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遠足とコーヒーと靴下

  眼が覚めると、胸がぐっと締め付けられる。「今日は日曜日なんだよ。」と、三回ゆっくりに言い聞かせて少しホッとする。頭の中では、郵便の返事やら、作品をどうしたらいのか、エクセルの画面、そしてネットの特価品のイメージまでいくつもの異なる種類のものが轟々と流れてゆく。
ほんのすこしの間だけ、何も考えずに起きることができた。

日曜日だから、安息日だからと、水を飲んで一息つく。友人の個展が、今日までだったことに気づく。今日の予定を昨晩立てていたことに気づく。昼の2時から、オンラインで聴きたい講演会がある。それまでに行って帰ってこよう、早起きしようと布団をかぶった昨晩。

時刻は九時だった。身支度に少なくても40分はかかる今日この頃、のそりと着替えて、とにかく駅に向かうことだけ考えた。新品のイヤホンを持っていけば、どこでも聞くことができるじゃないか。と、思うとささっと自転車に乗って最寄りの駅に向かった。目指すは二上山駅。

鶴橋駅で乗り換えて、さていつもと違うホームで電車を待つ。準急が来たのでそれに乗ると、人は少なく暖かい日差しで窓の外はモコモコした紅葉の丘が続く。途中からは各駅停車になり、1時間ほどで二上山駅に着く。

静かな町。その駅前に、カウンターだけのコーヒーショップが一件あって良い香りがしている。バリスタさんが独立して開いたお店のようだ。展示場所は、コーヒーショップ内の奥の部屋と、向かいの小さな一軒家を改装したスペースだった。山に登るのが好きな作家とスペースがよく似合っている。常連の若いお客さんで狭いお店はすぐいっぱいになった。キャラメルラテを注文して、久しぶりにコクのある美味しい飲み物を味わう。

お土産に、お店にあったウールの靴下をつい買ってしまう。靴下は奈良の特産品で、新しいメーカーのもの。ご縁のある広陵町にあるという。帰りは駅に若いご家族、学生たちがホームで電車を待っていた。すこしホッとする。鶴橋かなと慌てて降りそうになったら、まだ河内国分だった。

近かった小学校以来の二上山。

昼下がりから、美術の講演を聴いて気がつけば夕餉の時間。


2021年12月5日 筆

©️松井智惠



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