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読書記録 | 貧苦に抑圧された少年の心情がよく表れている上林暁の短編小説

昭和の私小説家に上林暁という人がいた。

無論、この方のことを知ったのはごく最近であり、しかもオークションサイトで見た「聖ヨハネ病院にて」というひときわ気になる小説タイトルを目にしてからというもので、全くの偶然である。

ここで目にしていなければ、未だに私の本棚には並んでいなかったであろう上林暁先生のことを少し調べてみると、隣県高知出身の方のようで、地元に文学館もあるとのこと。

同じく隣県香川の中河与一文学碑とあわせて一度訪れてみたい場所の一つとなった。

さて、夏はSF小説一色にするつもりではありながら、国内文学の真っ只中の作品を間に挟んでみたくなり、この方の代表作の一つ「薔薇盗人」を通読したのが昨日のこと。

ちょうど先述の作品集「聖ヨハネ病院にて」の冒頭を飾るのが当作であり、正に上林文学の旅に出るのに相応しい、旧くも読み易い作品であった。

学校の薔薇の花を千切って盗んだ少年のことを綴った作品で、川端康成の称賛の声を借りると、貧苦のなか、言いたいことも言えず抑圧された少年の心情が見事に表現されているということにシンパシーを覚えるものである。

時代は移れど、普遍的な心の在り方を示してもらえるこれらの文学作品は、絶やさず読み継いで行きたいものである。

上林暁の作品集は、今でも様々な様式で求めることが出来るようである。


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