ゲームを再定義するアプローチ

「ふとるがかち」という言葉をご存じでしょうか。これは「不取るが価値」と書きます。顧客には「不」という字がつくものがたくさんあります。不安、不満、不便、不都合、不経済。これらの「不」を取り除いてあげると「価値が生まれますよ」つまり「お金がもらえますよ」という意味です。僕はインサイトのコツは「不」を見つけることだと考えています。目の前の顧客をじっと見て「あなたはこれに困っている(不)でしょう」と見抜くことです。これはビジネスの普遍的なアプローチだと言えますが、長くその仕事をしていると「製品廻りの不」が主なテーマになるようです。

先日も公開セミナーで「ふとるがかち」の話をしました。受講者はブランド戦略の実務についている方々です。例えば「家電量販店の不は何か」「競合と比べてどの程度、自社の不はあるか」など、実務家ならではの議論になりました。もちろん、これらの不を見つけ、解消する手を打つことはとても意味のあることです。しかし業界によっては非常に競争が激しく「不の取り合い競争+サービスの強化」になっていることもあります。同時に「それくらいの不なら常識の範疇。甘んじて受ける」という顧客側の考えもあります。そうなるとわざわざ取り除くことの効果やビジネス効率はどうなのかという話にもなりかねません。つまり製品廻りやサービスの不はこれまでのゲーム(企業活動や競争)を前提としたインサイトしか出てきません。もっと大きな不について考えることが大事なのです。つまり「世の中の欲しいものや未充足について考える」こと。そのなかで「家電量販店が出来ることは何か」と考えてみる。随分と当たり前のことを言っていると思いますが、あまりにも多くのマーケターが見落としている足元の視点だと思います。

ある支援先企業で「未病」についてインサイトを行ったことがあります。未病、つまり現在の健康状態がずっと続くよう、病気にならない「転ばぬ先の杖」を意識した生活習慣です。このセッションでは血糖値や肥満、認知症といった身体的な未病から「ストレス」「将来不安」などメンタルの未病まで、それこそ考えられる限りのインサイトが出てきました。そして調査をして優先順位の高いものを抽出しました。とても興味深い仕事でしたが、ところでこの会社は何の会社だと思いますか?実は健康産業でも医療でもありません。そのような会社が未病という「世の中の解消したい不」について検討したのです。もちろんその後にこの会社が提供できるソリューションをまとめたことは言うまでもないこと。会社の新しい一面を見抜く思いでした。これが現状に対して近視眼的にならず、ゲームを再定義するアプローチです。