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日常のステップ#6 Men I Trust (2)

誰と行くか問題

「どこへ行くかよりも、誰と行くかだ」と時に言うけど、この言葉はわりかし本当だと思う。

ファンシーなレストランでの肩が凝る食事会よりも、好きな人とサイゼリアの方が断然幸せだし、
美術館には、隣でウンチクを垂れ続けたりムードをぶち壊す発言を連発する人と行くよりも、一人で行く方が断然いい。

今日のMen I Trustのライブも、一緒に時間と空間を共有した人たちなしには、この経験はなかっただろう。

一緒に行く約束をした友達は、中高大を共にして、この秋からはお互い海外に散っていく、

深い思いやりを持ち、関係性や縁を大事にする。あと海街でよくベーグルを食べる人だ。

その子を待っている間、会場近くでとても素敵な雰囲気を持つ人を見つけた。

チャーミングさが滲み出ていて、群衆の中で珍しく有線のイヤホンをしていた。

突然だが、わたしのモットーは
「素敵な人には素敵って言う、会いたい人は自分から誘う」だ。

自然な流れだったかはわからないけど、声をかけ、一人で来ていたその子と、3人で見ることになった。

後から名前を聞いたら、宇宙という意味を持つ漢字らしい。彼女の少しミステリアスな雰囲気と合っていて素敵だなと思った。

Mei Eharaさん


前座のMei Eharaさんは、まるで甘いタバコみたいな歌声。Winstonのキャスターホワイトを彷彿とさせる。

灰色のトンネルを抜けて、新緑の中を進んでいくのを車窓から眺めるようなような、そんな軽やかなリズムが心地いい。
昼過ぎには落ち込んでいた気分が、サッと晴れていくのを感じた。

Meiさんは、6曲ほど演奏する中で一度もMCを挟まなかった。淡々と演奏し続ける姿に、
「言葉でなく、歌で語る人」なんだと思った。

私たちは、言葉以外にどれほどの伝える方法を持っているだろうか。
言葉だけじゃ、伝えられないことだらけなのに。

Men I Trust


Men I Trustが出てきた。(Men I Trust回第二弾のnoteにして、ようやく)

エレクトロポップやインディーズに分類される彼らの作品は、ビートが効いたポップから、夢に吸い込まれそうなバラードまで、いろんな顔を持っている。

カナダのケベックで育ったメンバーたちは、そこの自然豊かで孤独な環境が、バンドのサウンドに影響していると語っていた。
この田舎のルーツを持つサウンドや歌詞が、都会の孤独に共鳴しているのが面白い。

たとえば、“Always Lone”という曲の中には、こんな歌詞がある。

“I’d rather be the one who got fooled than to have my heart cooled”(心を冷たくするよりは、騙される側になる方がマシ)

深く傷ついた時、心を麻痺させられたらどれだけ楽かと思う。傷つけられた側のみじめさや恥ずかしさから、できることなら逃げたいと思う。

だけど、Men I Trustは、傷つけられる側になることを選ぶと歌う。
この歌詞は、傷ついた人たちに寄り添い、そして彼らの尊厳のようなものを取り戻させてくれる力と覚悟を感じさせるのだ。

会場、その共鳴

ライブでは、演奏もさることながら、照明がとてもいい仕事をしていた。

曲のドリーミーな世界観を際立たせるミラーボールが私たちに光を降らせた時、

「今日は空に見えなかった月はここにいたのか」と、夢現に思った。


そしてふと思う。ライブほど、音楽、ひいては音を楽しむためにある場所はない。
その証拠に、メモにはこう残っていた。

「音が体を流れていく
頭からつまさきまで
流れていって流れていって
その後は全く別の体」

体はただの媒介に過ぎず、有機的で流動的な音が、体をすり抜けて循環していく。

これは音に限らず、すべてのインスピレーション、考えやアイデア、感情、酸素もだと思った。

自分の身体を媒介として、なにを生み出せるのか、がこれからの主題になっていくと思った、そんな夜。

帰り道も例にも漏れず電車を乗り過ごしたけど、降りた駅での踏切の音や、あひるらしき鳴き声が、妙にあやしい夜を演出してくれた。
これもまた一興、だね。

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