見出し画像

これからの「評価」~改定された「高等学校学習指導要領」の実施を睨んで~(まとめ)

○評価をどうしていくのか

 来年度の新しい学習指導要領に則った指導の実施により、高校においても三観点による「観点別評価」が始まります。そこで、この全面実施に向けてどのように進めていくことが考えられるのか、実際の先進的な学校の様子を交えながら私見を述べていきます。

○「指導と評価の一体化」といわれるけれど

 本題に入る前に……今回の改定の議論の中で「指導と評価の一体化」ということが言われてきました。それに対して、「指導と評価が一体なのは当然である」という声も聞こえています。ここにはどのような意味があるのでしょうか。

 従来の高等学校の多くの教科科目においては、「授業(指導)は授業(指導)、評価は筆記テストで行う」という形のものが多かったと思われます。むしろ、多くの学校、多くの教科・科目において、その形式がほぼ全てと言ってもいいかもしれません。そして、それこそが、最も公平性が担保される方法であり、次の進路(主に大学受験)へ向けて役に立つものと考えられてきたということなのでしょう。また、今でも多くの方々にそのようにとらえられているのかもしれません。

○「評価」という言葉の定義の曖昧さ

 ここで、本来であれば、まず「評価」という言葉の定義をはっきりとさせる必要があるのかもしれません。特に、「評価」は広く多くの場面で使われますが、私たちが従来から出してきた最終的な数字的「評価」はあくまでも「評定」であり、全体として「評価」という用語を用いるのは適切ではないことは多くの方が認識されていることと思います。ここでは、そこのことは分かっている前提で、一般的に用いられている「評価」を使っていきます。

○長期的ルーブリックとカリキュラムマネジメント

 従来、授業などで継続的に教えてきたことの定着を「定期考査」で測るという形がほぼすべてになってきました。いま、この中で、「これからの社会で生きていくために必要な力(資質・能力)は何なのか」ということを真剣に考えることから、学習内容や指導方法の再考が求められています。そして、そこに、一貫した指導目標と指導実践の一致を目指すことが含まれているのだと考えられます。そこで、最も現実的であり実際に動き出しているところもあるのが、学校内、教科内での「長期的ルーブリック」作成とそれに従った指導の推進です。これは、当に新学習指導要領の作成の中でも一つの大きなテーマとして挙げられてきたカリキュラムマネジメントの考え方にも適合しています。

【本来あるべき姿】

(目的→)目標→(左に合わせたルーブリック)→評価→(=)指導(方法、内容)                    ≪逆向き設計≫

○教育の目的、そして教育の目標

 教育の目的って何なのでしょうか。変な言い方かもしれませんが、そして、当たり前のことでもありますが、最終的には、「これからを生きる人たちが幸せに生きることを目指すこと」なのだと思います。では、そこに向けての教育目標は何でしょうか。

 私たち教員は、「教育目標に沿って指導し、指導したことを評価する」ことが求められています。そして、そこで各教科や科目が出てきます。そこに、今回の指導要領で強く押し出されているのが各教科における「見方」「考え方」です。学習内容としては、ここがとても大切であると感じています。

 評価に関して、重要なことは、「指導内容と評価内容に齟齬がない」ということでしょう。私たちが育成したい力(資質・能力)は何なのか、そこを精査し、ルーブリックという形で具体的に提示して、進む方向を示す形で「学びの方向性」を明示することが、生徒の学びを促し、さらにひとり一人の「学び方」を育成し、これこそが学び続けなければいけない今の時代に最も役に立つ個人個人の「学習方略」を形作ることに結びつくことでしょう。

 例えば、ぼく自身であれば課題発見(発想性)すること、協働や協力すること(つまりいっしょにやる力やつながる力)、そのための表現力というようなことをこれから最も大切な力(資質・能力)と捉えています。そうなるとここを長期的ルーブリックの中にどのように組み込んでいくかが重要となります。

○「評価」=形成的評価と考える

 「学習」評価の本来の目的は、今まで学んできたことをまとめて総括することと言い切っていいのでしょうか。それで終わりでいいのでしょうか。評価は、学習プロセスにおいて評価し、学んでいる本人にとっては学びや学習を自分で調整していく目安、また指導する側としては指導を調整していく手段として使うものではないかと思います。つまり、「これで終わり」ではなく、「これからに生かす」ものでしょう。途中で躓きを克服して高い習慣に至るように進めていくものだと考えられます。

 そこで、従来の筆記試験などによる教員による一方的な評価だけではなく、自己評価と(教員以外の)他者評価を入れることが適切であるという方向で考えられるようになります。さまざまな見方があり、いろいろな評価ができる…このことは私たち教員にもとてもいい学びになり、視野が広がります。当に多様性にこたえられる教員となる機会を与えられる機会ともなります。

○「インフォームド・アセスメント」

 成績について説明責任が求められていることは私たちにとって大きな負担であることは否定できません。ただし、仕事と考えればそれもある意味当然のことでもあります。そこは覚悟の上で行うことでもあります。

 ここで、もっと重要なことは、「事前にどういうことで評価されるのか」を示すことであると考えます。そのことは、「学びの方向性を示す」ことにもなり、それがひとり一人の生涯にわたって使うことができる「学習方略の確立」に結びつくことなのです。だからこそ、私たち教員ひとり一人が非常に大きな責任をもつとともにこの仕事の価値をつくっているものと思われます。このことから、私たちひとり一人に確固たる学習観・教育観が求められています。

○「評価」の「影響力」の大きさを意識しよう

従来のように、これが、筆記試験というもので評価されるとなれば、評価を受ける側としては、そこに意識を集中します。そして、「その評価されるもの」「評価される力」を伸ばそうとそこに力を注ぎます。「これが出る」となればそこを覚えたり、その方法を身につけようとしたり努力します。そして、多くの人がそのこと自身を学びの中心であり本質であると捉えていくようになるでしょう。実際、現状がそのような状況であると感じられます。

例えば、求められている資質・能力として、「思考力・判断力・表現力」が取り上げられています。しかし、それを試し評価する試験において、思考力と言いながら、解き方や考え方の「暗記を促す」ような試験になっていないでしょうか。そこのところは充分に精査する必要があるものと思われます。

○「評価」の難しいところ

この中で、未だに「総括的評価」こそが評価であるとかたくなに信じている人がいらっしゃいます。また、評価される側も、そのような評価をされることに「喜び」を感じている面があるのかもしれません。評価される側がそれこそが「評価」であると信じている人が多いとも感じられます。このような状況の中では「評価」の形成的な役割があまり期待できないと考えられます。

○「大学入試」を強く意識した結果

未だに相対的評価の要素が入っている評価規準をもっているところ(学校)があります。また、そうでなくとも、個人的にそのようなお考えをお持ちの先生方も少なくないのかもしれません。そこには大学からどのようにみられているのかという、大学からの「評価」を気にされている面が大きいと感じられます。校内における成績評価(評定)にインフレが起き、当該学校の評価が信頼されなくなってしまうことを恐れているようです。つまり、(大学)入試へ向けて、「実質上の相対評価(評定)」が求められていると思っているようです。大学合格実績の総数を増やすことに意識がいっているということなのでしょうか。これは、生徒個人個人のことを考える教育において重要なことなのでしょうか。その結果として、それが生徒たちの「こころ」に影響を与えている可能性が高いのです(そのような学校では、現にそのような生徒の発言を聞きます)。

○「目標―内容―方法―評価の一体化」

教科として、あるいはそれを超えて教科横断的なものを作成していく工夫がされているケース(学校)が見られるようになってきました。ぼく自身は、個人的にその場面場面における個々のルーブリックを作成してきましたが、話し合い議論しながら三年間を通じて考えられた教科(科目)「長期的ルーブリック」(あるいはさらに広い教科横断的、その学校教育全体の)ルーブリックを作成することは、その学校の教育目標と「指導と評価」の整合性が図られ、ほんとうの意味での「指導と評価の一体化」を目指すためには肝要なことです。まだ上記のような試みができない場合は、個人的に作成することもやむを得ませんが、作成したものを教科内の先生や心ある有志の中に広げてそれをもとに議論し、周りにじっくりと浸透させていくことが望ましいと考えています。そして、同じ教員仲間で、教科、学校、さらに校種、立場を超えて、教育全体のため、次の世代の幸せのために、少しでも貢献していけるように努めていきたいと考えています。もちろん、このように進めていくことにより、私たち自身の仕事に対するやる気と満足感も高まっていくことと思います。いっしょに学んでいきませんか。

○追記

必要に応じて、令和元年6月発行の国立教育政策研究所『学習評価の在り方ハンドブック(高等学校編)』及びこの8月に出された『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(高等学校編)』を参照できます。後者には、具体的な例が掲載されています。ただ、注意いただきたいのは、具体的なものをみてしまうとそこに縛られてしまう可能性があるということです。まずは学校内や個人で考えていくことが大切ではないかと考えます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?