(12)喋りも食べもしない口はどうなるか

ベッドの中で「あ・い・う・え・お」

手術後、ベッドで横になっているしかなかったとき、ふとリハビリが要るのは脚だけではないかも?と思い立つ。看護師さんと会話を交わすのにも、ぼそぼそとしか話せないのが気になっていたので、声を出さずに口を大きく開けて、「あ・い・う・え・お」と動かしてみた。

すると最初の「あ」でいきなり口の端が切れた。まじか! それに思うよりも口が大きく開かない。やばい。

これがあって、顔、首、指など、思いつくところをなるべくいろいろ動かすようにしていた。とくに50音の暗唱は日課にしていた。口の端の傷は唇用のプロペトを塗って数日過ごしていたら治まったけど。

入院中の口腔ケア

手術後の絶食中は点滴で最低限の水分を入れていたのだが、それ以外にもお水かお茶を飲んでくださいねと看護師さんから言われていた。お腹のドレーンが外れると同時に尿道カテーテルがとれた。すると頻繁にトイレに行くようになった。水分とりすぎじゃないかしら。でも看護師さん曰く、口から水分をとるのが身体にとっては自然なことだから、なるべくやったほうがいいとのこと。

あとは1日3回の歯磨き。食事をしていなくても、ずっと口を閉じていると菌が繁殖するからと、必ず磨いていた。

そんなふうにしていても、舌が真っ白になった。分厚い舌苔がひび割れて、見たことない状態の舌になった。看護師さんも術後5日目ぐらいに舌を見せてくださいとおっしゃって、舌が白くなっているから軽く舌も磨いてくださいとのこと。舌ブラシなんて持ってきていなかったので、普通の歯ブラシで軽くなでるようにしてみる。おええ、痛いし嗚咽が出そうになる。そのくせ舌苔はびくともしない。まあ、やらないよりもマシという程度。

なかば諦めていたのだが、絶食が終わって食事が始まると舌の状態は自然に戻っていった。野菜の繊維など食べ物が通過していくことが舌苔ケアになっているらしい。普段何気なくやっていることが、身体のバランスを絶妙に保っているのだ。これも絶食がなかったら実感できなかったこと。

食事がとれるようになったら点滴が外れて、トイレの頻度も通常ペースに戻っていった。

飲める。歩ける。自分でトイレに行ける。食べられる。いったんお預けになっていた自分の身体の働きがどんどん戻ってくる。その中には「あー」と大口開けられる、まっ白になった舌が元に戻るといった細かい回復がたくさんあった。入院中は暇なものだから、そういうことをいちいち喜んで励みにしていた。

次回は退院日の決定や、精算時の金額などについて書こうと思います。

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