記念すべき第一回芥川賞受賞作|ブラジル移住に希望を賭けた者たち|石川達三『蒼氓(そうぼう)』
史上初めての芥川賞受賞作。それが、石川達三の『蒼氓』である。
芥川賞は1935年(昭和10年)にその歴史が始まった。同時に大衆文学作品向けの直木賞も始まったが、芥川賞は純文学作品への賞である。
第一回芥川賞受賞作と聞くと、古めかしく、読みづらいのではないか、と私は思っていた。だが、読み始めてすぐにその世界観に没頭してしまった。現状への諦め、新しい異国の地への希望、田舎から出てきた家族、人生の波に流される女、神戸の海の匂い。当時、名前も残らないたくさんのブラジルへの移住民が