派な男になったコシャマインに、そのいつかは訪れなかった。
老いた母と、妻、子を産み血を残すことも叶わず、騙され呆気なく命を落とす。アイヌとして誇りを持っていきたいひとりの生は、その後弔われることもなく自然に返っていく。
残酷で救いようのない物語は、綺麗な自然描写と共に描かれている。北海道の厳しい冬。豊かな森。自然とともに生きていたアイヌの人々の生活が目の前で蘇るようだった。
歴史が残した残酷な真実と、人の命の儚さ。救いようのない物語になぜこんなに心が動かされるのだろうか。
※芥川賞第二回は、受賞作『なし』だったので、(その代わりに?)第三回では二作が同時受賞しています。そのうちの一つが、今回の『コシャマイン記』でした。
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