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試し読み:『Google流 ダイバーシティ&インクルージョン』

今月刊行する新刊『Google流 ダイバーシティ&インクルージョン:インクルーシブな製品開発のための方法と実践』(アニー・ジャン=バティスト 著/百合田香織 訳、原書はこちら)より、冒頭の「はじめに」をご紹介します。

プロダクトのデザインプロセスにインクルージョン(包摂性)を取り込むことを、本書では「プロダクトインクルージョン」と呼んでいます。そのプロダクトインクルージョンの責任者としてグーグルを牽引する著者による一冊です。

「20%プロジェクト」から生まれ、その後全社に広がり適用されるに至った、グーグルにおけるインクルーシブデザインのやり方が学べます。ぜひ読んでみてください。

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INTRODUCTION
はじめに

人であることとは、相手の心の奥深くをのぞき込んで、自分自身を知ることです。
─マーク・ネポ(詩人、スピリチュアル・アドバイザー)の言葉をヒントに

 ありのままの自分でいられると感じられるのは、どんなとき? きっと、自分を丸ごと受け入れてくれる家族や友人と一緒にいるとき、あるいは心の底から楽しみ、没頭できる趣味の最中だろう。そんなときには、心穏やかで、至福とも言えるような、周りの目に縛られない気持ちになる。あなたが誰でどんな人物であるはずだといった先入観をふりはらって、ありのままの自分でいればいいからだ。
 では、のけ者にされた、無視されたと感じる場面を考えてみよう。パーティーやサマーキャンプ、新しい職場に行ってみたら、もうみんな友達同士で、自分はあまり歓迎されなかった、あるいは知り合いになりたいと感じられなかったという経験はないだろうか? そのとき、どんな気持ちになっただろう? つまり、誰だって喜んで受け入れられたと感じたい。それこそが、人が家族や友人、ペット、同僚との関係性に求めるものだ。
 何かになじめないときや、プロダクトやサービスが自分向けにつくられていないと感じるとき、私たちは疎外感や苛立ち、失望を覚え、落胆しさえする。またプロダクトやサービスが自分以外のみんなに向けてつくられているように思えたら、そのプロダクトデザインに関わった人たちに軽視され、無視されたかのように感じる。その感情は、「どうせ、こんなの使いたくなかった」とイラッとするだけのことから、「まるで私たちのコミュニティのことなど想定していないみたい。どう想定されているのか恐ろしくさえ感じる」とひどく疎外感を覚えたり傷ついたりすることまで幅広い。
 どんなバックグラウンドをもつ人も、自分たちを多数派だと考える社会集団から疎外された経験がある。それを踏まえたうえで、そうした気持ちを自分たちのプロダクトやサービス、コンテンツ、マーケティング、カスタマーサービスに関わる人に抱かせないようにすること。これは絶対だ。プロダクトを生みだすときには、たとえ故意ではなくとも、そうした感情を引き起こすものはつくらないようにしたい。あなたと組織のメンバーが、プロダクトやサービスのユーザーにそうした感情を起こさせないように手助けをすることが、本書のゴールのひとつだ。
 デザイナーやクリエイターとして、エンジニア、ユーザーリサーチャーあるいはマーケティング担当者、イノベーターとして、誰もが包摂(インクルード)されていると感じられるようにしたい。あなたがその仕事についたのは、より良い世界をつくり、もっと豊かな暮らしを可能にし、愛する人(や生き物)と新たな経験ができるようなプロダクトやサービス、コンテンツをつくりだすためではないだろうか? その決意の核心となるのが「インクルージョン(包摂性)」、つまり誰もが自分自身を企業や個人の取り組みの成果に見いだせることだ。人は皆、目を向けられ、耳を傾けられ、考慮されたいと思う。そして自分たちのような人間が企業にとって重要で、それぞれ独自のバックグラウンドや観点が評価されていると感じたいと願っている。
 インクルーシブでありたいと望むだけでは不十分だ。しっかりとした意図をもってじっくりと検討し、実行する必要がある。デザイン、開発、テスト、マーケティングといったプロセスにおけるキーポイントの中心にインクルージョンを据えて、ユーザー間の違いを確実に考慮し、対処するようにしなければならない。ダイバーシティ(多様性)とインクルージョンの急先鋒ジョー・ガースタント[1]は、「意図的に、じっくりと、積極的に包摂(インクルード)しなければ、無意識に排除(エクスクルード)してしまう」と人々の注意を喚起する。実際Googleの各チームでは、この言葉を用いて、正しいことをしたいと望むだけでは不十分だということをたびたび確認しあっている。

成功のためのプランニング
 「計画を失敗するのは、失敗を計画するのと同じ」という金言は、インクルージョンのためのデザインにも確実に当てはまる。プロダクトデザインにおけるダイバーシティ、エクイティ(公平性)、インクルージョンについて考えるのは、あなたもあなたのチームもきっと初めてのことだろう。全員が理解し参加できる確固とした計画をまず立てることが重要だ。
 ほかの取り組みと同じで、役割、期限、目的、評価基準を明確に定義することが、インクルージョンの導入や実行に成功をもたらす重要な鍵になる。本書ではそうしたトピックを取り上げ、理論の実践と、アイデア出しからユーザーエクスペリエンス(UX)&デザイン、ユーザーテスト、マーケティングに至るプロダクトデザインのさまざまなフェーズへとインクルージョンを導入する方法を紹介していく。
 インクルージョンのための計画を立てるときには、相手に自分がしてほしいことをするという「金の法則」に従っていてはいけない。相手にその相手がしてほしいことをするという「プラチナの法則」に従う必要がある。参考になるのが、『黒い司法 黒人死刑大国アメリカの冤罪と闘う』の著者でイコール・ジャスティス・イニシアチヴ(司法の公正構想、EJI)の事務局長でもあるブライアン・スティーヴンソンの呼びかける「歩み寄り(proximate)」だ。歩み寄りとは、相手に近づき、その人の経験、不安、希望を理解しようとする行為だ。共感を築くことが目的だが、それが行動へとつながればなお良い。
 スティーヴンソンの説く共感の必要性はプロダクトデザインとはまた違う文脈のものだが、その考え方はプロダクトインクルージョンにも大いに当てはまる。企業もそれ以外の組織も、総じて、有色人種や社会経済的地位の低い人、高齢者、農村地域やグローバル企業の本社が置かれていない国に住む人、障がいを持つ人、LGBTQ+のコミュニティに属する人といった消費者にもれなく歩み寄ることはできていない。また、50歳以上の黒人の女性といったようにいくつものダイバーシティの次元が重なるとき、そうした消費者のニーズや好みに応えるには、さらに複雑な課題に取り組むことになる。それでも歩み寄れば、理解し、共感を築き、より良くなりたい、より良くしたいと思えるようになる。そしてそれこそが、あなた自身とチームメイト、組織のリーダーが、ユーザーのバックグラウンドにとらわれることなく、本当にユーザーのためにつくるという責任を担う原動力となる。
 ただ、やりたいと思うのと実行するのとでは天と地ほどの違いがあって、そこにプランニングが登場する。プランニングは、そのふたつをつなぐ架け橋だ。プランニングによって、組織に深く根付いた考えや行動を打ち壊すことができる。カルチャーを変える希望と期待がプランニングにはあるのだ。
 きっとこう思うだろう。「OK、わかった。インクルーシブに構築したいと思うだけじゃだめ。インクルーシブに構築するためにプランニングしなければ。そして実行する。それで、実際どうすればいいの?」本書ではそれも解決する。ただまずは、顧客やユーザーの心に本当に響くプロダクトをつくりあげ、マーケティングするには、インクルージョンがいかに不可欠かをしっかりわかってもらいたい。というのも、きっと複雑で、ややこしく、もどかしく、厄介な取り組みになるだろうから。たとえば、さあ発売だというときに、プロダクトの色が色覚異常の人には識別できない色だと気づくかもしれない。マーケティングチームが最新キャンペーンの最後の仕上げをしているときに、広告に登場する有色人種は、みんな肌の色が明るめに描かれていると指摘されるかもしれない。ラテンアメリカでまさに新作発表をしようとしたときに、英語からの翻訳にラテンアメリカ各国での文化的なニュアンスの違いを反映できていないのに気づくかもしれない。そうしたプロジェクトのつまずきのせいで、最善を尽くした意図も台無しになってしまう可能性がある。けれども、全員が参加する計画をつくり、できるだけ早い段階でプロダクトインクルージョンを取り入れられれば、そうした問題を回避して多くのチャンスを得ることができる。

インクルーシブデザインを優先事項にする
 どんな組織にも優先順位があって、プロダクトインクルージョンとともにリソースや時間の制約があるのは当然だ。時間に追われてワークフローに新たな試みを加えることなど考えられないかもしれない。あるいは、すでにプロダクトインクルージョンについては聞いたことがあって、正しく、ぜひ実行すべきと捉えてはいるものの、自分たちのユーザーのことはすでに理解できているからもう十分と考えているかもしれない。
 私はこれまで、Google内外の中小から大規模の組織まで何百ものチームや企業と仕事をし、Googleのプラットフォーム上での全体的な広告戦略を支援してきたので、そうしたことはよくわかる。いつも相手に寄り添い悩みに耳を傾けて、ビジネスを成長させ、新たなものを生みだす手助けをしてきた。企業のリソースに関するコンサルティングも行ってきたので、組織が成功するには明確な優先順位が必要なことも理解している。
 だから本書の執筆にあたっては、組織にはほかにも優先事項があり、多くの場合リソースが限られることを考慮した。そしてプロダクトインクルージョンを、アイデア出し(アイディエーション)、ユーザーエクスペリエンス(UX)、ユーザーテスト、マーケティングの4つのフェーズに分けて、そのうちの1、2フェーズから徐々に始められるようにしている。本書の序盤では、どうすれば少人数のチームであっても、より多様なユーザーとの関わりを持てるかをアドバイスしている。たとえば、実際のユーザーと話をして、そのストーリーをマーケティングに活用するのもいいだろう。後半では、4つのフェーズすべてを使う方法やテクニックを紹介していく。
 どのようにスタートすると決めたとしても、(私や私のチームが気づいたように)プロダクトインクルージョンはエキサイティングで、楽しく、終わりのない発見の旅であることに気づいてほしい。私たちのチームだって、いつも正しく理解できているわけではない。共に学び続けているし、この分野ですばらしい取り組みをしている人たちから学びたいと思っている。また、プロダクトインクルージョンの実践に取り組んでいる組織から学ぶとともに、業界の枠を超えたエコシステムをつくりあげ、ベストプラクティスを共有し、さらにインクルーシブなプロダクトを生みだすことができればと考えている。
 私たちはこの先に待っている旅にワクワクしているし、人種や民族、能力、性的指向、ジェンダー、社会経済的地位、年齢といった(挙げるときりがない!)さまざまな側面をもつ何十億ものユーザーにサービスを提供するには、インクルージョンを優先し重視する必要があるのも理解している。
 Googleでは、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンについて、ジムに通って筋トレをするようなものだとよく言われる。はじめは、課題や努力に嫌気がさすかもしれないけれど、「プロダクトインクルージョンの筋力」が鍛えられるにつれて楽になってくるし、楽になれば、楽しんでワクワクできるようになってくる。できることが増え、自分に自信がもてるようになり、これまでの道のりを振り返って自分とみんなが協力して成し遂げたことを誇りに思えるようになるだろう。はじめに(あるいは2、3度)まるでうまくいかなかったからといって失敗だとは思わないで。どんな失敗もその経験から学べることがあるし、思いがけない新たなチャンスをもたらしてくれることも多い。インクルージョンについて考え、話し合うのはすばらしい第一歩だ。結局のところ、アイデアと会話こそイノベーションの種であり、その種が実るとき、ユーザーは感謝するし、あなたの組織は成功を収める!
 そう、あなたの組織はきっと成功する。多くの人が、見過ごされているユーザーの割合は大きいものではないと想定し、だからビジネス上の判断としては優先順位が低いという誤った認識をもっている。だけどその想定も、それに基づいた結論も間違っている。もしそうした思い込みをしているのなら、考え方を変えて、現在のユーザーについて考えるのではなく、ユーザーにこれからなり得る人のことを考えるように強く勧めたい。自分の輪を少し広げて、その外側にいる人たちを取り込もう。そうすると、自分と違う見方や行動、考え方をもつ人たちも、自分と同じく、提供されるプロダクトやサービスを通して目を向けてほしいと切望しているのだと気づき始めるだろう。そうした人々は、異なるジェンダー、人種、社会経済的地位、あるいはそうした要素がいくつか組み合わされているかもしれない。また彼らの声は、従来のプロダクトデザインのプロセスで聞いてきたものとは異なるかもしれない。けれどもその声こそが、将来やプロダクトをかたちづくり、全体を豊かでより良いものにしてくれるのだ。
 対応するユーザーの範囲を広げていくと、サービスが提供されていない、あるいは十分なサービスが受けられていない消費者がそこに取り込まれていく。そうした人々のニーズの位置づけを高めて、プラクティス(実践)やプロセスの中心に置こう。彼らやそのニーズは、デザインプロセスに受動的にも能動的にも関わってくる。インクルーシブデザインを優先するうちに、ユーザーが深く抱く懸念を中心に据えて、その懸念を解決したいと願い始めるはずだ。それはビジネスにとってすばらしいことだし、企業が現在、そして将来にも存続するために欠かせないことでもある。
 プロダクトインクルージョンへの投資にリスクが伴うように感じるなら、逆に可能性を無視することでのリスクを純粋に収入と利益の観点から考えてみてほしい。図1-1に示すように、そこには山のようにチャンスが待っている。

画像1

 これは画期的な視点だ。世界のダイバーシティを念頭においてプロダクトをつくり、デザインとマーケティングのプロセスの中心にインクルージョンを据えることで、そういった面への意識の低い組織が見逃している何兆ドルもの世界の支出を活用するチャンスが手に入るのだから。
 もっと証拠が必要、あるいは「論より証拠」と考えるなら、Googleでプロダクトインクルージョンをどのように取り込んでいるかを次の章で取り上げているので、そちらを見てほしい。

Googleアシスタントにインクルーシブ・レンズを導入する
 Googleでは、プロダクトのデザインと開発のプロセスで不可欠な役割を、私たちインクルージョンチームが担う。そのプロセスにおけるパートナーとして、Googleアシスタント対応のあらゆるプロダクトでインクルーシブな経験を確実に提供できるようにしたいし、共に取り組むベス・サイとボビー・ウェーバーもその決意を共有してくれている。2人は積極的かつ意図的に、ローンチ前のプロセスにインクルージョンを持ち込んだ。難しくコストもかかる、プロセス後半に問題を見極めて解決する方法とは対照的なやり方だ。2人は顧客を喜ばせたいと考え、その鍵になるのがプロセスへの「インクルーシブ・レンズ」の適用だと感じていた。またインクルージョンチームがGoogleアシスタントのローンチに際して確実にしておきたかったのは、Googleアシスタントがユーザーを人種、民族、ジェンダー、性的指向、そのほかユーザーをかたちづくるあらゆる特性によって不快感を与えたり排除したりしないことだった。
 Googleアシスタントをインクルーシブにするためには、極めて多様な視点を導入しなければならないことはわかっていた。そのため、Googleアシスタントへの「ストレステスト」(攻撃的テスト)を実施するチームと合同で取り組むことにした。さまざまなバックグラウンドと視点をもつGoogler〔Google社員〕を検討室に集め、それぞれが持ち寄った文化的バックグラウンドを用いてGoogleアシスタントを試していったのだ。アフィニティグループ(共通の興味、目的、ダイバーシティの次元でつながる個人の集団)に属するGooglerは、Googleアシスタントや小さな開発者チームよりも、特定のコミュニティが疎外感や不快感を覚えるものについてはずっと専門家だとわかった。また、そうしたコミュニティのメンバーは皆同じではなく、1人に聞いてもコミュニティ全体の声にはならないということもわかった。
 そうしてプロダクトインクルージョン・チャンピオン(旗振り役)らが、人種差別、性差別、同性愛差別などに関わる攻撃的な質問や指示をされる可能性を想定してGoogleアシスタントをテストした。その取り組みの結果、たとえば「黒人の命は大事か?」とGoogleアシスタントに問いかけると、「もちろん、黒人の命は大事です」と答えるようになっている。
 プロダクトのデザインと開発にインクルージョンを取り入れることで、ローンチ時に対応を必要とするエスカレーションの数は著しく減少した〔ここでの「エスカレーション」とは、プロダクトのバグや設計上の欠陥につけこむ行為〕。エスカレーションはブランドに傷をつけ、信用を損ない、売り上げを鈍らせ、そうした状況はビジネスに悪影響を及ぼす。
 ローンチ当初、Googleアシスタントの対応すべきエスカレーションは全体の0.0004%だった。言い換えれば、何十億ものクエリのうち、対応が必要なほどの問題があったクエリはわずか0.0004%だったということだ。これはGoogleアシスタントの成長と普及範囲を考えると、まさしく大成功であり、かなり重要な点だ。さらに、

▶「Googleアシスタントは90カ国以上、30言語以上で提供され、現在、毎月5億人以上がスマートスピーカー、スマートディスプレイ、電話、テレビ、自動車などを利用するのに役立っている」[2]
▶「Googleアシスタントはすでに10億台以上のデバイスに搭載されている」[3]
▶「過去1年でGoogleアシスタントのアクティブユーザーは4倍に増加した」[4]

 普及が進んでいるにもかかわらず、エスカレーションが最小限に抑えられている理由のひとつは、プロダクトインクルージョンを優先し、それを設計、開発、テストのプロセス全体に取り込んだことだ。
 プロダクトのローンチ前に、あらゆるコミュニティに属する人をひとり残らず調査するのは不可能だが、多様な視点を持ち寄るのは絶対に不可欠だ。あなたもきっと、フォーカスグループ〔定性的な市場調査のために抽出した集団から情報を得る手法〕などのユーザーリサーチを実施しているだろう。そうしたプロセスをもっとインクルーシブなものにするには、リサーチャーや参加者のダイバーシティを高めることが重要だ。

すべての人のために、すべての人でつくる
 本書の核心は、人種、肌の色、信念、性的指向、性自認、年齢、能力、そのほか私たちの違いをつくりだす特性に関係しない、すべての人に向けたプロダクトやサービスをつくって市場に出すために、多様性のあるバックグラウンドをもつ人々が協力して働くことにある。私たちの信条(つくったのはかつてのチームメイト、エロール・キング)は、「すべての人のために、すべての人でつくる」こと。この信条こそ、私たちのチームをはじめGoogleの多くのチームが、プロダクトやサービスを生みだす人とプロセスに意図的かつ慎重に浸透させようと取り組んでいるものだ。私たちは、どこで暮らす誰であっても、私たちのプロダクトとサービスの恩恵を受け、そして満足できるようにすることを目指している。
 本書では、とてつもなく多様性のある人々のニーズや好みに対応することがどれほど大変か、包み隠すことなく伝えている。多次元的で多面的な個々人の特性に歩み寄るには、いかに時間と努力が必要かも過小評価しない。そして、デザインの原則や実践の中心に人間を据える価値と必要性とを正しく認識するのを後押しし、実行するにはどうすればいいのかを紹介している。
 私たちは、とてもエキサイティングな時代に生きている。これまでは見過ごされてきた人々や権利を奪われてきた人々が、力を得て、また自らを力づけて、世界経済をはじめとする人生のあらゆる場面に全面的に参画し、主導権をもつ時代だ。そうした属性の人々も皆、同じように目を向けられ、耳を傾けられ、私たちのプロダクトとサービスの提供を受けるのは当然のことだ。すべての人のために、すべての人でつくらなければならない。ただそれが正しい行為だからではなく、イノベーションと成長を促し、この世界をより良く、より豊かな場所にできるからだ。
 プロダクトインクルージョンとは、つまるところ、話を聞き、心をくだき、謙虚になることに尽きる。私たち誰もが、幸せと自己実現を目指す旅の途中にあり、その道のりのあちこちに課題とチャンスがある。その道のりで私たちは互いに助け合えるし、そうすることでチャンスをものにできる。見過ごされてきた声を取り込むように心がけつつ、消費者の立場に立ち、問いかけよう。また直面する問題や、目の前にあるチャンス、現状ほかの人たちが手にしている解決策や恩恵から誰がどのように排除されているかについて考え、挑戦し続けよう。そこに、より良い、よりインクルーシブなプロダクトをつくり、ビジネスを成長させるチャンスが待っている!
 本書では、幸運にも私がその形成に貢献できた学びを紹介している。Google内外の、プロダクトインクルージョンを単なる優先事項以上の存在へと高め続けているコミュニティからは、私も今もなお変わらず刺激を受け続けている。
 インクルーシブなプロダクトやサービスをつくり、提供できたとき、私たちはこの世界の美しさとダイバーシティを完全に反映し、あらゆる面で繁栄し始めるだろう。新たな市場を見いだし、つくりだし、富を築き、私たちの取り組みによってすべての人々の地位を向上させれば、私たち自身にも恩恵があるし、ほかの人々の生活に良い影響をもたらす充足感も経験できるだろう。

[1]https://www.joegerstandt.com
[2]https://blog.google/products/assistant/ces-2020-google-assistant/ (2020年1月7日)
[3]同上
[4]https://bgr.com/2019/01/07/google-assistant-1-billion-devices-android-phones/ (2019年1月7日)

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