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とにかく「YES」で応えて案件を楽しむ人は、チームの開発意欲を増幅させる。

京都大学発のスタートアップ企業・エニシア株式会社の代表を務める小東 茂夫さん。情報学研究科出身のエンジニア陣とともに、カルテの要約支援ソフトウェア『SATOMI』の開発を進められています。

◯話し手
エニシア株式会社
小東 茂夫 さん
https://enishia-inc.co.jp
大手銀行やコンサルティング企業、京都市産業観光局等での勤務を経て、社会人大学院生として京都大学に入学。実母が指定難病を患ったことを機にエニシア株式会社を設立し、医師が記述したカルテを自然言語処理技術によって要約するソフトウェア『SATOMI』を開発。患者がスムーズに、安心して治療を受けるために必要となるカルテの情報提供と、常態化している医療従事者の長時間労働の解決を目指す。

◯聞き手
株式会社blue代表
吉永 尚由

フリーの営業マンを経て、2019年に株式会社blueを設立。
「いい仕事をしよう」をテーマにWebシステムやWebサイトの受託開発、高還元SES事業を展開している。
https://blueteam.jp


「YES」から入ってくれるエンジニアは頼もしい。


吉永:
小東さん、今日はよろしくお願いします。以前エンジニアのアサインのご相談をいただいたとき、小東さんて非常に丁寧な対応をされる方だなっていう印象があって。一度詳しくお話してみたいなって思っていたんです。

小東さん:(以下、敬称略)
いやいや。私自身はエンジニアではないので、"エンジニアと一緒に仕事してる人"としての視点でお話することになるんですが……。吉永さんからこの対談のご連絡をいただいたとき、「どういう人がいいエンジニアだろう?」って考えるよりも先に、「うちもいいエンジニア欲しい!」と思いました。(笑)

吉永:
そういう方の視点でぜひ、お聞きしたかったんです。エニシアさんとお仕事をご一緒したことはまだないので、小東さんが考えるいいエンジニアはどんな人だろうってよけい気になって。

小東:
ありがとうございます。私が会社のメンバーのなかでいいなって思うのは、基本的に「YES」から入ってくれるエンジニアですね。

吉永:
相談したときに、「とりあえずちょっとやってみますか」って言ってくれるような人でしょうか。

小東:
そうです。エンジニアのものづくりって、やらないといけないことは無限にあるじゃないですか。でも、「こんな大変なことが、あんな大変なことが」って、そればかりに気を取られると、つぎの一歩が踏み出せない気がして。

吉永:
確かに、相談したときの第一声が否定の言葉だと、それ以上話が前に進まなくなっちゃいますよね。

小東:
「面白いと思います」みたいな返事をサラッとして、でも実際に進めるときは「まず小さいここの部分から考えていきましょう」と組み立てて打ち返す。チームにそういう人がいてくれると、新しいことやるぞっていうエネルギーが増幅していく気がします。もちろん私が筋の悪い話をしてたら、それは止めてほしいですけど。

吉永:
前向きに受け入れて、さらに着実な進め方を考えてくれる人か。私もそういう人すごくいいなって思います。

小東:
これをこの期限内に収めなきゃとか、品質を維持しないととか、考え出したらもちろん大変なことっていっぱいあるんですけど、企画とか構想の段階でブレーキをかけられるとすごく残念に思うんです。抽象度の高いところで考えることを諦めずに、一緒に考えてくれる人がいいな。

吉永:
そこの目線さえ合ってたら、人によって得意なアプローチとか考え方が違っても、影響し合ってもっといいものがつくれそうですね。


慎重に言葉を選んで、きちんと相手に伝える。


小東:
私もうまくできてはいないんですけど、相手に通じる言葉で会話するっていうのも大事だなぁと思います。私以外の社内メンバーはみんな情報学出身なので、その人たち同士はすごく難しい専門用語とかを使って会話するんですよね。でも、私みたいにAIのことをそこまでわかってない人間にも同じように話されると、全然内容が伝わってこない。

吉永:
単語を調べることから始めないと、話を理解できないですね。

小東:
でもそこをちゃんと意識してるエンジニアは、誰が聞いてもわかるレベルまで降りてきて伝えようとしてくれます。専門用語を自分なりに翻訳して状況を伝えたり、何かほかのものに例えてみたりして。

吉永:
「自分のスキルを見せつけたい」みたいな気持ちがなくて、本当に相手に伝えたいと思うから、そういう振る舞いができるんでしょうか。

小東:
そうだと思います。その人は、どういう問いかけをしたら相手の心を動かせるか、きっとすごく考えてから話してる。うちはカルテ要約のソフトウェアをつくっている会社なので日々テキストを相手にしてるんですけど、言語処理をするエンジニアはやっぱり、言葉を大事にするんだなって思いました。

吉永:
きっと、相手の立場に立って考えるところから始められているんですね。考えて考えて紡ぎ出された言葉って、すごく相手に響くと思います。

小東:
企業さんと仮説検証しながら開発を進めるような案件もたまにあるんですけど、その人が相手のことを理解して尊重しつつ、こちらのお話もご理解いただけるように舵取りをしてくれるんです。実験的な取り組みなので、結果が出せないことももちろんあるなか、「この方法を使えばこの段階まで進めるということがよくわかりました。お願いしてよかったです」と言われたりとか。これってきっと、いいコミュニケーションができていたからですよね。

吉永:
Webシステム開発の世界って、納品してやっと感謝されるっていうのが普通かと思うんですけど、検証結果も一つのゴールとして認めてもらえて、そこで満足度を高められてるのってすごいですね。

小東:
限られた時間のなかで、最小の手数でできる組み立て方を考えて、そしてそれをお客様にわかってもらえるように話す。それで信頼関係が築けているんだと思います。でも、その人って特に口数多いわけでもないんですよ。

吉永:
へぇ、そうなんですか。なんか私のイメージだと、すごく流暢に喋る方なのかなと。そういうわけでもないんですね。

小東:
多少のリップサービスぐらいはできるけど、営業っぽい感じでもないです。「周りが見えてる」っていうのが近いかな。『SATOMI』の立ち上げ時のエンジニアで、今は別の業界で働きつつ、副業として引き続きうちにも関わってくれてて。ヤクルトスワローズの熱狂的なファンで、つば九郎っていうマスコットキャラが大好きなちょっと珍しい人です。

吉永:
できるセールスマンみたいな感じでスラスラ喋るんじゃなく、その方みたいにすごく慎重に言葉を選んで話す方が、真摯さが伝わるのかもしれないです。ヤクルトのあのキャラクターって、そんな名前だったんですね。


目的や意義を見極めて、それを見失わないように動く。


吉永:
小東さんから見て、「いいエンジニア」の共通点ってどんなところだと思いますか?

小東:
うちのメンバーはみんな、目的や意義をすごく大事にしてますね。それを見失わないようにしっかりと持ちながら開発にあたってると思います。

吉永:
最終的な目的を設定して、そこに向けて何をするべきなのかを順序立てて考えていく、みたいなことでしょうか。

小東:
それもありますし、そもそも、その目的自体がいいものかどうかを見極めることから始めてます。そこへ辿り着くことに本当に価値があると思ったら取り組む。エンジニアさんってたまに、「自分のスキルを見せてやるぜ」みたいな人がいると思うんですけど、それってすごく近くしか見てない気がしてて。「こういう人にこういう価値を届けたい」「こうすればそのゴールに近づけるかもしれない」とか、ちゃんと遠くを見て一緒に考えられる人たちですね。

吉永:
なるほど。『SATOMI』を開発するなかでも、エンジニアさんたちに助けられたことってやっぱり多いですか?

小東:
いやもう、助けられてばかりですよ。特にさっきお話ししたつば九郎好きの彼は、もしほかのエンジニアが目的から外れて迷走したとしても、なんとか雰囲気を壊さずに声かけをしたりして、軌道修正できるように働きかけてくれるんです。

吉永:
それは心強いですね。小東さんから「ちょっと何とかして」という前に、その方が自発的に動かれるんですか?

小東:
そうです。もともと3人でスタートしたので、上下関係みたいなものはほとんどなくて。自分たちのやりやすい雰囲気を自らつくろうとしてくれるので、すごく助かっています。

吉永:
それもきっと、喋るテクニックとかじゃないんでしょうね。相手のこと、全体のことを考えたら、「こうした方がいいんじゃないか」っていうのがその人の頭のなかに浮かんで、きちんと言葉を選んで伝えていって。

小東:
彼が仕事のなかで発言することは、ちゃんと受け止めた方がいいっていう空気がもうできてますね。口数が少ないので、打席的にはそんなに多くないけど、打率はめっちゃ高いみたいな。

吉永:
小東さんも、野球結構お好きなんですか?

小東:
昔は阪神ファンだったんですけど、満員でお祭り騒ぎの甲子園は、私の知ってる甲子園じゃないので……。最近は全然行ってないです。


フィードバックをもらえる環境で、“つくる”と“こける”を繰り返す。


吉永:
若手の方のなかで、「エンジニアって意外と喋るスキルも必要だな、どうしよう」って思ってる人は結構いると思うんです。でも、必ずしも流暢に喋る必要はなくて、ちゃんと自分の伝えたいことを自分の言葉で表現するのが大切だとわかると、すごく希望を持てるんじゃないかと思いました。

小東:
そうですね。いわゆる"陽キャ"である必要は全然なくて、相手に関心を持ったり、「ちゃんと伝えたい」っていうベクトルさえあったらいいんじゃないかな。あと「人とのコミュニケーションが億劫だから1人で開発やってます」という人もいらっしゃるかと思うんですけど、最初からそうだとちょっともったいないなぁとも思いますね。

吉永:
短期のスクールを出て、そのままフリーになる方も最近は多いみたいです。

小東:
エンドユーザーでも、先輩でも友達でも誰でもいいんですけど、評価を恐れずにどんどん見てもらうべきだと私は思ってて。フィードバックをもらえる環境に一度は身を置かないと、つくって自己満足に終わっちゃう気がするんです。

吉永:
そうですよね。フィードバックを受ける機会が少ないと、自分がそこからどう変わっていけばいいのかもわからない。

小東:
本当に自分がやりたいと思うことをやって、それに対してフィードバックをもらう。つくって、こけて、力をつけていくのが一番かなと。こけても立ち上がれるのは、やっぱり興味のあることだからだと思うし。鍛えてもらってなんぼっていう、Mな感じでいいと思います。

吉永:
なるほど、Mな感じで。フィードバックの相手がもし近くにいなくても、Twitterとかで発信したらもう、いくらでも意見が飛んできそうですよね。

小東:
そういうのも全然ありだと思います。あと、京大の近くにエンジニアのコミュニティスペースがあるんですけど、そういう仲間うちで教え合ったりする場所に行くのもすごくいいですよね。人に教えることで、改めて自分の考えを言語化する機会にもなって。


使う人の顔を思い浮かべたら、それがモチベーションになる。


吉永:
『SATOMI』の開発からリリースまでって、どのくらいの時間がかかったんですか?

小東:
かなり時間かかりました。患者さんのカルテの内容って普通は門外不出のデータなので、病院と契約を結んでデータを入手するまでに1年ぐらい。リリースと言いつつ、今もまだ商品としてではなく、共同研究下において大学病院で使ってみていただいている段階なんですけど、そこまでにまた2年半かかりました。

吉永:
つくったものが表に出ていくのに3年以上か。実際に病院で使ってもらえるようになるまでの長い期間、エンジニアさんたちのモチベーションってどうやって保ってたんですか?

小東:
カルテデータを入手することに尽力してくださったドクターがいたんですけど、エンジニア陣がその方のことをすごく尊敬してて。私を介さずとも、ドクターとエンジニアとの間に信頼関係ができていたんです。「あの先生が笑ってるところを見たいよね」っていうのが、かなり大きなモチベーションになっていました。

吉永;
素晴らしいですね。御社のエンジニアさんはスキルもすごく高いと思うんですけど、人間味をめちゃくちゃ感じます。

小東:
まぁでも、その大きな目的以外のことに話を持っていこうとすると、「死んでもやりたくないです」とかバッサリ言われることもあるんですけど。カルテの自動要約で、患者さんや医療従事者の方がデータを扱いやすい状態を広げられたら、いずれは"構造化"していきたいので、まだまだやることはたくさんあります。

吉永:
"構造化"っていうのはどういうことですか?

小東:
例えばWordに書かれた文章をExcelデータに自動変換するみたいな。カルテに書かれた自然文を、機械で扱えるようにすることですね。医療業界で働く人が楽になることに加えて、医学の研究が進んだり、創薬を効率化したり、そういう一歩先のことを情報技術でサポートできないかなと考えているところです。


「面白い」と感じたことに没頭して、自分の武器を見つける。


吉永:
いまエンジニアをしている人も、これから目指す人も、「いいエンジニア」に近づくためにはどういうことから始めればいいと思いますか?

小東:
自分が「面白い」と思ったことに取り組むべきですね。たぶんエンジニアって、スタンプラリーみたいにスキルを集めていくものではないと思うんです。不足してる技術を補わなければいけない場面はあると思うんですけど、その人なりの武器が見えたらチームはちゃんと機能するんじゃないかなって。自分がおもろいなって思ったことに時間を注ぐと、そこにつながっていくと思います。

吉永:
自分の武器を見つけて、ポジションが確立されていくっていいですね。たぶん、エンジニアさんの初期投資ってPCだけで、あとは自分の時間さえ確保できればいいから、興味のあることに没頭しやすい職種ではありますよね。

小東:
確かに。しかも、あんまり初期投資せずともやり方次第で大きいインパクトが出せるっていうのは、すごい可能性を感じます。

吉永:
リアルなものづくりを始めようと思ったら、金型を用意して、工場を用意して……、準備だけで数億かかるかもしれないじゃないですか。でもWebだったら、これできたらいいなって発想したらすぐにPCのなかでつくることができて。それが今までの世の中にないものだったりしたらインパクトもすごく大きいし、面白いですよね。

小東:
しかも最近だと、ノーコード(ソースコードを書かないソフトウェア開発)が注目されてたり、普通科の学校でもプログラミング学習が始まったりしているみたいで、どんどんハードルが下がってきてる気がします。自分がもし昔に戻ったらエンジニアリングやってみたいし、自分の子どもにもそういう世界のことを知ってほしいです。

吉永:
どんどんチャレンジしやすい環境になってきてますよね。小東さん、今日はたくさんお話を聞かせていただいてありがとうございました。いつかお仕事ご一緒したいです。

小東:
本当にしてみたいですね。ぜひ、一緒にいいものをつくりましょう。

〈小東 茂夫さんにとってのいいエンジニア〉
・まず「YES」で応え、チームの開発意欲を増幅させる人。
・どうすれば相手に伝わるか考え、言葉を選んで説明する人。
・いい目的かどうかを見極めて、それを大切にできる人。


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