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記憶

大学2年の時分。全休日の深夜1時。

早朝から万年床で惰眠を貪っていた私に友から電話が入った。どうやらバイト先の女性に酷く振られてしまったらしい。

大学時代の私は大変ノリが良い性格だった。
が、何よりも誰よりも惰眠を愛していた。
ので、正直言って面倒くさかった。

私は眠たい頭をもたげながら煙草に火をつけ可能な限り時間をかけて彼の住むアパートへと向かった。

アパートに着くと、彼は車に乗り込んでおりアパート前で待機していた。私に助手席へ乗るよう促して "海に行くぞ" とひと言だけ。

私は道中のコンビニで買った濃いめのコーヒーを啜り鈍くなった頭を無理矢理覚醒させる。車のオーディオでブランキーの海を探すを流してあげた。(めちゃくちゃ粋な選曲)

車内では、彼の悲劇的な事の顛末が語られるが聞いている振りだけして外の景色を眺めていた。海岸線に近づくにつれて疎らになる建物。

これが最後のコンビニじゃないかと私は指摘する。
そこで各々買い出しをすることにした。

私は素面ではやってられないとストロング系の酎ハイ数本とミネラルウォーターを買った。彼もなんか適当に買っていた様だった。

その後、十数分車を走らせるといつもの砂浜に着く。駐車スペースに車を停めてから、ちょっとした石階段を上り、そこからまた丘を下ると海が見えてくる。

周りには建物もなく街路灯もなくその日は月も出ていない星だけが微かに光っていた。真の暗闇に包まれており彼がどんな表情をしているのかは分からない。

終いに彼は振られた女性の名前を海に向かって大声で叫び始めてしまった。

本格的にやってられない状態になったので、私は1本目の酎ハイを開けて煙草に火をつけた。

波打ち際から戻ってきたハートブロークンな彼の手には缶ビールが握られていた。はて?

私の言い分としては彼の車なのだから彼が運転して帰るのは当然だと思っていた。彼の言い分としては傷心中なんだから気を遣って帰りは運転してくれるものだと思っていた。

意見が食い違う2人は諦めて飲み明かすことにした。

彼はあろうことがボトルでお酒を買ってきており、ラッパ飲みをして早々に倒れるように眠った。私はチビチビと酎ハイをやっていたので、隣で眠る彼を尻目に夜の海の寄せては返す波の様子を眺めていた。

真の暗闇の中での星空の綺麗さ、濡れた黒色をした海の美しさ、心地良い波の音、そこにひとりきりの私…とはならずに友の大きないびきが響き渡る。

全くもって様にならない。

しかし、この構図はノッキン・オン・ヘブンズ・ドアのルディとマーチンみたいだなとひとり感じてエモい気分になりながら煙草を吹かした。

酒もなくなった頃、ズキズキと痛み出した頭を抱えながら失恋の亡骸から車のキーを拝借して、私はその場を後にして彼の車で眠った。

明け方、外が冷えてきたので車の中にあった新聞紙を彼に掛けてきた。そして、私は車に戻ってブルゾンのジッパーを首元まできつく閉めて再び眠った。それが我らの友情。

そして、太陽が頭上に昇った頃。

2人は無言のままに家まで帰った。

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