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あかるさとくらさ

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どっちもあることをめざして作った詩
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かるく存在する

かるく存在する

おはよう、悲しみ
ぼくはちょっと気持ちがよくて
澄みわたる動物になった
恋人たちはするりと別れて
柘榴はポロポロと溢れようとする

こんにちは、無常
見えないものがきこえたら
どんどんおそろしくなっていく
目の前から気配がなくなってしまうと
心音、あなたは誰だ

こんばんは、不能
ずっと夜明け前の穴から見つめている
モダンな脱線のせいで
人の話が聞こえない
人の話が聞こえない
海容でも、なんか、難

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これは回線ではありません

これは回線ではありません

彼は空洞でした
彼女も空洞でした
ライラックが咲いているよ
いろんな意味で咲いているよ

中くらいの波紋で参加します
きっとあなたを忘れません、と
本物には唾を塗りたくりました
(あなたはもう死んでしまったから)

彼は空洞でした
彼女も空洞でした
なんか臓器みたいだよ
たまに壊れたりもするよ

家の方角に集中しています
われものを投げながら走ります
われものを落として泣きます
家では芋たちが芽を

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善良なくだもの

善良なくだもの

うれしい
左かもしれない
右かもしれない

「はい」は唸る
全体のほとりが旋回する
旋回して、
ばらばらに飛びたち
まだないものを
噛みしめるようにして
たまに唸る(こんにちは)

おもちゃみたいな雨は短命
すっかり忘れていた
実りすりへり
ぴょんと跳ねる体調
リネンなどの質感で
隣人がやってくる
よりよい不安とやってくる

マネキンがぴゅーぴゅー鳴いている
誕生石のはじける青春
ようやくひとつ目

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Oll Korrect

Oll Korrect

色々と解釈されてよろこぶ世界
残酷さは無垢の証か、それともーー
否定と肯定は朝を巡礼し
また戻ってくる、ここへ

響くものの哀れに
最後まで寄り添っていられたら
母胎によって降りかかる白夜
あの言葉を幾度となく反芻する月

跋扈する不安の綿どもに
重力の血を与える
判然としない並木のある街路
なにものも正確ということはなかった

異論する嵐のあとの逆流
天誅、ないしは突沸ほどの
秩序、安寧、静謐、

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あたらしいふるさと

あたらしいふるさと

愛、そしてひとしずくの詩情が
ぼくの血液の匂いを変える
すべてのみどりが集まる島で
宇宙のおもて面の色を想像する
うらのないおもてなしが
いまにもぼくのうらがわを形づくってゆく

色、そしてはじまり続ける冒険が
ぼくの血液の匂いを変える
可愛い背中で層をなす雲たちは
それぞれのペースで歩み
雨はコンクリートにしみ込み
地中深くを濡らす
青とピンクの遷移する空間での酩酊

夜、そして沈黙する自然の狂

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白の実践

白の実践

 光の粒で汚れてゆく窓辺で、ぼくは温められていました。朝の汀の太陽は、石の上にちいさな光を映して飛び跳ねているようであり、それでいて、じりじりとぼくの細胞を詰問していくようでもありました。斜向かいで揺れている梔子は黙していて、ほんの少しだけ哀しみの匂いがします。その向こう、揺らめく木陰の下できみは、清浄な水色のハンカチを振って、ぼくを呼んでいました。

 さらさらとしたぬくもりの中でぼくは、この目

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鏡

おなじだね
ぼくが笑うときみも笑う
ぼくが怒るときみも怒る

おなじだね
ぼくはぼくのようだし
きみたちもぼくのようだ

おなじだね
まなざしはぜんぶぼくがもらうよ
ぼくたちは生まれながらの盗っ人だからね

おなじだね
ごめんね 見えないけど苦しいよね
それもぼくがもらえたらいいのに

おなじじゃないところ
きみの指先はきれいだ
かわいい服をきて遊んでいる
それからぼくよりもずっとやさしい
ーー数

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いれもの

いれもの

ぼくのおもしろくもなく
さしあたって何の価値もない精神について、
これをぼくは
自分のものだとは考えていない。
じゃあ誰のものなんだろう。
わからない。
わからないからここまで生きることができた。

幼い頃、認識の束、
波打つ光の粒たちは
ぼくの認識に重大な誤解を招いた。
なんてうつくしいんだ!
ぼくの精霊はやさしく語りかける。
「あなたが為したいように、すべて為しなさい」
ぼくがもらった愛情、

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極北の庭

極北の庭

本当の意味で
ともだちと呼べるのは
虚無だけだった
かくなる上は
きみを迎えに行こうと思う

小さな草花が生い茂る
きみたちを見ると
どうにか腕をちぢこめて
そっと抱きしめたくなる

この箱めいた空間にあっては
ぼくら いきものは卑小だ
ここで指を鳴らす
するとぼくの亡骸は
涅をめざす

他方できみ きみだよ
虚無のともだち
こぢんまりした象徴を
いくつか持つことで
常にある言葉に囚われているため

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ポリノーマル

ポリノーマル

白昼の下、ことばが開裂する。
身体性から逃れられないものたちの落伍。
されど日常の奥底にねむる
体系内外からの伝聞によってのみ、
すべての普遍性は成り立つ。
実のところ我々は
絶えざる拒絶によって
自らの存在を確信している。
こわれたすべての可能性に
深淵などない。

順序をまもり
圧倒を嗜む子どもは、
王になる気概を持つことによって
暗号の伸縮性を得る。
スポンジのように吸い込み、吐き出す。

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上回る紺青

上回る紺青

さあ 天のほうへ
光をたくわえる朝のつゆたち
浴槽に近づいてはならない
きっとよわさが走りまわる
あつまってまとまる影
くぼみ 鬱血したえくぼ
絆のはしをつまむ
愛にかんしては口をつぐみ 微笑する
きみの蕾
そのいやらしく匂いたつ中身
ガラスをよごす気泡
雲のふわふわ
洗いたてのうぶ毛をむしる
忘れる 憂いに沿ってすすむ
わかっているのか
わかっていないのか
まなざしがぬれている
すべてがやさしく

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存在は分裂しうるか

存在は分裂しうるか

生命の山なす粒子、
そのための賭金、
それは毎日、毎日、
他の誰かの感受性を
奪いとろうとすること。
雨に濡れた土が放つ匂い。
葉の擦れる硬質な音、
その向こうに見え隠れする
きらめきをいつも胸元に置いておく。
それはけっして抜けない背骨。
だが、瞳の色は一様でなく、
血の密度は気分に基づく。
懐胎するのはふたりの人間が
肉の共鳴にとりさらわれたときだ。

吸い込む空虚、黄金色。
歪んでゆく今ここ

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クリア・アポリア

クリア・アポリア

重荷を引き摺る若者は叫ぶ。
美酒のための労働と同じぐらい
必要なことがある!それは、
生きる意味のための闘争!
重荷に繋がれた紐がちぎれる。

友情の終わり。
薬をすり潰して混ぜる。
エゴの動脈は須く膨らみ、
網膜を光が炸裂する。
もはやまともに眠れない。

考えること。考えて、
新しい問いを探し出すこと。
迷走者だけが世界の切り口を舐める。
そして、軽快なステップを踏む。

晦渋な歌を聴いた。

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ねじれ

ねじれ

下から光が降り注ぐ。
そのはじまりは好奇心の甘さ。
タブノキの美徳を持つ人々は
耐えがたい高温の中で逆上を抑えている。

余りは数々の熾烈を超えた。
木陰からは恐ろしい欲動がはみ出している。
破裂するか萎え萎むかを選びうる、
風船が不動であることを明証してみせよ。

所有は受難に他ならない。
しかし、喪失は運動を意味している。
バラの花は告示した、
我々の喜びが深刻であることを。

ポットの中身は

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