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答えの無い問い

Sさん。

武道を趣味とされ、戦後生まれの男性らしく無口で無骨な感じの方。週1回、状態チェックと、自宅での入浴の介助でお伺いしていました。

がんと診断され、余命3ヵ月と医師より宣告をうけてから、1年半が経ちました。
浴室でも自分からはほとんどお話しされないのですが、時々、自分からお話をされます。

「どうしてこんな病気になったのだろう?」

「余命3ヵ月と言われてから1年以上も生きているのはどうしてだろう?」

「もし、あなた(私に向かって)のご主人が同じ病気になったら、どうする?」

私には答えが見つかりませんでした。


Sさんの奥様。

旅行が趣味でしたが、御主人の病気がわかってからは一生懸命、ご主人の介護に時間を費やされていました。

ある日、ご主人が席を外されたときのことです。

「夫が私に向かって、
『俺が早く死んだ方がいいんだろう!』
と言うんです・・・。
こんなに一生懸命やっているのに・・・。
何でそんなことを言うのでしょうか・・・。」

奥様は泣きながら、私に話されます。

私は奥様への言葉を探しながら、奥様の涙が止まるまで、しばらく黙って話を聞いていました。

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訪問看護でお伺いすると、様々な質問を受けます。

1つは【答えてあげられる問い】です。

生活で何に気をつければよいのか、
何をどのように食べればよいのか、
褥瘡の手当はどうすればよいのか、
なぜ痛みがあるのか、
どのように薬を飲めばよいのか、
熱が出た時どうすればよいのか・・・・・・。

それらは、私自身の学習や研修、知識や技術を積み重ね磨くことで対応することができる問いです。

私は今まで、1つでもその引き出しを増やすことを努力してきました。
20年経って、引き出しは少し増えたと思っています。

今までお伺いした方々の事を思い出すと、
今なら、
「あの時、もっとこんな風にしてあげられた。」
「今なら、答えてあげられた。」
と思う問いがたくさんあります。


もう1つは【答えの無い問い】です。

どうして、こんな病気になったの?
どうして、つらい思いをしなくてはいけないの?
どうして、良くならないの?
どうして、健康に生んであげられなかったのだろう?
どうして、病気で死ななくてはいけないの?


どんなに探しても、どんなに学んでも、その質問に私は答えてあげることができません。

答えの無い問いを向けられた時、答えが見つからない時、自分がとても無力に思えてしまいます。

「訪問看護師として、私ができることがあるのか?」

たとえ問いに答えることができなくても、それでも、その問いから逃げないで側にいること。そして最後までかかわり続けること。

「私は無力だけど、逃げない。」
と腹をくくることなのかもしれません。

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