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10.グラタンの発音

ぐつぐつ、熱いグラタン。
ホワイトクリームとマカロニがたっぷり入っていて、とろりと伸びるチーズをスプーンですくってハフハフと食べる。

この美味しい食べ物「グラタン」の発音について、私は小学校6年間もんもんとし続けていた。

学校にやってきた教育実習の先生が自己紹介で、
「僕の好きな食べ物はグラタンです。」と言った。
私はただ変な発音だな、と思っていた。
「グラタン」とそのままアクセントを付けずに読むのが一般的だということをその時初めて知ったのである。

友達に
「あのせんせ、グラタンやって。どこの人やろ。」と言うと

「え?普通やん。逆になんて言うん?」と言われた。

私の家では、ラにアクセントを付けて「グラタン」
と言っていた。
クラスの誰1人として、私と同じ発音の子がおらず、
私は当時衝撃を受けていた。

家に帰ってすぐに母に報告したが、昔からそうだったので分からないと言われた。

クラスの皆に他の食べ物の発音も色々確認してみると、
例えば「トマト」や「バナナ」などは意見が分かれていて、
地域なのか家庭の影響なのかそれぞれの言い方をしていることもあった。
しかしやはり「グラタン」だけは誰1人として仲間に出会えず、寂しい気持ちであった。

ある日、そういえばその話をしていなかった1人の友人が

「私もグ、ラ!タ、ンって言うで」と。

なんと!初めての仲間!
私は嬉しくて、るんるんで家に帰り、
翌日の朝に冷凍のグラタンを食べた。

はて、なぜ発音が分かれているのか、それを解明するのを忘れていた。
まぁそんなことはいいか、と思いながら
私は今も同じ発音のままグラタンをハフハフしている。

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