vol.8 図面をはみだす設計を、編む
Prologue:「物件から物語へ」をたどる
「編む、ブルースタジオ」では、vol.7より住まい・暮らしのデザインのフロー、
「物件から物語へ」至る過程を探っています。
「エリアリサーチ」「ビジョン策定」についてはvol.7で取り上げていますが、
今回は「設計」を中心に取り上げたいと思います。
「設計」と聞くと、
求められたとおりに図面をひいて建物をつくる、というイメージが強いかもしれませんが、
今の“あたりまえ”を見直したり、
境界の在り方を考えたり、
周辺との関係性を結んだり、
敷地境界線の内側や建物の中だけにとどまらないデザインをブルースタジオでは行なっています。
写真が中心のビジュアルが楽しめるホームページのPortfolioとは少し異なる視点から、
ブルースタジオはどこまで設計しているんだろう?をお伝えできればと思います。
design 1:ビジョンの道をひらく
今回は、前回も紹介している「hocco」に注目していきたいと思います。
エリアリサーチの中で発見された地域のかかえる課題や、
その場所ならではの魅力。
hoccoでは、
・地域のかかえる「孤立」という問題を解決するための「接点」づくり
・「バスターミナル」という、公共性の高い、地域生活環境のハブとなりうる立地
を組み合わせて、
自分の趣味や好きなことを町へとひらくことができる、
住宅地のバスターミナル 「生活者」が育む なりわい長屋 を目指しました。
エリアビジョンから考え目指した「なりわい長屋」。
かつての生活商店街のような、生活者自らが営むあきない=「なりわい」が集積すること、
個人の生活がにじみ出し、その人の人格や生き様のような「なりわい」によって、日常の生活を分かち合うことができる長屋を目指しました。
しかし第一種低層住居専用地域に位置するhoccoには、店舗兼用住宅をつくる際には決まりがあります。
どんなに住宅が広くても「50㎡」という制限は、集合住宅とは相性が悪いようにも思えますが、
hoccoでは10㎡の店舗部分をもった住戸を5つ作りました。
お店が複数あり、かつそれぞれが長屋で暮らしを分かち合うことでうまれる「なりわい」の集積。
1戸あたりのお店の面積は狭くなっても、そのサイズだからこその良さもあります。
土間はその奥に続くダイニングと高さが変わり、また店舗可能な住戸では引き戸があることで、一つの空間として利用することも、分かれた空間として利用することもでき、生活者自身が空間を調整しながら生活することができます。
住民が飼っている猫を見に近所の子どもがやってきたり、
土間越しに「良い匂いですね、お昼は何ですか?」と何気ないコミュニケーションをかわすことができる場所。
竣工から1年、 暮らす人々の暮らしとなりわいは地域に定着し醸成をしつつあります。
design 2:エリアに光をともす
元々バスターミナルだったhocco。
周辺に暮らす様々な人が利用してきた場所だからこそ、hoccoが地域生活のハブになりうると考えました。
hoccoには公園が隣接しています。
また道路を挟んだ向かいにはマンションの公開空地や、桜が咲く並木道など、緑の環境が多くあり、少し行くと小金井公園もあります。
hoccoと隣接する公園との間には、かつて柵が設けられていましたが、
市と協議のうえ撤廃、
このことにより、公園を利用する方が出入りしやすくなると同時に、
緑の環境を一体的に認識できるきっかけになっています。
こちらは春に行われた「おてせいなりわい市」の様子。
お花見にきた人がhoccoの中で食べ物を買ったり、イベントに来た人が桜を楽しむ、そんな風景がありました。
また宅配ボックスやモビリティステーションがあることで
イベント時以外も、誰でも訪れやすい、地域のハブになりつつあります。
the light of my life
求められたとおりに図面をひくだけではなく、
チームで考えたエリアビジョンを実現するための、図面をはみだした「設計」。
次号では竣工後について取り上げます。お楽しみに。