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コジャレター「視覚について」


 私は近づかないと見れない美術家です。視力検査では、ばかでかい欠けた輪っかの絵を持ったお姉さんがずんずん近づいて来てくれます。それで離れて見る美術家にもなれるようにレンズを使って視力を矯正しています。
 左右の視力が共に〇・一を下回った頃からレンズ越しの世界と裸眼の世界との落差が、がぜん大きくなりました。全くレンズなしで絵を描いていた事はすっかり忘れてしまいました。今は作品を作るときにレンズを外すことはできません。

 時々思います。「まず矯正された視覚作品にしとかんとコミュニケーションでけへんしな。」と。そんな自分の作品もいったんレンズを外して見ると一気にボワボワの世界になってしまいますが。でもよく見えない世界も大切にしたいので私はレンズごしの世界と裸眼の世界とを擦り合わせるように体験的なインスタレーションを作ります。
 私の本当の基盤はよく見えない世界の方かも知れませんしね。

©松井智惠     1994 7月11日筆 
ぴあ関西版 No.287 1994年8月9日号193P  

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