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固定観念が出来上がっている事業ブランドの変革

ロングセラー・ブランドの悩みと言えばこれだと思います。かれこれ30年も続いているブランドをあらたに担当すると、いろいろな綻び(ほころび)や経年劣化が見られるものです。そしてそれに着手しようとすると、驚くことに社内の保守的な圧力が想像以上に強いことを思い知らされます。たいていは「変えることへの恐れ」を「これを好む消費者がいるから」という文脈に変換して語られます。今回はそのような「固定観念が出来上がっている事業ブランドをどのように変革するか」の話をしましょう。まず言えるのは変革しなければならないのは「社内のマインド」だということですが、正面からこの問題に取り組んでもあえなく撃沈します。多勢に無勢。これは前任者もやってきたことかもしれません。その結果が「いま」を生んでいます。

日本ハムのシャウエッセンもそのような問題に直面していたブランドです。シャウエッセンが生まれたのは1985年。多くの加工食肉ブランドが消えていく中、シャウエッセンはいまも売れ続けているトップブランドです。しかし2010年後半には、このブランドにも停滞期がありました。「この流れを壊したのが現在の日本ハム社長の井川伸久氏だ。停滞の背景の一つには、歴代の責任者があえて何も変えなかったことがある。下手に変えると、OBからクレームがつく。だが井川氏は市販品担当の経験がなく、トップブランドの「外様」として拡張に動く。商品そのものに手を突っ込むと、外野の批判が増えるため、まずは19年にシャウエッセンを入れた「ソーセージピザ」を市場に出した。これが成功し、品ぞろえも広げる。チーズ味、ホットチリ味、ロングタイプ、ミニサイズ……。新球場がある北海道ボールパークFビレッジで人気を呼んだ「シャウエッセンホットドッグ」はキッチンカーで全国を走らせる。この結果、ブランド拡張の前後でシャウエッセンの年間売上高を680億円から760億円に伸ばした(日経新聞2月1日)」。

この成功事例をみると「ラインエクステンション」が決め手のように見えますが、僕には「見慣れたブランドの次世代提案」と映ります。思い出してみれば、バーバリーも虎屋も同じような発想で伝統的なブランドを現代にマッチするものに変えてきた。そして「次世代提案」は単なる商品開発の話ではなく、顧客インサイトがなければなりません。それは「ピザが欲しい」という見慣れたものではなく「バズりメシやアレンジレシピを楽しみたい」というメッシュ感のものでしょう。このニーズは食品の世界でいまでも確かに存在します。正直、このインサイトは別段、シャウエッセンに限ったものではありません。ソーセージに限ったものでもない。もう少し広く、顧客の本音を切り出したインサイトだと思います。このようなアプローチなら保守的な社内も受け入れやすいでしょう。

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