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【短編小説】彼岸花


路肩に彼岸花が咲いていた。

バスに揺られながら、刈り取られた田と、ガードレールの脇に点々と群生する赤を眺める。窓ガラス越しの陽は暖かった。眩しくて目を閉じた、その瞼にも陽の光を感じる。


荷物を抱え直す。眠って回復したい。温かな日差しに、溶けて紛れたい。
全てを駄目にしてしまいたかった。全てを手遅れにして、諦めて、暗いところでひとり息をしたかった。

温かな日差しが、頬をじんわりと侵食する。それでも僕は、まだなくならない。輪郭はまだ、溶け切らない。
それが何故だか、少し残念に思えた。




路肩に彼岸花が咲いていた。僕の血は、あんなふうに赤いだろうか。あんな風に鮮明に、世界に存在しているだろうか。


まどろみの中で、あの赤に溶け込む夢を見たような気がした。





***

後書き

またちょっと学科の子イメージして書いてみました。世界にもみくちゃにされながら、どうにか歩いてる子。
僕は元気です。

彼岸花のぱきっとしたあの発色の良さは、なんだか不気味に見えることもあれば、綺麗な彩りとなって秋を鮮やかに変えもする。この子はきっとまた日々を乗り越えていくのだろうと思います。うたた寝して回復してこうね。

僕も昼寝常習犯です。
涼しくなってきて、お昼寝日和が続いています。

最後まで読んでくださりありがとうございます。読んでくださったあなたの夜を掬う、言葉や音楽が、この世界のどこかにありますように。明日に明るい色があることを願います。どうか、良い一日を。