集中には報酬の提示

集中力など存在しない。
勉強を例にとってみるとテキストを開いたはいいが気づけばメールのチェックに時間を取られていたなんてことがよくある。
まず作業に取り掛かるまでが最初の関門だ。
そこを突破するには自分は難しいことを突破できるのだ、という自己効力感と、やる気を出して気持ちを高めていくモチベーション管理能力が必要になる。
次に待ち受けるのは勉強に意識を向け続けるという試練である。ここでは注意の持続力が求められる。
最後の関門が誘惑だ。スマホ―やゲームといった外的誘惑だけでなくテキストでチンギスハンといった文字をみればそこから連想される記憶が自然と呼び起こされる。
ここではセルフコントロール能力が求められる。
多くの人はこれら一連のプロセスに求められる総合的な能力を集中力と定義している。しかし集中力というのは存在しない。
ここからは集中力の全体像を掴むために獣と調教師を本能と理性を表すものとして比喩的に用いていく。
まず内なる獣には三つの特性がある。一つ目は難しいものを嫌う特性だ。いざという時にエネルギーを温存していないと猛獣に襲われたとき人は息絶えてしまう。現代の高度化したタスクに集中できないのは当然といえば当然のことだろう。
次にあらゆる刺激に反応する特性だ。なかでも五感に訴えるものは優先的に意識が切り替わるようにプログラムされている。
最後にパワーが強いだ。一旦獣に乗っ取られてしまえば操り人形の如くなすすべがない。

一方、調教師は進化の過程で獣に対応する三つの特性を獲得した。
一つが論理性を武器に使うという事。勉強している最中にスマホから通知がきてもすぐに見ないといった選択をすることができる。その行動によって集中力が途切れてしまうと論理的に考えることが出来るからだ。
次にエネルギーの消費量が多いという事だ。獣の思考はほとんどエネルギーを消費しない。
一方、調教師の働きは脳に莫大な負荷をかけ多くのエネルギーを使う。複数の情報を鑑みて判断するのだから当然のことだ。
最後の三つめはパワーが弱いということだ。獣に立ち向かうためには多大なエネルギーを使う必要がある。

集中力の向上に近道なし
獣と調教師の関係から導き出される教訓が三つある。
一つは調教師は獣には勝てないという事だ。戦闘力の差は歴然なので小手先のテクニックは意味を成さない。
第一の教訓から導き出される第二の教訓は集中が得意な人など存在しない、だ。注意のコントロールが得意な人は存在するが、獣と調教師の鬩ぎ合いは誰にでも存在し、避けることはできない。
第三の教訓は獣を導けば莫大なパワーを発揮できる、だ。調教師の合理性を生かしつつ獣の莫大なパワーを利用知れば莫大なパワーを得られる。
私たちにできることはただ一つ。獣との正しい付き合いを身に着け、持ち前のパワーを引き出してあげることだ。獣と戦うのではなくその力を有効に生かす方法を探ろう。

やばい集中力の基本となるものが食事である。
最も手軽に実践できるものはカフェインを取ることだ。150-200gのカフェインを取ると疲れを感じにくくなり、集中力の持続期間が長くなることが分かっている。
ただし、カフェインは脳への作用が強く摂取の仕方しだいで効果は半減する。
過剰にとり過ぎないこと、起床後90分以内は少なくとも摂取しないこと。

カフェインはあくまでブースターに使うものとして、正しい食事はやはり欠かせない。
野菜やフルーツ、魚介類、オリーブオイルなどをたっぷり食べ、ファストフードやインスタント食品を徹底的に避ける食事法である。体調の改善はもちろん、脳機能の改善にも効果が認められている。
脳にいい食事を続ける3つのルール「MIND」が紹介される。それは、(1)脳に良い食品を増やし、(2)脳に悪い食品を減らし、(3)カロリー制限をしないというものだ。脳に良い全粒穀物や葉物野菜、ナッツ類などを積極的に取り入れ、脳に悪いスナック類や揚げ物、ファストフードはできるだけ減らすようにする。臨床テストでは「MIND」実践後、約4〜8週間で脳機能の改善が見られた。脳を変える食事習慣を身につけるには、「食事日記」が効果的だ。獣は抽象的な指示や長期的ゴールを苦手とするため、記録の回数が多いほど進捗状況が明確になり、継続しやすくなる。

獣をコントロールする目標設定の奥義。報酬の予感で獣を制する。
並はずれの集中力はカジノやゲームにも共通している。
クリエイターたちは報酬をいかに提示するかを徹底的に研究した。本当に大事なのは報酬そのものではなくニアミス感とスピード感である。あと少しの積み重ねがカジノやゲームの長期滞在に繋がっていく。
報酬の予感を制するものは獣=没頭を制するのだ。
集中力が続かない二大要因は不毛タスクと、難易度エラーである。
意義が分からなかったり、いきなり難しすぎる課題が設定してあれば必然的にモチベーションは低下する。
マイ儀式で集中力を上げることもできる。マイ儀式の内容は、無意味なものでかまわない。ただし、「この動作をしたら大事な作業に取り組む」と決めたら、その手順を何度もくり返すことが重要だ。

食事や睡眠など食生活を正して脳機能を正常化させるのは勿論のこと、子供のころのゲームのように我々が目の前の作業に没頭するには報酬の提示が重要なのだ。
「疲れた、もうやめようかな」と思ったときには、将来的に受けることになる報酬を想像してみよう。やる気がみなぎるはずである。

もっと大局的に見て何かを実現するまでフロー状態に入るというのもどうだろうか。男性の行動原理は9割が性欲である。美女を抱くまで俺は努力を止めないと考えれば休憩している時間などないはずだ。最初は短絡的で注意力も散漫になってしまうかもしれないが究極的には長期にわたってゾーンに入ることができるようになるかもしれない。

ショックを受けて魂を売ったように何かに没頭してしまうような人がたまにいる。あれを人為的に起こせれば大したものだ。勿論、意図的に起こしたものは自然なものには勝てないかもしれないが普通の状態より圧倒的な生産性を誇ることができるだろう。

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