髙木監督・peccaさん 往復書簡①
私の幼い頃、身の回りには「手紙」や「メール」に関する歌が溢れていました。「緑のインクで手紙を書けば それはさよならの合図になると誰かが言ってた」なんて歌があって、バレンタインのお礼を緑色のペンで書いてしまい母親に大目玉を喰らったこともあります。あるいは、ポニーテールの素敵な中森明菜に感化されて「元気です 一行だけしたためて ポストへ落と」そうとして、切手がもったいないと父親を困惑させたこともありました。ほかにも八代亜紀の「愛の終着駅」や八神純子「パープル・タウン」など「手紙」や「メール」の歌は枚挙にいとまがありません。
けれど、最近はどうでしょうか。私が現代音楽に疎いこともあるのでしょうが、「手紙」や「メール」という言葉をあまり聞かなくなりました。そしておそらくそれは、SNSに関連した言葉にとって代わられつつあるのではないかという想像(邪推)も日々強くしております。
そしてこれはおそらく歌詞の話だけには限定されず、というよりも歌詞が映し出す私たちの世界においてこそ顕著なことなのではないかという確信も強く持っています。尤も、だからといって私は、現状を憂うつもりも、喝を入れるつもりも全くありません。ただただ、時代はどんどん前へ進んでいくのだなあという嘆声を漏らし、私の邪推もいい加減にせねばと言ってコツンと頭を小突き、そして電子デバイスを使いこなせない者のルサンチマンを胸のうちに飼い馴らすだけのことです。
投壜通信の時代
さて、時代の進歩、文明の利器の席巻と共に、三十一文字(みそひともじ)に詠み込められた「得も言」われぬ奥ゆかしさは、百四十文字以内で声高に呟かれる「エモい」感情の発露へと変わってゆきました。けれど、こっそり文字にして「誰か」に認めたい(したためたい)と思うのは人間の性なのではないでしょうか。まるでアーノルド・ローベルの絵本のように、今日は誰かから手紙が届かないかなあと心待ちにして目を覚ます自分に気づくことがふとあるのです。あるいは、大切で今にも崩れそうなこの思いが胸を渦巻く、これを姿の分からない「みんな」の目には触れさせたくない、でもそっとあの人に届けたいと思うことも。
おそらく、文字数に制限があって、かつあて先が不明の、あたかも投壜通信のようなSNSにはない何かが、そっと「誰か」に宛てられた手紙にはあるのかもしれません。(Marceł ŁozińskiのPoste Restanteという映画を昔ポーランドで観ました。宛先不明で届けられなかった手紙が処分されるまでの流れを追ったものです。クレーンや大きな箱に詰められ、もう二度と「誰か」に届けられることのない手紙たちを見ていると、まるでその封筒の中に詰めこまれ、路頭に迷った誰かの声、匂い、時間、そして生が、死を宣告されてしまったようで悲しみを感じたのを覚えています)
投壜通信のこの時代だからこそ、私はあえて皆さんに、監督と監督が尊敬する方―peccaさん―との間で交わされた往復書簡をご紹介したいと思います。(いま気づきましたが、このnoteも十分投壜通信たりうるわけですね)
この二人の間に立ち現れている「何か」に皆さんも思いを馳せながら読んでみてください。
監督からpeccaさんへ(2021年10月2日)
peccaさま
突然のご連絡失礼致します。
映画「僕とオトウト」監督、京都大学大学院修士課程在学中の髙木佑透です。
この度は映画「僕とオトウト」を観ていただき、可能であれば感想コメント(レビュー)をいただきたく、ご連絡いたしました。
本作は知的障害を持つ弟に私自身がカメラを向けたセルフドキュメンタリーです。
はたして障害をもつ弟とのあいだにコミュニケーションは成立するのか。撮る側と撮られる側双方の成長が刻印された映画です。
私は高校生の頃から(2012年ごろ)からツイッターを使っており、peccaさまのツイートをいつも楽しく読ませていただいております。
peccaさまのTwitterの一人のファンとして昔から読ませてもらっています。
本作はたくさんの視点から語ることができますが、とりわけpeccaさまには、
「人と人はどこまでいっても自と他であることから逃れられない、ただ刹那的につながりあえる時もある、だから人は生きていける…」
そんなところを感じていただけるのではないかなと考えております。
つきましてはpeccaさまに映画「僕とオトウト」(本編48分)を観ていただき、可能であればご感想をお聞かせいただきたく存じます。
お忙しいところ一方的なお願いで大変申し訳ないのですが、何卒ご検討のほどよろしくお願いいたします。
髙木佑透
(編集担当:Linda)
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【上映委員 タレコミ】
夜更けの会議を終えた時、歳に抗えぬ内臓の叫びが木霊する
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劇場公開情報(2021年10月18日現在)
各回上映後、監督&日替わりゲストによるトークセッションを予定しております。お楽しみに!(ゲストに関する情報は公式twitterや公式facebookで発信しております!)
京都 @京都みなみ会館
10/22(金) 19:00~
10/23(土) 15:30~
10/24(日) 15:10~
10/25(月)-10/28(木) 19:00~
※10/29以降も上映予定です(終了日は未定)!
https://kyoto-minamikaikan.jp/movie/12338/
神戸 @元町映画館
10/30(土)-11/5(金) 12:30~
https://www.motoei.com/post_schedule/ ※随時更新
大阪 @シネ・ヌーヴォ
11/6(土)-11/12(金) 13:45~
http://www.cinenouveau.com/sakuhin/bokutootouto.html
「僕とオトウト」公式サイト https://boku-to-otouto.com
お問い合わせ bokutootouto@gmail.com
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