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風化の美学 〜空間の素材〜

ぼくの目は、いつの間にか千住のまちのシワばかり気になっていた。

「いつまでも若く見られたい」

若さに固執する姿は美しくない、と思う。最高齢現役モデルのカルメン・デロリフィチェは、加齢(エイジング)もファッションも自分のスタイルに変えている。その姿を見て、多くの人は美しいと思う。

まちも同じである。まちの空間に時が刻まれている姿は、人々を魅了する。わびさびの文化をもつ日本人であれば敏感であるはず。例えば、欧州の国々へ旅行して、その街並みに感じる美しさだってその類。表層的な街並みにだけでなく、日本にあるものと同じ、空間がもつ本質的な部分への共感。風化の美学。

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まちにアンチエイジングがあるとすれば何だろう?ボトックス注射のように、まちのシワを伸ばすもの。きっとそれは、プラスチックのようにエイジングを付加価値にすることが苦手な素材ではないか。使い捨てされやすい素材。海のマイクロプラスチックが環境問題になるように、時間が解決することがない、自然のシステムに抗う異物。もし、まちがそんな素材に支配されたらどうなるんだろう。きっと古いSF映画を見たときのような違和感があるかもしれない。新しくも古くもないものになってしまう。

木材、石、鉄、革など自然素材であれば手入れが必要になる。職人たちの技術や知恵でつくられて、日常の掃除や補修など多くの人の手が加えられていく。微細なレベルで少しずつカタチを変えていく。時を重ねることで唯一無二のまちの部分になっていく。自分らしく老化することは、むしろ表現であり、最大の魅力である。

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