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【日記】卒論テーマを考えよう。
英→日翻訳における役割語について卒論で取り扱います!と決心して約一週間が経ちました(報告)が、そこから何ら進展できていませんので、一度ここで思考を整理しようとキーボードをカタカタ叩いています。
役割語を皆さんご存知ですか?端的に申しますと、役割語とは『「わたくしは~ですわ」「拙者~ござる」「わしは~じゃ」のように、特定の言い回しから特定のキャラクター(お嬢様、サムライ、おじいさん)を思い浮かべることが出来る(逆もまた然り)言葉遣いの総称』になります。(金水 2003:205)
日本語はこの役割語に富んだ言語です。というか、英語が役割語に乏しすぎるのです。例えば一人称について、「俺」「私」「うち」「あたい」「俺様」「おいら」などなど例を挙げれば枚挙に暇がない日本語に対して、英語は"I"のみになります。「です」「ます」「ですわ」「じゃ」「ござる」といった語尾に相当するものもありません。またこのトピックにおいて日本語の拡張性の高さは特筆すべき点で、例えば「だにゃん」「だワン」「(ワニが喋って)だワニ」のような極めてフィクションな語尾も日本語は創造することができます。
もとが英語の作品を日本語に翻訳するとき、私たち日本人は自然と主語をつけ足し語尾を調整し言い回しを変え、、、といった役割語的な拡張を原文に付与するわけです。具体例を見ていきましょう。
Listen, Max. In the hope that this can still have a HAPPY ENDING and speaking as someone who appreciates the CHALLENGES of adjusting to POSTWAR LIFE, I just wanna say that there’s still time for you to do the decent thing and KILL YOURSELF.
これはIDW発行のトランスフォーマー「モア・ザン・ミーツ・ジ・アイ」の原書より引用したホワールのセリフとなります。そして以下が、その翻訳になります。
聞けよ、マックス。今ならまだ丸く収められる…アンタも戦後の生活に馴染めないクチだろ…理解できるぜ、その気持ち こうなりゃ残された道は一つだ…潔く命を絶つんだな
ホワールがマックス(フォートレス・マキシマス)に向ける粗野でニヒルで憐憫の籠った感情が良く表出した、素晴らしさの素晴らしさ乗みたいな訳ですよね。(グッ…と内なるオタクを抑える)
次は同書より、フェイズシクサー(phase sixer)を拷問にかけて殺すターン様のセリフです。
Phase sixers have a tendency to go.
フェイズシクサーが彼岸へ旅立つぞ
こちらの訳文も、そもそもの言い回しを原文から変えることで、ターン様の知的なイメージをありありと表現しています。
次は作品を変えてピータートライアス著「メカ・サムライ・エンパイア」から、原文にはミリも存在しないが日本語訳では関西弁を話す久地樂です。
使用人:Would you like something to eat?
久地樂:Sure, What’s on the menu?
使用人:What would you like?
久地樂:Whatever you’re serving, man. I could eat a horse right now.
使用人:お食事になさいますか?
久地樂:おう、もらうで。何が出る?
使用人:ご希望をうかがいます。
久地樂:なんでもええ。いまやったら馬一頭 食える。
原文にはない関西弁要素が、日本語訳で付け加えられているの結構不思議じゃないですか?こういうのをやりたいんです!!
ここで「関連性理論」についてちょこっとだけ触れます。深度がマイナスに達するくらいうっ…すく紹介するので、詳しくは専門書を読んでください。「関連性理論」とは”関連性”という概念を用いて発話を考える理論になります。関連性は「高ければ高いほど良い。なんなら最大値に達してほしい。」みたいなもので、相手の発した言葉の意味を頭の中でひも解くときにかかる労力(処理コスト)が少なければ少ないほど、そしてその発話を処理することで受け手が得られるもの/報酬(認知効果)が大きければ大きいほど関連性は高くなります。この鉄鋼でつくられた綿あめみたいな、ガチガチでふわふわな定義のせいで関連性理論につまづく方は多いようですね。(この文章は、文章内で使われているレトリックの解釈に手間がかかる割に、言語学徒ではない読者さんにとっては何ら得られるものがないので、皆さんにとっての関連性はかなり低い、と言えます。)
で、前述の通り、受け手にとって、話し手が発した言葉の関連性は高ければ高いほど良いのですが、ただ毎度最大の関連性が得られるとは限りません。オタクさんが発話についつい余計な情報を足しちゃったり、男子校出身の男の子が緊張のあまり女子大生とうまく話せなかったり、みたいな場面は容易に起こりうるものです。したがって、我々は最大の関連性を相手から得ることは既に諦めており、そこそこな関連性さえ得られれば良いやという信念のもと、そこそこな労力をかけて発話を処理しているのです。(最適な関連性の見込み)(ここは本当に力を入れて書いていないので、本職の方々にはご容赦をお願いしたく……)
前置きが長くなりましたが、以上が関連性理論の概要になります。これを翻訳に当てはめた場合「翻訳文の処理コストは(英語を読んで理解すると言う馬鹿デカ処理コストは無視します)言い回しの変更や役割語の付与によって、原文のそれと比べて高くなっている」ので「認知効果が同じとき処理コストが小さいほど関連性は高くなる」に従えば「翻訳文は、原文(の直訳?)より関連性は低くなる」と言えてしまうわけです。
???????????
ここから逆算して卒論のテーマを考えようと小一時間思考を巡らせましたが、何も思いつきませんでした。助けて。
以上。散漫な文章でごめん!!な!!!!!
追記:ポプテピピックの英訳版、翻訳がめちゃくちゃ凝ってて驚きました。
甘えるニュアンスを赤ちゃん言葉で再現。すまん、舐めてた。
![](https://assets.st-note.com/img/1696753440113-YgH6Sviz3l.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1696753400268-67YhaECDgF.jpg?width=1200)
参考文献
金水 敏(2007)「役割語研究の地平」東京:くろしお出版
金水 敏(2003)「ヴァーチャル日本語 役割語の謎」東京:岩波書店
加藤 重広・澤田 淳(2020)「はじめての語用論―基礎から応用まで」東京:研究社
大川 ぶくぶ(2015)「ポプテピピック」東京:竹書房
大川 ぶくぶ, Yuta Okutani訳(2018)「POP TEAM EPIC」New York:Vertical Comics
Peter Tieryas(2018)「Mecha Samurai Empire」Ace books
ピーター・トライアス, 中原 尚哉訳(2018)「メカ・サムライ・エンパイア<上>」東京:早川書房
ピーター・トライアス, 中原 尚哉訳(2018)「メカ・サムライ・エンパイア<下>」東京:早川書房
James Roberts(2014)「MORE THAN MEETS THE EYE VOLUME 2」IDW publishing
ジェームズ・ロバーツ, 小池 顕人訳(2020)「モア・ザン・ミーツ・ジ・アイ②」東京:ヴィレッジブックス
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