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読書記録 | サイコキラー美青年「真珠郎」の猟奇的で耽美な世界の再読と横溝正史作品の思い出

私の小説好きの源流を辿れば、中学生の自分から関心を寄せていた横溝正史のミステリー小説にあることが確かである。

きっかけはテレビドラマの視聴が先であったか、友人から面白いからと薦められたのが先かは今ではもう憶えていないが、小説で言えば当時地元にあった小さな古本屋さんで「八つ墓村」「悪魔が来りて笛を吹く」など、カバーがすっかり傷んで少し砂っぽい手触りになっていしまっている数冊を買ったのが最初である。

実はそれから数年間その本数冊を読まずに持っていたというのが正直なところで、本格的に横溝作品蒐集に精を出し始めたのが、地元の本屋さんで買った「金田一耕助99の謎」というファンブックに載っていた事件年表からである。

この年表というのが短編・長編余さず金田一耕助が携わった事件を簡単なコメント付きで並べているので、ついその収録本を探してみたくなったもので、本屋さんに問い合わせるもどれも絶版とのことで、ネットショッピングもまだ定着してない時代のこと一時諦めていた。

しかし、暫くの時間を経て、これまで抑圧されていた横溝作品への関心が奔流のように流れたのは、ドライブがてらに立ち寄った古本屋さんであった。
ちなみにその古本屋さんはとうに無くなり、今はジムになっている。

閑話休題、当時のそのお店にあったのは大量の横溝正史作品だったのである。
金田一耕助シリーズ、由利麟太郎シリーズ、ジュブナイルなど、これまで絶版で諦めていたありとあらゆる文庫本が一冊数十円でぎっしりとある中、とにかくあるだけ揃えてやろうと、スーパーのレジ袋4つ分位の満足感を両手満載に抱え、当時の愛車シルビアS13だったか或いはランサーエボリューションⅡだったかに積み込み、帰宅した思い出がある。

その後も、そのお店で揃わなかった幾つかを、ドラゴンボールを探すかのようにあちこちの古本屋さんで買い求めるに至ったのであるが、ずっと後になって手放してしまったのが今更になって悔やまれる。

思い出話が長くなったが、本好きのきっかけになった20数年以前を思い返し、原点回帰の意味で幾つかの横溝作品をまた揃え戻した中の一冊に数日前再読したばかりの「真珠郎」がある。

何とも風変わりなタイトルの「真珠郎」に、かの吉川晃司が演じた探偵由利麟太郎が登場することもすっかり忘れて読み始めると、何とも耽美で不気味な雰囲気と裏腹に血も涙もないサイコキラー「真珠郎」の残虐非道さのコントラストが、何となく展開が見えていても、最後まで愉しみながら読み進められたものである。

何と言っても横溝先生、いつも文章がソフトで読みやすく、オスカー・ワイルドの「サロメ」のヨカナーンの首を作中の喩えに用いる所等々、ミステリー以外の文学にも明るいのが垣間見える。

この「真珠郎」、金田一シリーズの「犬神家の一族」や「八つ墓村」にも優るとも劣らない秀作長編ではないかと、20年近く振りに再読した私はそう思うのである。


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