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オンライン読書会 開催報告 (7月22日)

今回の読書会のテーマは夏にちなんで『怖い本』。
『怖い本』と一口に言っても、「恐怖」にはいろいろなグラデーションがあります。ストレートに心霊系の怖い話や、フィクションの怖い小説、「戦争怖い」「冤罪は怖い」「子供の無邪気さが怖い」「幸せ過ぎて怖い」「ネコちゃん可愛すぎて正気を失いそうで怖い」など。「怖い」の定義は何でもよかったのです。
事前に何件かお問合せ頂いたのですが、蓋を開けてみれば見学希望の方のご参加はあったものの、我こそはこの『怖い本』を紹介!という方はおられませんでした…残念。
念のために、と複数冊準備していたので、主催者が開き直ってひたすら怖い本を紹介するという会になりました。 
とはいえ、一方的な紹介だけではなく、ご質問やご感想を頂いたりと会話は弾み、「好きな本を紹介する」という最低限の役目は果たせたような気がします。 

まず、一冊目は児童書から。
『2番目の悪者』by林 木林、庄野 ナホコ

帯に書かれているのは「考えない、行動しない、という罪」という言葉。
この物語の登場人物はどんな罪を犯したのでしょうか。 

舞台は架空の動物の国。虎視眈々と王の座をねらう金のライオンと、街はずれに住む銀のライオン。そしてその国に住む、様々な動物たち。
銀のライオンは他の動物に優しく、困ったことがあればすぐに助けてくれる。そんな心優しい銀のライオンを、動物たちは「次の王様にふさわしい」と噂する。
その噂を耳にした金のライオンは、とんでもないことを始めるーー。

絵もお話も、とにかく素晴らしい本です。一家に一冊必要でしょう。
この物語のメッセージ、大人にもズシンと響くのではないでしょうか。生まれたころから実社会と、SNS上の仮想社会の2種類が存在している子供たちにも、どうかいちど読んでもらいたい。
この物語の中では、金のライオンが本の少しの悪意を垂らしただけで、誰も直接の悪事を働きません。しかし事態は坂を転がり落ちるように、不幸へとまっしぐらに進んでいく。その現実感たるや、寓話とは思えないほどです。 

私たちの価値基準とは何か。自分が真実だと思っていることは、果たして本当の真実なのか。情報に振り回されて真実が見えなくなると、あなたは、周囲は、どうなってしまうのか。
この物語の1ページ目はこの言葉から始まります。
「これが全て作り話だと言い切れるだろうか」。
現実社会とのリンクに、ゾッとする一冊。

さて2冊目。今度は王道の『怖い本』です。
岩崎書店の『怪談えほんシリーズ』より、『いるの いないの』by京極夏彦(文)、町田尚子(絵)

おばあさんの古い家で暮らすことになった少年の目線で語られる物語。
古い日本家屋。外は夏の光で白く輝いているのに、ずっと薄暗い部屋の隅。どこにでもいる猫。そして…どうしても感じる、誰かが見ている気配…。 

この『怪談えほんシリーズ』は、子供の大好きな怖い話、不思議な話を通して豊かな想像力を養い、想定外の事態に直面しても平静さを保てる強い心を育み、さらには命の尊さや他者を傷つけることの怖ろしさといった、人として大切なことのイロハを自然に身につけてゆくーーというコンセプト。
私たちが人生で初めて出逢う書物である「絵本」を通じて、良質な本物の怪談の世界に触れてほしい――そんな願いから生まれた当シリーズは、著者からして圧巻。ズラリと日本を代表する怪談文芸や怪奇幻想文学のプロ中のプロたちが、揃って、本気で、子供を怖がらせにかかっています。

京極夏彦の筆力も素晴らしいですが、町田尚子の絵も素晴らしい!
日本の田舎の、空気に含まれる湿度、うっそうと茂った木々のざわめき、耳鳴りと間違うほどの蝉の声…そんなところまで蘇ってきます。 

調子に乗って、「怪談えほんシリーズ」からもう一冊。
『悪い本』by宮部みゆき(文)、吉田尚令(絵)

この本を開くなり、「悪い本」は、あなたに語り掛けてきます。
この世のなかのどこかに存在している「悪い本」。
あなたにいちばん悪いことをおしえてくれるでしょう。
そんな本いらないとおもうでしょう。
でもあなたは悪い本がほしくなります。
きっとほしくなりますーー。

子どもの頃には抱かなかったような、どす黒い闇。それが心に生まれた時に、「悪い本」はすぐそばにいるのです。
子どもの心の中には、まだ生まれていない憎悪の萌芽。誰しもの心に、いつか芽吹く他人への憎しみ、恨み。そこに直接語り掛けてナイフでえぐり出してくるような、「呪い」のような本です。 
いつかきっと、子供たちは気づくでしょう。「あの時の『悪い本』が言っていたのは、この気持ちなのか」と。
そんなに文字数があるわけではないのに、この呪縛。プロってすごいです。さすがの宮部みゆき。そして、そこにぴったりと寄り添う吉田尚令の絵。
怖いのに、目が離せない。読んでる間、息を忘れるほどの絵本です。

さて、児童書、絵本と続いたので、今度は小説をご紹介。
何度読んでも毎回怖い、この一冊です。 
『黒い家』by貴志 祐介

主人公の若槻は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずしてその家の息子の変りはてた姿を目撃してしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、その時の父親の不審な態度に疑問を抱いた若槻は、独自調査に乗り出すが、それは信じられない悪夢の始まりだったーー。

怖い。とにかく怖い。幽霊とかオバケとかなんて目じゃないほど、「人」が怖い物語です。
そして、次々と畳みかけてくるような展開。狂気、戦慄、驚愕、衝撃が最後までみっちり詰まった作品でした。
とにかくリアリティがすごいんですよね。もう20年前の作品なので、テクノロジーが古い世界観ではありますが、そんなこと気にならないほど怖いです。 


と、いうわけで主催者がひたすらお気に入りの『怖い本』を紹介するという不思議な回となってしまいましたが、見学者の方にも「面白そう!」と言って頂けて、ホッと胸をなでおろしたのでした。 

オンライン通話を切った瞬間、ふと真っ暗な画面に映る、肩ごしの人影…が見えたような気がするのは、気のせいでしょうか…(キャーー!! 悲鳴のSE)


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