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「癌」ってジツは怖くなかったという話Part3

Peeちゃんと今後の治療について何度も話す。しかし治療といっても完治しない病気で命の期限まで設定され、この時の僕の心境をサッカーに例えるなら監督に…


「君たちは予選全勝してもワールドカップにはいけないが、努力は惜しむな」


って言われてるようなもんで、治療に対するモチベーションのショの字も湧いてこないわけです。治療って言うけど抗がん剤とか放射線とかしんどい思いしてもどうせ死ぬのにそれを治療って言えるん?治療の”治”って「治る」って事でしょ?という感じでこの病気との向き合い方がわからないし、どう捉えたらいいのかもわからない。とはいえこのままじっとしていても何も始まらないのである程度の方向性を決めないといけない。毎日夜な夜なPeeちゃんと答えの出ない話をしていくわけです。明るく振る舞ってうんうんと話を聞いてくれてましたが今思えばPeeちゃんの心労もかなりのもんだっただろうなと思います(汗)

しかしですね、人間って不思議なもので辛い状況にも慣れてくると何とか幸せになろうとするんですね。これが生きる力ってやつか。と思ったものです。そうして話を繰り返しているうちに徐々に頭の整理ができるようになり、僕にもようやく望みみたいなものが芽生えました。それは…


①できるだけ永く生きて子供たちの成長を見届ける。
②家族で沢山思い出を作って冥土の土産にする。
③記録魚を釣り上げる。


至ってシンプルですが切羽詰まると人って本当に自分がやりたい事が明確になってくるんですね。何とな〜く生きていた今までは明日からやろう…一週間後でいっか…またいつか…って感じで無駄に時間だけを浪費してきたんですけどね。生きるってこういう事を言うんだな〜と。これは大きな学びでした。そうだ、限られた貴重な時間だと捉えてみて、第三者的に、客観的に自分を見て学ぶいい機会なんじゃない?と少しづつマインドセットするようになっていきます。

差し当たり、まずは3年生存計画を自分の中で立ててみた。
長女の結婚式に出るはちょっと無理だな。頑張って中学入学は見届けられるか?そうなると初の彼氏を家に連れてきた時に最初は不機嫌だけど最後には理解を示す哀愁漂う親父を演じることはできるな。長男の初ホームランは見れそうだな。ピッチャーやりたいって行ってたし今から練習頑張ればマウンドに立つ姿も拝めそうだ。甲子園で活躍する姿を見るのは…ちょっと時間が足りないかなぁ。などなど。

他にも家族の誕生日にあと何回立ち会えるかとか、何回旅行に行けるかとか、憧れの湖で大きな魚を釣るチャンスは何回くらいあるかとかを想像していると、「あれ、想像してたより結構チャンスあるな」と言うことに気づいて、何だか楽しくなってきた。そうだ、このチャンスを頑張って増やそう。こうして僕の中に生きる目標が生まれてきたのでした。


全ての希望を打ち砕く魔の薬。


ようやく治療を頑張れる理由を見つけた僕は病院で化学療法を選択。胃の手術も考えましたが、無駄に体力を削るよりはいっそそのままにして、延命重視の治療を行いたいという意思を伝えると、担当医も理解を示してくれました。続いて医師から治療の説明を受けるのですが、改めて腹膜播種がどれほど難しい病気なのかを思い知らされます。医師の説明をわかりやすくまとめると…

○全身化学療法を施したとしても効果が殆ど現れないケースもある。
○手術や放射線治療はできない。
○効果が現れない割に副作用がめちゃくちゃキツい。

希望を持って説明を受けにいったはずでしたが…改めて現実を突きつけられだいぶトーンダウンしてしまいました。とりあえず一度持ち帰って改めて家族と話をするという事を伝え、病院を後にします。弱ぇなー俺。

その後、もっと効果的な治療はないものかとPeeちゃんと様々な可能性を模索してみます。とある専門施設では腹腔ポートと言う器具をお腹につけて直接腹膜に薬を投与すると言う治療もありましたが保険適用外で一回の治療で数十万…緩和ケア専門の病院では3ヶ月余命を伸ばした…調べれば調べるほど不安が大きくなり絶望感が増してくる。もう調べるのはやめよう。

結局、抗がん剤治療を選択することにしましたが、医師に「とにかくなるべく苦しまない方法」はないかを相談します。一先ず自宅でも治療ができる内服薬の抗がん剤はどうですか?と言う提案をいただきました。とはいえ副作用はかなりものがあるということでしたが、入院せずに家に居られると言うのは当時の僕にとってとても有難いことだったのでそちらを選択することに。

3週間を1クールとして検査、それを5クール行う計画で自宅での抗がん剤治療がスタートしました。が…


想像を絶する副作用。


ずっと風邪をひいて高熱が出ているような倦怠感、吐き気に始まり、呼吸が苦しく下痢、眩暈に悩まされる日々。おいおいマジかよ…想像してたより全然キツい…。数日で脱毛が始まります。お風呂に入って髪の毛を洗うとまぁまぁな量の抜け毛が…子供達を心配させないように回収してティッシュに包んで捨ててました。髪の毛は元々多かったので最初は見た目にもそこまででしたが、体毛は一瞬でなくなる。脱毛クリニックに行かずともムダ毛処理ができたぜ!とか時々ふざけた事をPeeちゃんに言ってましたが、さすがのPeeちゃんでも笑えないですよね。

徐々に食欲も低下していきます。部活やってた頃の食トレを思い出し「食べれなかったら俺の負け」と無理矢理にでも食べてましたが、やはり嘔吐を繰り返しては胃の痛みが増してくると言う負の連鎖。食いしん坊であれ食べたいこれ食べたいとPeeちゃんを困らせていた僕が何かを食べたいということもなくなって、1週間を過ぎた頃から体色にも変化が現れ始めます。2週目に入ると動こうにも動けなくなって、このままではトイレにすら行くことも難しくなりそうでした。


「まるでこの治療に希望が持てない。」

と強く感じた事をPeeちゃんに話しました。
実は元々Peeちゃんは薬物治療には反対していたんですが、病気と戦うのはBoo本人だから僕が望む治療をやってほしいと、僕の意見を尊重してくれて献身的にサポートしてくれていました。でも実際やってみてこの薬の副作用は僕の想像を遥かに超えていて、一つの疑念が生まれます。


あのさ、命を縮めてるのってジツはこの薬なんじゃないのかな?


もちろん、がん治療は多くの医療関係者の努力で日々進歩していると思いますし僕も難しい癌治療を行う上で一人の治験者として将来の医学に役立つのなら、と言う思いも少なからずあったのは確かです。しかし、そんな思いなんてどっかいっちゃうくらいこの治療を続けて何かが改善すると言うイメージが全く湧きませんでした。未来のがん患者のためにとかカッコつけてる場合じゃないと。これを死ぬまでの間続けて行くこと自体に何の意味があるのか、多少延命できたとしても動けないのなら、長男の野球の練習も付き合ってあげられないのなら、長女の運動会も見に行けないのなら、これって意味のある事なのかな?と。その日を境に僕は独断で抗がん剤の服用をやめました。


「もしかしたら俺、早く死んじゃうかもしれないけど、これは無理だったわPeeちゃん。ごめんね。」

Peeちゃん「大丈夫。私が何とかしてあげる。」

「????」

Peeちゃん「あなたの癌、私が治してあげる!」


彼女のその一言に本当に救われました。
死にゆく運命はどう抗っても変えられないけど、それでもこうやって一緒に受け止めてくれて、一緒に戦ってくれて、最後の最後まで励まし続けてくれる素晴らしい女性に出会えただけでも幸せな人生だった。
とその瞬間は思ってましたが…


彼女は至って本気でした。



次回「本気のPeeちゃんはマジで凄かった」


続く…


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