見出し画像

「速い思考」と「遅い思考」、現代は遅い思考が退化している?

ダニエル・カーネマンは、心理学者であり、行動経済学の創設者の一人です。彼の著書「ファスト・アンド・スロー:あなたの意思はどのように決まるか? 」(原題:Thinking, Fast and Slow)で、彼は人間の思考プロセスを二つのシステム、システム1(速い思考)システム2(遅い思考)に分けて説明しました。

システム1(速い思考): システム1は、迅速で自動的な思考プロセスを担当しています。無意識的であり、努力がほとんど必要ありません。感覚的な判断や、瞬間的な判断を行う際に活躍します。例えば、顔の表情を読む、単純な算数の問題を解決するなどがシステム1の働きです。しかし、システム1は、誤りやすく、バイアス(先入観や偏見)がかかりやすいという欠点があります。

システム2(遅い思考): システム2は、より遅く、論理的で分析的な思考プロセスを担当しています。意識的であり、努力と集中が必要です。複雑な問題を解決したり、長期的な計画を立てたりする際に活躍します。例えば、難しい数学の問題を解決する、論文を執筆する、といったタスクがシステム2の働きです。システム2は、より正確で信頼性が高いですが、疲労やストレスに弱いという欠点があります。

カーネマンのシステム1とシステム2の理論は、人間の意思決定や行動に関する理解を深めることに貢献しています。特に、バイアスや誤りが生じやすいシステム1の働きを理解することで、より良い意思決定を行う方法を見つけ出すことができます。また、システム2を適切に活用することで、複雑な問題解決や長期的な計画立案が可能になります。


現代社会はシステム2(遅い思考)が退化している?

現代社会では、システム2の弱い人が増えている可能性が考えられます。この背景にはいくつかの要因が影響しているとされています。

  1. 情報過多:スマートフォンやインターネットの普及により、情報が常に手の届くところにあります。このため、人々はついつい短期的な判断や瞬間的な判断を重視し、システム1に頼ることが多くなっています。その結果、システム2を使う機会が減り、その能力が低下する可能性があります。

  2. 短期的な報酬の追求:SNSやゲームなど、短期的な報酬が得られるものが多くなっています。これらはシステム1による迅速な判断を促し、システム2の使用が減少することにつながります。

  3. ストレスと疲労:現代社会はストレスが多く、人々は疲れていることが一般的です。ストレスと疲労はシステム2の働きを低下させ、結果としてシステム1に頼ることが増えるでしょう。

  4. 教育の変化:教育方法が変化し、試験や評価が短期的な結果に重点を置くようになっています。これにより、システム2を使って複雑な問題解決や長期的な計画を立てる能力が育たない可能性があります。

ただし、これらはあくまで一般的な傾向であり、個人差が大きいことに注意が必要です。システム2を強化するためには、意図的に複雑な問題に取り組んだり、自己制御や集中力を高める習慣を身につけることが重要です。また、適切な休息やストレス管理も、システム2の働きを向上させるために役立ちます。

システム2を鍛えることによって、直感力や感覚的な判断の正確性や信頼性を上げることになるか

システム2を鍛えることで、直感力や感覚的な判断の正確性や信頼性が向上する可能性があります。システム2は分析的な思考や論理的な判断を行うため、その能力を向上させることで、システム1の直感や感覚に対する監視や評価が向上します。

システム1は迅速な判断を行うために重要ですが、時にバイアスがかかったり、誤った判断を行うことがあります。システム2が鍛えられることで、システム1による直感や感覚の信頼性を評価し、必要に応じて修正する能力が向上します。また、システム2を鍛えることで、システム1とシステム2の連携も向上し、意思決定のプロセス全体が改善される可能性があります。

ただし、システム2を鍛えるだけでは、直感力や感覚的な判断が自動的に向上するわけではありません。直感力や感覚的な判断を向上させるためには、実践的な練習や経験を積むことが重要です。経験を通じて、システム1の直感や感覚が研ぎ澄まされ、より正確な判断が行えるようになります。

結論として、システム2を鍛えることは、直感力や感覚的な判断の正確性や信頼性を上げる助けとなりますが、それだけでは十分ではありません。システム1とシステム2のバランスを保ち、実践的な練習や経験を積むことで、直感力や感覚的な判断の向上が期待できます。





思考プロセスにおいてシステム1とシステム2の関係や構造

システム1とシステム2は、人間の思考プロセスにおいて相互作用し、補完し合う関係にあります。これらのシステムは異なる特性を持ち、それぞれ異なる状況やタスクに対応しています。以下に、システム1とシステム2の関係や構造について詳しく説明します。

  1. 相互作用:システム1とシステム2は連携して働くことが多く、一方のシステムがもう一方に影響を与えることがあります。例えば、システム1が感じた直感や感情が、システム2による分析的な思考の基盤となることがあります。逆に、システム2が綿密な分析を行うことで、システム1の直感や感情を修正することができます。

  2. 自動化と努力:システム1は自動的で無意識的なプロセスであり、システム2は意識的で努力を必要とするプロセスです。システム1は素早く反応し、情報を瞬時に処理することができますが、バイアスや誤りが生じやすいです。一方、システム2はより遅く、注意深く、論理的に情報を処理しますが、疲労やストレスに弱いです。

  3. システム2の監視:システム2は、システム1の判断や直感を監視し、修正する役割も担っています。システム1による判断が正確でない場合や、バイアスがかかっていると感じた場合、システム2はその判断を詳細に分析し、より正確な結果に導くことができます。

  4. 能力の移行:繰り返し行うことによって、システム2で処理されていたタスクがシステム1によって自動化されることがあります。例えば、運転初心者はシステム2を使って注意深く運転しますが、経験を積むことでシステム1が自動的に運転を行うようになります。

このように、システム1とシステム2は密接に関連し、お互いを補完しながら人間の思考プロセスを形成しています。この両システムの理解とバランスが、効果的な意思決定や問題解決に重要となります。以下は、システム1とシステム2のバランスを保つための方法です。

  1. 自己認識:自分の思考プロセスやバイアスに気づくことが重要です。システム1による直感や感情が働いているとき、それが正確であるかどうかを疑問視し、システム2による分析を行うことが重要です。

  2. システム2の活用:システム2は疲労やストレスに弱いため、適切な休息やストレス管理が必要です。また、システム2を使う練習や訓練を行い、分析力や論理的思考力を向上させることが役立ちます。

  3. バイアスへの対処:システム1によるバイアスや誤りを減らすために、情報源を多様化し、異なる視点から問題を検討することが役立ちます。また、意思決定のプロセスを他者と共有し、フィードバックを求めることで、バイアスを軽減することができます。

  4. 状況に応じた思考の切り替え:状況に応じてシステム1とシステム2を使い分けることが重要です。簡単な判断や瞬時の判断が求められる場合はシステム1を、複雑な問題解決や長期的な計画が求められる場合はシステム2を活用します。




プロスペクト理論と認知バイアス

プロスペクト理論(プロスペクトりろん、英: prospect theory)は、不確実性下における意思決定モデルの一つ。選択の結果得られる利益もしくは被る損害および、それら確率が既知の状況下において、人がどのような選択をするか記述するモデルである。行動経済学における代表的な成果としてよく知られている。期待効用仮説に対して、心理学に基づく現実的な理論として、1979年にダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって展開された。カーネマンは2002年、ノーベル経済学賞を受賞している。

ウィキペディア

プロスペクト理論とは、ダニエル・カーネマンとアモス・ツヴェルスキーによって提案された、人間の意思決定に関する理論です。特に、リスクと不確実性が関与する状況での意思決定を説明するものです。プロスペクト理論は、従来の経済学で広く用いられていた期待効用理論の限界を示し、行動経済学の基礎を築きました。

プロスペクト理論は以下の特徴を持っています。

  1. 損失回避:人間は、同じ金額の利益よりも損失を避ける方が強い動機が働くことを示しています。これは「損失回避」と呼ばれ、人々がリスクを冒して損失を回避しようとする傾向があることを説明しています。

  2. 価値関数:プロスペクト理論では、利益や損失は絶対的な金額ではなく、現在の状況からの変化として評価されます。これを「価値関数」と呼びます。価値関数は損失領域でより急峻であるため、損失回避の原理が働きます。

  3. 確率の重み付け:人間は、確率を客観的に評価しないことがあります。特に、低確率の事象に過剰に重みを付けたり、高確率の事象を過小評価することがあります。これは「確率の重み付け」と呼ばれます。

プロスペクト理論は、人間が認知バイアスを持っていることを明らかにしています。認知バイアスとは、情報処理や意思決定において、客観的な理性から外れた、系統的な誤りや偏りを指します。いくつかの代表的な認知バイアスを紹介します。

  1. 確証バイアス:自分の信念や仮説を支持する情報を優先的に探し、受け入れやすく、反証する情報を無視したり、過小評価する傾向があります。

  2. 利用可能性ヒューリスティック:直近の経験や印象に基づいて、事象の確率を過大評価したり、過小評価する傾向があります。利用可能性が高い情報や記憶が、意思決定に過度に影響を与えることがあります。

  3. アンカリング効果:最初に提示された情報(アンカー)に基づいて、その後の判断が影響を受ける現象です。人々はアンカーとされる情報に対して過度に依存し、それに引っ張られた判断を行ってしまうことがあります。

  4. ハロー効果:ある特徴や属性が他の特徴や属性に対する評価に影響を与える現象です。例えば、人々は外見が良い人が他の能力も高いと判断する傾向があります。

  5. 過剰自信バイアス:自分の知識や能力を過大評価し、自分の判断に対して過剰な自信を持つ傾向があります。これは、リスクの認識が不十分であったり、誤った決定を行う原因となります。

これらの認知バイアスは、人間の意思決定において、客観的な理性から外れた判断や行動を引き起こすことがあります。意思決定のプロセスを改善するためには、自分自身の認知バイアスを認識し、それに対処する方法を学ぶことが重要です。例えば、多様な情報源を参照したり、他者の意見を取り入れたり、意思決定を段階的に行ったりすることで、認知バイアスの影響を軽減することができます。

よりわかりやすいお勧めサイト↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?