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京都大学前総長 山極壽一先生のレビュー

【感想を送って下さった方】山極壽一先生
京都大学前総長
総合地球環境学研究所所長



髙木佑透さま

このたび、貴君の映画が10月に劇場公開されると聞き、大変うれしく思っています。地方の時代映画祭でも受賞されましたよね。すばらしいご活躍です。

この映画を観て、河瀨直美の最初の作品「につつまれて」を思い出しました。自分でカメラを回しながら、肉親との交渉を通して自分への問いを続けていく。

でも貴君の映画が違うのは、壮真君との関係です。これは兄しか撮れない。重要なのは、自分と体も心もちがう弟は同じ母親の体内から生まれ出てきた存在であり、元は一つだということです。壮真君は君自身なのです。それは、壮真君の態度を見てもわかります。

そして、貴君の映像は壮真君の体験を通じてこの世界を感触する別の方法があったことを気づかせてくれます。自然の息吹を知る感性、食欲、性欲、家族で一緒に食べることのしあわせ。

人間にとって愛する相手の気持ちがわからないことほどさみしいことはありません。それを克服するには、上から目線で働きかけるのではなく、相手と同じ目線に立って自分の言いたいことを伝え続けるしか方法がないことを、この映像は教えてくれます。

風呂にいっしょに入る、写真を一緒に見る、といった共同行為を通じて気持ちは伝わる。そこに言葉は無力です。言葉だけが人間の表現ではないし、社会という見えないルールの中で自分を律することだけが人間の正しい生き方ではない。

壮真君は自身の感性で世界をとらえ、家族を理解し、楽しい自分のあり方を必死に模索している。それをとても強く感じました。

私はゴリラという人間とは違う存在に心身を委ねながら、人間というものを定義しなおそうとしてきました。そこに、ゴリラを愛する気持ちがつのっていく自分を感じています。

貴君にとっては壮真君の存在が人間を見つめる素晴らしい契機になるし、彼を「カワイイ」と思い続けられる気持ちの支えにもなると思います。彼の成長を撮り続けることが、誰にも到達できなかった貴君の素晴らしい財産になることを祈っています。

(編集担当:池田)

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【上映委員 タレコミ】
うえださんは壮真君と誕生日が同じ

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