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オレの相棒(あいぼう)第4回



「小隊長どのーーー!

   ハチは、どこですか~!」



軍服姿の見慣れない男
が、
東門から、部下たちを
後ろに連れて駆けてきた。


ここは、兵舎内にある草原。
成岡は、古びた木箱に腰を下ろし、
とある方向を指さし、


成岡「ホラッ!
   あそこにいるぞ!」


指さした方向には、
ハチが、ひとり遊びをしていた。
周りには、どの隊員もいない。


汗をハンカチで、ぬぐいながら、
軍服姿の見慣れない男が、
その方向を見る。

成岡が、その男に向かって、
大きな声で叫ぶ。


成岡「亀井軍曹!
   錦(にしき)号は、
   お前の私物犬か?

   軍用犬は、
   その名の通り、
   軍の物だ。

   もしもの事があったら、
   軍に対して、
   お前は、責任を、
   どう取るつもりかね!

   大言は、いつか自分に返って来る!
   
   この言葉を、忘れるなよ。
   ハチが、倒されても、
   オレの私物だから、
   軍には、迷惑をかけんがな!
  
   それを、承知してるのか?」



軍服姿の見慣れない男・・
成岡は、彼を、
”亀井軍曹”
と、呼んだ。


汗を拭き終わった亀井は、
表情一つ変えずに、言葉を返す。


亀井「何をおっしゃるかと思えば・・・

   はいはい。わかっておりますよ。
   ご安心下さい。
   万が一にも、うちの
   錦号が負ける事は、ありません!

   小隊長どの!
   そんな事を、おっしゃって、
   ハチが負けるのが、
   怖いのでは、ないですか。

   ワハッハッハッ!」


亀井は、一笑すると、
指を動かす・・・
すると、後ろから
亀井の部下たちによって、


首輪の両方を、
極太のクサリで
繋がれた大型犬が、
引かれて出現した。


成岡(デカイ・・・
   あれが無敵の錦号か・・
   ・・・ハチ・・大丈夫か・・)


   

   



軍犬「錦号」(AI画伯)



既に、この兵舎内の草原の周りには、
”世紀の決闘”を、見届けようと、
隊中の者が、集まっていた。


成岡(ハチは、長い尻尾の先端まで、
   およそ1.7メートル。
   胴体のみだと、1メートル。

   いくら成長してきたとはいえ、
   まだ”子ども”だ。

   それに比べて、錦号は、
   そのハチより、ひと回りもデカイ。

   
   これじゃあ、
   子ども対大人の決闘じゃ。

   訓練も受け取らんハチが、
   無敵の錦号に、やられ・・・)


離れた先の、ハチを見る成岡。






ハチ(少年期)<AI画伯>



振り向き直し、亀井軍曹の方を向き、


成岡「念を押すが、

   この勝負、

   どっちが勝とうが、

   どっちが負けようが、

   結果がどうあっても、

   一切の泣き言や、恨み言、

   何も言わん事でええな?

   亀井軍曹!」



亀井「もちろんですよ。
   まあ、錦号は、
   負けませんから。

   小隊長どのこそ、
   負けても、
   苦情は、無しですよ。

   さあ、無駄口はいいでしょう。
   始めていいですよね。
   成岡小隊長どの!」


長江の影響を受ける
この地域ならではの、
湿気を帯びた風が、
両者の肌をなでる中・・・

成岡は、無言でうなずいた。



ハチと錦号の決闘が、
開始される前に、
読者には、
やや少し時間をさかのぼって、
説明しなければならない。

この頃、大隊本部に、

「軍用犬班」

が、新設された。
先ほどの、
亀井軍曹を班長として、
猛特訓が、連日、
繰り広げられていた。

その中に、
”無敵”と称されるほど、
どの犬もかなわない、
勇猛なオス犬がいた。

錦号(にしきごう)

である。


班外の人間は、
軍人といえども、
よせつけぬほどの猛犬だ。


本日午後・・・
この亀井軍曹が、
事務室にいた成岡に、
錦号を伴って、来訪した。

ハチが、いるので、
兵舎の外に錦号は、
待たせてある。


亀井「成岡小隊長どの!
   おたくには、
   何でもヒョウの子どもが
   いるそうじゃないですか。

   どうでしょうかね・・
   錦号とケンカさせてみませんか?
   
   まあ、うちの錦号が、
   勝つに、決まってますけどね。」


何も答えない成岡に、
亀井が、更に言葉を続ける、


亀井「あれ?上手く伝わりませんでしたか?

   嫌だな・・・
   ハッキリ言わせないで下さいよ。

   

   うちの錦号に、
   おたくの野獣を、
   ぶちのめさせてやりたいんですよ。」



成岡「なんじゃと!」


亀井「イヤなんですよ・・・
   どこの隊にいっても、
   成岡小隊長が、飼っている
   ヒョウの子どもが強い、強いって。

   ”最強”は、
   うちの錦号だけでいいんですよ。

   ほら。ヒョウの子でも始末すれば、
   更に、錦号の強さは、
   比類なき物と、なるでしょ?」


亀井軍曹の、あまりにも失礼な言動に、
そして、我が子のように大切にしている
ハチに対する侮辱が、
成岡の導火線に、火をつけた。


成岡「ハチと決闘をしたい・・・
   そういうわけじゃな。」


亀井「ええ。決闘を申し込みたいのですよ。
   
   錦号に・・・

   ”ヒョウの子殺し”

   の勲章をあげたいんですよ。」



成岡「単なるケンカじゃなくて、
   どちらかが、死ぬまで、
   命がけの決闘をやらせたい・・

   そういうわけじゃな。
   亀井軍曹!違うか!」



亀井「さすがは、成岡小隊長。
   おわかり頂けたようで・・・。」



成岡「今から、30分後・・
   場所は、兵舎内の草原。
  
   それでええな。
   亀井軍曹!」


亀井「もちろん。
   草原なら、
   観客が集まりそうだ。

   錦号が、ハチに勝利する所を、
   ぜひ、この隊の方々にも、
   お目にかけたいですからな。

   では、30分後。
   あまり時間がないですからな。
   可愛いハチとのお別れを、
   お済ましに、なられると
   よろしいでしょう。
   では、のちほど・・・」


そして、冒頭へとつながる。


この時期におけるハチの、
エピソードを1つ紹介したい。

炊事係の松田上等兵と、
最近は、仲良くしているハチ。

松田は、よく肉片を持って、
ハチの所に遊びに来るので、
彼が来ると、足元に
じゃれついて、よくなついていた。

ある日、松田と一緒に炊事室に行くと、
いつも留守を狙っては、
調理台の上にある肉を食べる
野良猫が、この時も盗み食いをしていた。

それをみたハチは、
そっと猫に近づくと、

”パッ”

と、猫がネズミを獲らえるように、
猫をくわえると、畑に連れて行って、
おもちゃにして遊んでいた。


しばらくして、帰ってくると
松田上等兵が、

「ハチ!よくやったな。
 ごほうびだ。ほれ。」

まな板の肉を、ハチに与えました。
それから、ハチは、
成岡の部屋で飽きると、
炊事室ばかり、行くようになった。

また、違う日には、
炊事室のごみ箱をあさる、
野良犬が2匹いた。

これにも、そっと近づき、
見事、撃退したものだから、
犬猫が、それから近づかなくなって、
炊事係からは、大事にされ、

「衛兵」「衛兵」と、
呼んで、中には、
寝ているハチに、
敬礼する隊員までいたという。

持っている野生が頭角を現し、
わんぱくに拍車をかけていたのが、
最近のハチである。



では、止めていた針を進めたい・・・


亀井「よし!錦号を解き放て!」
   



”ガチャ”


ハチより離れた所で、
錦号は、クサリから
解放された・・・

   

亀井「遊んで来い!錦号!」


亀井のかけ声と共に、
錦号は、ハチに向かって
歩き出して行った・・・


ハチは、相変わらず
ひとり遊びに夢中だった。
錦号は、ハチとの間合いを詰める・・






錦号、動く!




錦号「お前が、ヒョウの子どもか。
   まだまだガキじゃねえか。」


ハチは、声をかけられたので、
草の上に寝転がったまま、
錦号の方を見る。


ハチ「犬のおじさん。
   おじさんは、だあれ?」


錦号「ご主人の命令で、
   お前を殺しに来た犬だ。」


ハチ「ふーん。
   でも、おじさんは、
   ゴミ箱をあさる犬と違うから。
   ボクには、おじさんと、
   戦う理由は、ないよ。」


ハチは、相変わらず寝ころんだまま、
錦号の方をみない。


錦号(・・意外と、失礼なガキだな。
   ご主人の命令とはいえ、
   こんなガキを、始末したって、
   珍しいだけで、強さの証明には
   ならんだろ・・・仕方ねえ)
   


錦号「まだ、お前はガキだ。
   今なら、黙って見逃してやるから、
   腰抜けの飼い主と一緒に、
   尻尾を巻いて逃げるんだな。」



”バシッ!”


錦号が、しゃべり終わる前に、
ハチが、体を起こして、
伏せの体勢になり、
長い尾を、ムチのようにして
地面を叩いた。


ハチ「犬のおじさん!
   ”お父さん”の悪口は、
   ボクが、許さないよ!」


錦号「!?」


一瞬にして、場の空気が
変わった事に錦号は
本能で感じた。


錦号(何だ・・・。
   急に変わった・・・。
   近づけねえ・・。
   何でこんなガキから、
   これほどのプレッシャーが。)


遠くから見ている亀井には、
錦号の心中など分からず、
動かない錦号を見て、
イライラしている・・・


亀井「どうした!
   錦号!!

   かかれ!
   かかれ!」



成岡は、黙って腕組みをしたまま、
両者をじっと見つめたままだった。


錦号(ご主人よ・・
   馬鹿言っちゃいけねえ。

   確実に、今いけば
   このガキに殺される・・

   今回ばかりは、
   ご主人の指示には、
   従えねえな・・・)


ハチ「どうしたの?
   犬のおじさん、
   今なら・・・
   おじさんが、
   帰ってくれれば、
   ボクも、やめるよ。

   だって、おじさんは、
   ”エモノ”じゃないもの。」

   


動物同士の世界にしか分からない、
生命の危機を感じさせる勘に、
錦号は、動けずにいる・・・



錦号「うるせえ!
   ご主人が、お前をヤレと、
   命令されれば、
   オレたち、軍犬は、
   従うしかねえんだよ。

   つまり、オレにとっちゃあ、
   お前は、”エモノ”だ。」


ハチは、あくびをすると、
ゆっくりと、起き上がり、
長い尾を、ヘビのように動かしている。


錦号(持って生まれた”モノ”が違いすぎる・・

   これが、”犬”と”ケモノ”の違いか。

   人間たちは、オレの事を、
 
   ”無敵”と呼んでいたが・・

   あくまでも、”犬の世界”での話だ・・)



隊員たち「ハチ~~~!!
      がんばれ~~~!!」


心の葛藤を続ける錦号の遠く背後で、
第3小隊の隊員たちが、
ハチへ声援を送る。


錦号(生き物としてのオレは、
   絶対にこいつに向かっちゃ
   いけねえって言ってるが、

   軍犬としてのオレは・・・
   こいつと心底、
   持てる力、全てをぶつけて、
   戦ってみたいと
   心の奥から叫んでる・・・)



亀井の部下たち「錦号~~!
        行け~~~~!」


錦号(どんだけ他の犬どもを、
   ぶっ倒そうが・・

   人間たちから、
   ”無敵”だの・・
   ”師団随一”だの・・・

   どんだけ褒められようが・・
   心は、オレの心は・・
   いつも乾いていた・・)


ハチ「犬のおじさん・・・
   早くはじめようよ・・
   ボク、お腹すいちゃった。」


錦号(どうするよぉ・・・
   ”無敵”の錦号さんよ・・)


錦号が、真正面に
ハチを見た。
その瞳の輝きが、
今までとは違う。


ハチ(!?)

ハチも何かを錦号から、
感じた・・・


錦号(決めたぜ!
   
   オレは、軍犬・・・

   オレは・・・

   ”ファイター”だ!

   この勝負・・・

   人間のためでなく・・

   オレは、オレの為に・・

   命を懸けて戦う!)


ハチ「おじさん・・・?」


錦号「ハチって言うんだろ?
   お前の名前・・。」


錦号が、今までと違い
穏やかな表情で、
ハチの名前を突然、
口にした事に、
ハチは驚いた。


ハチ「うん!そうだよ。
   ボクは、ハチ。

   犬のおじさんは・・・
   ”にしきごう”って、
   言うんでしょ?」


錦号「よく覚えたな。
   そうだ。”錦号”だ。

   ハチ、一つだけ、
   おじさんの頼みを聞いてくれるか?」


ハチ「なあに?」


錦号「おじさんは、
   今まで人間の為に、
   戦ってきたけど・・・

   ハチ、お前との戦いは、
   人間の為じゃなくて、
 
   ”オレの為に”闘(たたか)いたい。」


ハチ「・・・・・」


ハチは、首をかしげてる。


錦号「ハチには、難しかったか。
   こう言えば、伝わるか?

     

  ”ハチ!

   

   一切、手加減しないで、

   オレと・・・

   全力で遊んでくれ!” 」

  


ハチ「うん!わかった!
   犬のおじさんと、
   全力で遊ぶよ!」



ハチは、草むらにピッタリと
腹をつけて、錦号をにらみ、
長い尾の先端を、クネクネと、
軽めに動かし始めた。


錦号(いいねえ・・
   この充実感・・・
   求めていたのは、
   これだ・・・・)


錦号の表情が、
”修羅”に変わり、

一気に、ハチとの
間合いを詰めた・・


”ビュ~~~~!”



つい先刻、
成岡と亀井の間を
吹き抜けた、
この地方特有の、
湿気を帯びた風が、

ハチと錦号の間を、
吹き抜けた・・・・




ハチ「おじさん!
   行くよ!!」




錦号「来い!ハチ!」






”ガツン!”










隊員たち「おおおおおお~~~~!!」

   









   



亀井「やったぁ~~~~!!

   錦号よくやったぞ~~~~!!」



亀井の部下たち「さすが、無敵の錦号!!」

  






”バタン!”








ハチ「さよなら、にしきごうのおじさん・・」




勝負は、ハチの強烈な一撃で決まった!



ハチの長い尾が動きを止めた時、
腰を小刻みに、揺り動かし始めた刹那(せつな)、
ハチが、素早く錦号に飛び掛かった。


錦号が、ハッと顔を上げた瞬間・・・


ハチの前足から伸びた
鋭いツメが、

錦号の右顔面に、
猛打(もうだ)した!


その場にいた全員が、
あっけにとられ、
息を飲んで静まり返る中・・


錦号は、無言のまま
仁王立ちになり・・・
ぐるん、ぐるんと、
2,3回転すると、

激しい音をたてて、
地面に横倒しになった。


ハチは、”敗者”となって、
倒れこんだまま動かない
錦号には、目もくれず、
世紀の決闘を観戦していた、
隊員たちの間を駆け抜けて、
どこかへ行ってしまった・・・。




亀井「おい!錦号!
   しっかりしろ!
   錦号!!
        

   錦号~~~~~~!」



亀井軍曹が、真っ青な顔をして、
”無敵”を誇った錦号の側に、
駆け寄ると・・・

既に”絶命”していた。


世紀の決闘は、
一瞬にして終わった。


錦号の最期を、
成岡自身が、
後年の自著で記している。

ここは、成岡が見たままを、
私の手を一切入れずに、
読者に、紹介したい。


私は、後学のため倒れていた
錦号の傷跡をのぞいてみましたが、
打ち込まれた前爪三本は、
ことごとく致命傷であり、


中でも最下部の傷は、
耳の付け根から下顎をえぐり、
首筋の頸動脈を見事に切断しており、
付近の青草をどす黒い血で染めていました。

引用元 全集日本動物誌4 成岡正久著「豹と兵隊」 P189



また、今回の決闘の様子を、
より深く感じて頂くため、

やや長めではあるが、
続けて成岡の自著より、

ヒョウが獲物に襲い掛かる
習性と、軍用犬についても、

書いている部分があるので、
続けて紹介させてもらいたい。



元来、豹(ひょう)は、
非常に敏捷(びんしょう)な
動物であると言われていますが、


どんな時に、敏捷な動作を発揮するのか
と申しますと、獲物に向かって襲いかかる時が、
最も敏捷であり、その他の動作は、
非常に緩慢(かんまん)であります。


もし軍用犬と豹が、競走する事が出来るとすれば、
軍用犬は豹より、遥かに速く走る事が出来ると思います。

しかし高さ三メートルの樹上の鳥を、豹が襲うような時、
その敏捷な動作は、実に電光の早業(はやわざ)であります。


豹は常に獲物に対し、一跳躍(いちちょうやく)により、
完全に倒し得る地点まで接近しますが、
その動作は実に慎重であり、緩慢すぎるほど緩慢であります。

引用元 全集日本動物誌4 成岡正久著「豹と兵隊」 P173




亀井軍曹は、
この件で、
処罰を受けることになる。



軍犬や軍馬は、
敗戦時に置き去りにされ、
そのほとんどは、
日本に戻る事は、
無かったといわれている。


靖國神社には、
軍馬、軍犬、軍鳩を、
慰霊する為の像
が、
建立されている。


戦場に散り、
置き去りにされた
彼ら”戦友”を、

忘れずに偲ぶ事は、
我々、日本人の責務では、
ないだろうか。




軍犬慰霊像(写真AC様)





戦没馬慰霊像(写真AC様)






鳩魂塔(写真AC様)




あれだけの、世紀の決闘を、
こなした後にも関わらず、

夜になると、
いつもと変わらず、
成岡の隣で、
寝息を立てて寝ているハチ。


成岡は、寝いてるハチの前足を、
愛(いと)おしむように、
両手でさすっている。



成岡(昼間の一撃を思い出すと・・
   ゾクっとするわい・・・

   こいつは、”少年”になったばかり。
   それであの力量とは・・・
   ハチには、驚かされたわい。)



成岡は、ハチの前足から手を離すと、
幸せそうな顔をして寝ている
ハチの頭に片手をやって、
何度も、何度もやさしくゆっくりと、
頭をなでながら・・・
   


成岡「それにしても・・・
   本当によかったのお・・

   生きててくれて・・
   ありがとう・・・

   ハチ・・・エラいぞ!
   よくやった・・ハチ!

   スマンかったな・・・
   危険な目に会わせて・・・
   スマンかった・・・

   スマンかったのお・・・
   ハチ・・スマンかったのお・・・」



ハチの頭は、
頭上からたれてくる、
大粒の涙で濡れていた・・・





”ペロッ!”  

 


突如、降って来た大雨に、
起きてしまったハチは、
成岡の特徴的な長い顔を、
ざらざらとした舌で、
やさしく何度も舐めあげる。



成岡「こりゃ、ハチやめんか。
   起こしてしまったか。

   何じゃ?わしを心配してくれるのか?
   大丈夫じゃ、大丈夫。
   アハハハハ。わかった、わかった。
   もう泣かん、泣かんから。」



昼間、強烈な一撃を繰り出した
ハチの前足は、今、
成岡に、優しく抱きついている・・・


成岡「よし!寝よう!寝よう!
   寝るぞ~!ハチ!」


こうして、成岡は、
再び、いつものように、
ハチと寝られる事に、
心の中で、手をあわせながら、
無事、一日を終えた・・・・。

 
  


それから、数週間後の朝・・・





成岡「ハチが、おら~~~~ん!」




松田上等兵「小隊長どの~~~!


      兵舎内をくまなく探しましたが、

      ハチは、どこにもおりませんでした!」




いつもなら、成岡が目を覚ます頃には、
ハチは、兵舎内を一巡して、
隊員たちに、挨拶を済ませて、
部屋に戻って来ているのだったが、

朝食後にも、どうした事か、
この日は、ハチが姿を見せなかった。

不思議に思って、
隊員たちを呼んで
行方を捜すのを、
手伝ってもらったが・・・。


成岡「兵舎周辺も探したが・・・
   おらんのぉ・・・。
   どこに行ったんじゃろうか・・。」


松田「ハチのやつ、
   野生に目覚めて、
   山に帰ったんじゃないでしょうか・・」


成岡(そんな事はない・・・
   ハチが、山に帰るなんて・・
   きっと・・・どこかで・・
   夢中になって、
   遊びほうけているに違いない・・・)



松田「小隊長どの!
   そんな顔せんで下さい!
   もっと遠くまで探しに行きましょう!」


成岡「うん。そうじゃの・・・
   まだ遊びたりんだけじゃよ。
   ・・・・・きっと。」



ハチは、どこに行ってしまったのか?
松田の言った通り、
山に帰ってしまったのだろうか・・・
いや、絶対に、絶対に、
自分のもとに、帰ってくるはずだ。


成岡は、もしかするとこれが、
”ハチとの別れ”
なるかもしれないと・・・


そういった不安が、
頭をよぎりながらも、
絶対に帰って来ると、
信じる自分との葛藤の中、
とにかく、ハチを探しに行くのだった・・・。



<第5回へつづく・・・>




「読者のみなさまへ」


本作品は、
実話を基にしていますが、
会話など脚色を加えてあります。

また、いつもと違い、
連載形式なので、
その都度で、明記する時もありますが、
作品の内容を、順番にお知り頂きたいので、
最終回に、参考文献や参考サイト様など、
まとめて明記したいと思っております。
ご了承下さいませ。





「おまけコーナー」


第4回を、最後までご覧頂きまして、
ありがとうございました。

少しまた補足がございますので、
短く終わらせたいと思っておりますので、
出来ましたら、
お付き合いを、お願いしたいと思います。


今回の、もう一人の主役。
軍犬「錦号」についてですが、
色々と調べたのですが、
犬種について、
明確に記しているものが無く

読者のみなさまが、
すぐにイメージしやすい、
シェパードにさせて頂きました。
ご了承下さい。


それからもう一つ。
読者のみなさまは、
作品中に、私があえて
残しておいた
”矛盾”に、
お気づきになられたでしょうか?



大した事では、ないのですが、

「軍用犬」 

「軍犬」


と、統一されていなくて、
2つの表現が入り混じっていた事に、
お気づきに、なられたでしょうか?

よく疑問に思われる方が多いと、
目にしましたので、
最後におまけで解説したいと思い、
あえて、2つの表記を混じる形にしました。


分かりやすい解説がないかと色々と調べましたら、

木村光生(兵庫県獣医師会)


こちらの木村様が、大変わかりやすく説明されていました。
最後にURLを載せますので、更に深く知りたい方は、
そちらでご覧になって下さい。

結論を先に申しますと、


軍用犬と軍犬は、同じではない。


こちらの方の説明をもとにして、
解説して行きたいと思います。

この違いをですね、
以下のように、人間に例えて説明なされてます。



終戦までは、
日本は、”国民皆兵”で、
我が国でも男子には、
”兵役の義務”があったのを、

みなさまは、ご存知だったでしょうか?


国にとって、日本男子は、

「軍用人間」

こう例えていらして、

その中で、軍籍にある人は、

「軍人」

であったと書いておられて、
これを、犬にあてはめますと、

軍用犬というのは、

シェパードなど軍犬に適する犬種の犬の事。

わかりやすくいえば、
軍事に利用できる犬とでもいいましょうか。

軍犬というのは、
”愛犬家”のもとに預けられ、
その後、軍に配属となるわけですが、

最初から軍に配属されますよって
いうような犬でも、
軍犬に将来なれるように、
育成されるような犬でも、

愛犬家のもとにいる間は、

「軍用犬」

と、呼ばれるというわけです。

ちょっと「?」
と、なってるアナタ様。
大丈夫ですよ。

じゃあ、これなら
わかりやすいですかね。


「軍犬」


実際に、軍務に服していて、
”軍の犬籍簿”
に、登録している犬


こっちをご覧になれば
違いが分かりやすいかと思います。
凄く簡単に言いますと、


軍用犬=まだ準備段階の犬(訓練中)

軍犬=実際に軍に登録して、
   活躍中の犬。


こういった感じでしょうか。
これなら、お分かり頂けたかと思います。

実際には、今回の
成岡さん自身のセリフの中でも、
「軍用犬」と使われていましたのを、

覚えていますでしょうか。


あれは、成岡さん自身が書いた物には、
「軍用犬」とあったので、
そのまま使用しています。


一応ですね、軍としては、
そういう区分けをしていた訳ですが、
軍の方でも、知ってる人は知ってる、
くらいな感じだったみたいで、
知らない人もいたという話ですので。

専門的とか、それに関係している方は、
承知していたみたいですが。
厳密では、なかったようですね。

ですので・・・
我々が通常使用するには、
「軍用犬」で、
大丈夫です。

それとこちらの木村様の記事で、
軍の階級に関して書かれていたので、
最後に紹介して終わりにしたいと思います。


(参考)元帥→大将→中将→少将→(少将以上将軍)
    →大佐→中佐→少佐→大尉→中尉→少尉→(少尉以上将校)
    →准尉(特務曹長)(准士官)→ 曹長 →軍曹
    →伍長(伍長以上曹長まで下士官)→兵長
    →上等兵→一等兵 → 二等兵 →(兵長以下兵)

引用元 木村光生著 「軍用動物の思い出」より一部抜粋 


少しわかりにくので、
階級順を表していた「ー」を
「→」に、変えさせて頂きました。
木村様、申し訳ございません。


亀井軍曹というのが、
出てきましたよね。
上の表をみて頂きますと、

曹長 → 軍曹

となっているのが、
おわかりでしょうか。

成岡さんの自著を読んでいますと、
「成岡曹長」と、
書いてあるので、
成岡さんと亀井軍曹の階級関係は、
そういったもので、あると思います。


本や説明してる
サイトなどによっては、

「成岡軍曹」

と、書いてあるものもあり、
始める時に、分かりづらいと
感じたので、

「成岡小隊長」

で、私は始める事にしました。
読んでくださる、みなさまの方でも、
色々出て来ると、わからなく
なってしまうと思いますので、
小隊長で、私は続けたいと思います。

成岡自身が書いてるので、
この「曹長」というのが、
厳密には、あっていると思います。

軍関係に詳しい方は、
もっと色々とご存知かと思いますが、
それ自体が、作品の主題ではないので、
わかりやすく、行きたいなと思っております。


木村様、大変参考になる記事を、
ありがとうございました。
感謝して、最後に記載したいと思います。



「軍用動物の思い出」 木村光生(兵庫県獣医師会)


さて、今回はここで終わりにしたいと思います。
長々とお付き合い下さいまして、
いつも本当にありがとうございます。


当初は、絵本みたいな雰囲気で、
全5回くらいで終わりにしようと
思っていたのですが、
書き始めたら、そうもいかないみたいです。


いつも何も決めないで、
資料だけ広げて、
キーボードを打ち始めるので、
”その時に、降りて来る物”だけを、
頼りに書いております。


その時によって、
スムーズに行く時はいいのですが、
全然、書けなくて止まってしまう時もあり、
そんな時は、ウトウトとなってしまい・・


そういった時に必ずみる夢は、
参考にしてる本の中に、

「小さなハチを抱いてる成岡さん」の
白黒写真
があるんですが、
もう穴のあくほど見てるせいなのか、

何も言わないで、
写真の中の、成岡さんとハチが、
じっとこちらを見てるんですよね。


「ハッ!いかん!いかん!」


って、起こされて再び書き始めるのですw


「すいません。一生懸命書きます!」


というような、
感じの日々が、
続いておりますw



「私にしか書けない、
  ハチと成岡さんの物語」


で、たくさんの方に、
彼らの事を知って
もらいたいと思っております。

1~3回まで、読んで頂いた回数を
見ますと、凄い人数の方が、
ご覧になって頂けてるんだなあ
と驚いています。


続きを楽しみに待っていて
下さっているのかなと思うと、
より一層、真面目にやらなくてはなと思います。


時間はかかるかと、思いますが、
続きが完成しましたら、
また、お読み頂ければ幸いです。


では、今回もおまけコーナーまで、
お付き合い頂きまして、
ありがとうございました。

では、また第5回で、
お会いしましょう!


さようなら。




懐かしいやら、マニアックな内容やらですが、 もし、よろしければですが、サポートして頂けたら 大変、嬉しく感激です! 頂いたサポートは、あなた様にまた、楽しんで頂ける 記事を書くことで、お礼をしたいと思います。 よろしくお願いします。