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言わずもガーナ_47_お祝いしようなpensioner

彼の名前はコジョ。
ぼくの学校のスクールドライバー。
初老を迎えた気のいいおじさんである。

コジョは坂道の多いこのケープコーストの街中を、年代物のトヨタ・コースターを巧みに操縦して生徒を送迎する。
それが終わると校門前で休憩し、出勤するぼくを待ち構えるのが彼のルーティンとなった。

ぼく「グッモーニン」
コジョ「ファンティ語で言え」
ぼく「えーと・・・ mema wo akye」

実際、街の人たちも基本的な挨拶は英語でするほうが多いのだが、彼はぼくにファンティ語を使わせたがる。

コジョ「『米』はファンティ語で何だ?」
ぼく「Emoだね」
コジョ「じゃあ『豆』は?」
ぼく「Eduwa」
コジョ「グッド。お前もだいぶガーナに慣れてきたな」

運転の仕事はもっぱら朝夕、通いの生徒の登下校や課外活動の送迎に限られているから、日中のコジョはけっこう暇である。

コジョ「なあクワメ(彼はぼくのことをこう呼ぶ、土曜日生まれの男性につけられるあだ名)」
ぼく「なんだい」
コジョ「お前の国にもlotteryはあるのか?」
ぼく「あー、ロト6とか、何とかジャンボとかあるよ」
コジョ「おおっ。一口買うことはできるか? 金が必要なんだ」
ぼく「いやー、まず当たんないと思うけど」
コジョ「いいから」
ぼく「あ、日本国外からの購入は禁止だって。真面目に働きや」

こんな風な日常がゆるやかに続いていた。

ある日、コジョが管理棟の教頭室から出てきてぼくと目があった。

「実は今日で定年なんだ」

コジョはPTAの寄付で学校が購入したバスの運転手になって以来、正門横の小屋で寝泊まりしてきた。
今年度で定年を迎え、年金生活に入るとは聞いていたが、いざその日が来ると言葉が出なくなってしまう。

「国から年金貰いながら、少しずつ養鶏に手を出してみるよ」
「・・・寂しくなるね」

定年後、養鶏を始めたいという考えも以前に聞いたことがある。
ヒヨコを買ってきて、育てて、それでどのくらい年金の足しになるのだろう。
もしもそれほど儲かるものでなかったとしても、彼の老後を豊かにしてくれる仕事だといいなと思う。

たまには学校に顔を出してくれると嬉しい。

数日後、校内を歩いていると草むらからガサゴソと音が聞こえてきた。
草むらの中では少し痩せぎみの子豚が数匹、えさをさがして鼻を鳴らしている。

なんで校内で子豚が歩き回っているのだ?

「コジョ! 退職したんじゃなかったの」
「退職したから養豚を始めたんだ。鶏より儲かるらしい。クワメ、豚肉は好きか?」

クリスマス休暇に入り閑散とした学校を、コジョと子豚たちが今日も元気に闊歩している。

「アフィシャパ!━━Merry Christmas━━」
と彼は言った。


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