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Jリーグビジネスを考える。中央大学『Jリーグビジネス論Ⅱ』に登壇しました。

11月、中央大学 商学部の『Jリーグビジネス論Ⅱ』にお招きいただき僭越ながら講師として登壇させていただきました。

まず100分という長い講義の中で、資料をどう見せてどう話せば伝わりやすいか、学生に飽きずに興味を持ってもらえるか。大学時代の自分自身の授業に臨むモチベーションの低さを知ってるだけにすごく悩みました(笑)

講義の後には150名ほどの学生から熱いコメントもいただき、それもすべて目を通させてもらいました。貴重な経験をありがとうございました。

『Jリーグビジネス論』ということで、まずこの言葉を改めて自分なりに解釈し定義すること。
事例を並べるだけじゃなくて考え方や自身の想いものせて、失敗談も交えながら、就職活動や社会人になった時に少しでも参考になるような授業にできればいいなと考え話をさせてもらいました。

以下講義の中で話した、現時点で自分が考える「Jリーグビジネスとは」。

横浜FCは...

1993年にJリーグが開幕。
横浜FCは1999年に設立(横浜フリエスポーツクラブが’98登記、クラブ名が’99に決定)横浜フリューゲルスが親会社の経営難により横浜マリノスに吸収合併されて事実上消滅。企業論理に左右され一つのクラブが消滅するというJリーグの歴史の中でも悲劇的な出来事のひとつ。
その時の横浜フリューゲルスのサポーターが中心になって立ち上げたのが横浜FCというクラブ。当時の想いをクラブの色々な所に残している。
男子チームだけでなく、ニッパツ横浜FCシーガルズ(なでしこリーグ1部所属)という女子チームも保有している。

横浜FCとニッパツ横浜FCシーガルズ

前提

まず、メインコンテンツでありお客さんの満足度を左右する勝敗。
この勝敗にスタッフは直接的に介入することはできない。気持ちよく勝利を収めることもあればアディショナルタイムで同点に追いつかれたり、逆転されて負けることもある。
また、ホームゲームのためにずっと準備してきた大型イベントが急な雨で中止になったりもする。投資に対するリターンも数値で保証できるものは少なかったりと「不確実性の高いビジネス」である。

そうした中、仕事をするうえで2つの考え方を大切にしておきたい。

●この仕事は 蓋然性の低いビジネスである
結果がどうなるかわからない、不確実なことに向き合うことは難しく、不安やストレスもかかる。だからこそ終わりがないから追求できて楽しいし、どんな心持ちやモチベーションで働くかといったことが大事。
正解がないからこそ、波風立たせず普通に業務として決まったことだけをやるよりも、少し難しくても挑戦する方を選ぶことで成長できる。
ただし、ベースとしてある地道な活動はこの仕事の基本活動なので当然すること、このバランス感覚も大切。

● とはいえ、他のビジネスと変わらない
社会の一員として、持続的な成長を続けていくことで世の中に貢献することは企業活動の基本。
企業が社会に貢献するとは何か、それは「お客さんの満足度を高めて、幸せを創ること。社会をよくする役に立つこと。」であるとすると、「Jリーグビジネス」といえど他のビジネスと何ら変わらない。
その手段であり顧客満足を高める要素として、強いチーム、勝てるチームを目指す。そして赤字経営じゃなく、黒字経営を目指さなければいけない。

スポーツビジネスの収益構造

2021Jリーグ経営情報開示資料より

クラブの収益の柱は「広告料収入」「入場料収入」「物販収入」の3つ、その他にリーグ配分金、育成年代の収益、その他収益など。
(スポーツビジネスの収益源というとリーグの「放映権収入」も入ってくる。直接的なクラブ収入源とはならない。)

中身を見てみると、2021年のように費用が売上を上回る年もあった。
例えば、チーム人件費への投資。
多くのクラブは売上の約50%程がチーム人件費となる傾向にある。
2021シーズン、横浜FCは開幕から勝利から遠ざかり、巻き返しを図るためにシーズン途中の夏の移籍市場で多くの外国籍選手を獲得した。
そしてこの年のチーム人件費は60%近くに増え、最終的に費用が売上を上回る結果になった。これは親会社の存在があったからこそできた判断。
結果的にその年はJ2へ降格してしまったけど、彼らはクラブに残留し2022シーズンに1年でのJ1復帰を果たす原動力となった。
単年決算で見れば赤字決算で降格したと見えるけど、1年でJ1に復帰し、今後定着していくと考えればこの投資は〇だったと考えられる。
もちろん横浜FCは、親会社の存在はあるけどクラブとして単体での黒字経営を目指している。ただ現実的に親会社の存在もあり、良くも悪くもビジネスの結果がフットボールに左右される部分があるのが難しくもあり、面白いところでもある。

2020Jリーグ経営情報開示資料より

※補足※
2019シーズン、2020シーズンは黒字決算。

事業の収益を見ると、「広告料収入」が約50%と最も大きい割合を占めている。そして「入場料収入」と「物販収入」、この2つは現時点では合わせて12%程度の現状で、J1の他のクラブを比較してみても入場料収入は7~10%程度の比率の所が多く、かつスタジアムのキャパによって変動する。

では、売り上げ構成比の数%でしかないこの2つの項目がなぜ柱なのか?

集客」「ファンを増やすこと」は、応援でチームが力を発揮して結果を出す他、多くの人に見られることによって「広告効果」としての価値向上に繋がる要素であり、売上の多くを占める広告料収入を高めることに通じる。

だからこそ、クラブが事業の目標として強く追うべき数字は「ファンの数」と「広告料収入」の2軸になると考えている。

地域の文化としてクラブが根付いているか

参考に、同じタイミングでJ1に昇格したアルビレックス新潟。
横浜FCと比較して、売り上げも支出もそこまで大きく変わらないけど、新潟はファンが多く入場料収入と物販収入で約28%(横浜FCは12%)、逆に試合の関連経費は11%(横浜FCは4%)と高い数値。新潟のスタジアムに行った人はわかると思うけど、来場者が楽しめるスタジアムの空間づくりやイベントが豊富でとても充実している印象があるので、クラブとしてここに予算を振っているのかな?と仮説も立てられる。
また、新潟県の人口は217万人、横浜市の人口は377万人(神奈川県まで広げると920万人)。これだけアプローチし得る母数が違うけど、ファンの数が横浜FCよりも多い新潟から学ぶところは沢山ある。
もちろん地域の特性とか競合クラブやエンタメの関係とかもあるけど、大きな違いは「地域の”文化”としてクラブが根付いているか」にある。
現時点では新潟の方が根付いていると思うので負けてられない。
(2020シーズンはカテゴリーも違った)

Jクラブができること

近年、スポーツビジネスには様々な企業が参画し、外部からの人材登用、支援会社も多くいて、新しい企画や革新的な技術やトレンドがフォーカスされがちだけど、Jリーグビジネスも企業活動であるという原点に立ち返ると、Jクラブの役割は「Jリーグの理念」「百年構想」を実現することにある。

Jリーグ理念
Jリーグ百年構想

スタジアムの熱狂や試合の勝敗だけでなく、支援してくれるパートナー企業、応援してくれるサポーター、地域の人たちが、横浜FCがこの街にあることでちょっとした「幸せ」や「喜び」を日々感じられる機会を増やすこと。

これが横浜FCが社会に対してできること、Jリーグビジネスの目指すところで、地域に根差して人の幸せをつくること。
これこそが全国各地に58クラブも存在する理由だと思う。

じゃあ何ができるのか?

Jクラブの可能性は無限大で、色んな場所で色んなことが実現できる。
地域に密着し、社会に貢献し、人々に夢と感動を届ける。

可能性は沢山あるけど、「それって稼げるのか?」という命題がついて回る。単純に売上が上がるの?という問いではなくて、ビジネスとして成り立つか、産業として持続的に成長できるか?という視点での「稼ぐ」ということを考えることが必要になってくる。

横浜FCの取り組み

まず、Jリーグ関係なく社会人として持っておきたい考え方として。
企業には社会に対する責任があるし、それぞれが果たしたいと考えるミッションを掲げている。
働いていて、「これって何のためにやってるの?」って誰かに問われて「お金を稼ぐためです!」って回答じゃなくて、そもそも企業として(自分としてでもいいけど)目指す姿を達成するため、その結果として稼げているというのが理想だと思う。

親(ONODERA GROUP)が『食』で社会に貢献する。
子(横浜FC)は『スポーツ』で社会に貢献する。

親子で主とする分野は違うけど、目指すゴールは同じ。
それを成し遂げるため、子は子で独自の方針をクラブとして掲げ、自立した経営で黒字化を目指す必要がある。(誤解されがちだけど、子は親のやり方にすべて倣うのではなく、業種業態も違うので独自の経営方針があって当然。企業の親子も、人の親子と関係性は一緒と考える。)

事業・強化・普及のサイクルを回してサッカーを文化に。

自立した経営をするためには、事業・強化・普及のサイクルを理解して、そのサイクルを適切に回すことでクラブの価値を高めることが大切だと考えている。

事業・強化・普及のサイクル

事業は、ファンが増え、入場者が増えるとスタジアムやクラブとしての広告価値も高まりお金が集まるようになる。

そのビジネスサイドで生まれた価値を、選手獲得、育成、チームビルディングに活かし強いチームをつくる。強化の掲げるビジョンや方針、選手の姿勢とかチームの結果が、応援してもらうきっかけになり、子ども達の憧れになり、夢を与える存在になる。ここにはもちろん、サポーターがつくるスタジアムの熱狂や応援空間も存在する。

そうしてスポーツで生まれた価値(憧れ、カッコよさ、楽しさなど付加価値も含め)を活かして普及の活動をすることで、横浜FCというクラブが地域に愛され必要とされ、人々に夢を与え、そこに関わる人たちが笑顔になる。さらに地域にサッカーを広めるきっかけになり、サッカーを観る人が増えたりボールを蹴る人が増え、その土地にサッカー文化が根付く。

こうした事業・強化・普及のサイクルを理解して積み上げることで、横浜FCというクラブの価値が高まる。

事業部内には様々な部署・役割がありお金を生み出している。
そのお金が「強化費」となり、世の中に「認知」されるきっかけになり応援してくれる「ファン・サポーター」を増やし、チームや選手を「人気」にしていく。そうして強いチームになり、地域に愛され「夢」を与える存在になれる。

こうした結果を創るのが事業部の仕事であり、この3つのサイクルの中の重要な歯車になっているということがわかると思う。
だから、1つのアポ、1つの街のお祭りが、子ども達との触れ合いが、1枚のチケットやグッズが、1人のサポーターと向き合うことが、1枚のリリースが、すべての仕事がこの歯車になりチームの勝利に繋がっているという気持ちで仕事をするかどうかで見えてる景色は全然違うと思う。

よくありがちなのが、事業部は事業のことしか知らない、強化は強化だけ、普及はスクールとホームタウン担当だけがやっている、となりがちだけどこのすべてが繋がっているのがJリーグのビジネス。
どんなに強くてタイトルを獲るチームであっても、魅力的に見えなかったり、ファンがつかない、地域から応援されない、親しみを感じられず子ども達に夢を与える接点すらないのであれば企業活動としての存在価値を見出せないし、逆にどれだけ地域活動に力を入れても、試合に負けまくっていれば罵声を浴びせられることだってある。

鶏卵のような話だけど、どれかを立たせてどれかを失うでは成り立たないのがこの仕事の本質かなと思う。極端な業務のスリム化、効率化も今の時代は求められるけど本当に全体を見てそう判断できるのか?は考えるべき点で、もしかしたらJリーグビジネスがその他のビジネスと異なる部分であるのかもしれない。
だからこそ、それぞれの役割の中で行っていることが、他の領域や全体に影響を与えるという当事者意識のある仕事の仕方をする必要がある。

パートナーシップ

2022ホーム最終節での集客施策として

パートナー企業(スポンサー)から協賛をいただき、10,000人にユニフォームを配布した企画。企業は露出メリットの他に、来場者からの高いエンゲージメントを獲得することができる。
これはWEB広告や交通広告よりも見られる数は少ないかもしれないけど、この活動により企業に対する好意度を高める効果は段違いに高い。

企業のコーポレート動画に選手が出演する企画コンテンツ。クラブを介することで発信力とアテンションが高まるし、企業イメージの向上にも繋がる。さらにコーポレートサイトに掲載することで、スポーツ関心層に対する採用PRにもなる。

変わってきたこと

これまでは”支援する側”と”される側”だった企業との関係性や意識が少しずつ変化し、横浜FCを企業活動に活かしてもらえるような提案をするようになってきた。

今後もっと目指すべきこと

取り組みにおけるKPIを達成することで横浜FCが企業の事業に貢献できること、顧客満足と企業認知の両方を高め、スタジアムを満員にする企画を継続して行い、パートナーシップを通じてファンを増やすことを目指す。

ホームタウン

地域貢献やSDGs
子ども達へのアクション
地域活性化やイベントへの参加、開催

様々な取り組みをしているホームタウン活動。
コロナ禍でストップしていた活動が少しずつ再開し始めた。

今後もっと目指すべきこと

横浜FCのC.R.O(クラブリレーションズオフィサー)のウッチーさんが常に言っていることでもあるけど、横浜FCがこの街にあって良かったと地域の人たちに感じてもらうこと。
そして、この地道な地域活動をスタジアムの集客効果へとリンクさせることで数字的な成果が見れると良い。

Jクラブの花形って広報や大きな売上を取ってくるスポンサー営業と言われがちだけど、実は一番大切で、最も優秀でクラブのことを理解している人がやるべき役割はホームタウンへのアクションじゃないかと思う。

社会連携(シャレン)

オリジナルビールの開発
ハンドソープの開発→手洗い教室
ラッピングバス&車内アナウンス

「これからのJリーグは社会に広く開放し、地域の方々にJクラブを使ってもらおう」という社会連携の考えが2018年頃から公式的に示されている。

変わってきたこと

横浜FCと〇〇の掛け合わせで、新しい価値を世の中に生み出し、日常的にクラブの存在を感じられる機会を提供できるようになってきた。

今後もっと目指すべきこと

「スポーツ×〇〇」といった掛け合わせで社会課題を解決できるような新しい価値を生み出すこと。そしてそれがお金を生み出し、ビジネスになること。
自分が企画したハンドソープはそういう意図でコンセプトから企画をしたけどスケールしなかった。反省点として販売におけるチャネル開発に失敗したことも要因にあげ、結果的にあまりうまくいっていない例としてお話ししました。

アカデミー - 普及

横浜FCが運営するサッカースクールが市内に11校あり、幼稚園から高校まで一貫した育成システムを持つこと。
サッカーの普及の観点からスクールコーチが幼稚園や小学校の巡回指導の活動をしていること。
無料のサッカー教室を開催して、ボールを蹴る機会を提供していることなどを挙げました。

また、スクール出身の選手たちが現在トップチームでも活躍していることを挙げ、小さい頃から夢の存在に横浜FCがなること、地元で育った選手が活躍することで地域の人が応援する理由にもなることなどを話しました。

変わってきたこと

一貫した育成システムとトップチームで活躍する選手を多く輩出してきた。トップチームの選手がスクールを訪問するなど継続した連携。

今後もっと目指すべきこと

選手が育ち、トップチームで活躍することはもちろん、クラブとして誰もが気軽にボールを蹴れる環境やきっかけを用意することで、百年構想を実現しサッカーを文化にしていくこと。

こうして、スポーツが生む価値とビジネスが生む価値を活かして、横浜FCの価値を高めていきたい。

こうした一つ一つの自分達の仕事が、チームの勝利であったり、サッカーを文化にすること、社会に貢献することに繋がっているという意味を込めて仲間内で良く言っていて好きな言葉の「フロントの仕事ぶりとチーム成績は見えない糸で繋がってる」という言葉を紹介しました。

この辺りまで横浜FCを題材に「Jリーグビジネス」を考え、その後にLEOCの人事担当の方からONODERA GROUPの紹介。

そして最後に「未来へ」ということで、親会社があることで加速度的に未来に向けて動き出している現状を踏まえ、ONODERA GROUPが横浜市に提案している「新スタジアム構想」「スタジアムに付随した新規事業の可能性」や「海外クラブの経営権獲得」など、数年後の未来に向けた話を伝えられる範囲で話をさせてもらいました。

質疑応答でも回答しきれないほどの沢山の質問をありがとうございました。

今回改めて、自分の中でクラブに関する考えを整理して、言語化しアウトプットすることは必要だなと思いました。
軸があれば突き進むこともできるし、間違えた時の修正の判断もできる。
個人として、組織としてどう考えるか、そうした基軸を常に持っていたい。

ビジネスと捉えてJクラブをどう良くするか、今フォーカスをあててやるべきことは何か、そして、親会社との関わりも含めてどのように連携するか、そして何よりもクラブ独自で黒字経営を目指し社会に貢献すること。

改めてワクワクする未来を描いて、クラブとしても個人としても成長していけると良いと思いました。

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よろしくお願いします🙇‍♂️