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器でお酒の味は変わる。おうち時間を豊かにする「酒器」のススメ。

昨日、キャンプで使う酒器のことを紹介する記事を書いた。

今日は、家で使っている酒器のことも含めて、酒器へのこだわりを少し書いてみようと思う。

まだ私が20代後半の頃の話だ。大阪は兎我野町の怪しげな風俗ビルの5階に一軒の飲み屋があった。カウンターだけのこじんまりした店だったが、出てくる料理は超一級。妖精のような尖がった耳を持つ、日本人離れした顔の小柄なマスターが一人で切り盛りしていた。

私は一度で虜になり、足繁く通うようになった。ため息が出るほど旨いお造り、調味料を一切使わない野菜の旨味だけの椀物、イチボを使った焼き立てのローストビーフ、ホタテの貝柱のムース、生で食べられる自家製ベーコン、かぶりついた瞬間に幸せになるピザ……。何もかもが「絶対に他では食べられない味」だった。

日本酒も美味しかった。注文すると棚にずらりと並んだ酒器から好きなものを選ばせてくれるのだが、1個何万円もするような作家物や、李朝や宋の時代の骨董の磁器など素晴らしいものばかり。

最初に訪れたとき、マスターは安物の半合グラス、陶器、磁器と、素材の異なる3つの酒器をカウンターに並べた。

何が始まるのかと見ていると、まずは半合グラスにお酒を注ぐ。「これが基本の味」と。それから同じお酒を他の酒器にも注ぎ、「飲んでみ、味が変わるから」と言う。半信半疑で順番に口をつけて驚いた。

「違う!!全然違う!!」

同じ酒とは思えないほど、それぞれに味が異なった。「器によって、酒は味を変える」と知ったのはこの時だ。

最初はわかりやすく素材の違いで教えてくれたが、この後、何年も通い続けていろんな酒器で飲ませてもらい、同じ形の同じ作家が焼いた器でも、「器が育つ」と酒の味に個性が出ることを知った。それは、味を損なうという意味ではなく、「器によって引き出せる良い部分が違う」ということ。

だから、私は家でお酒を飲む時、いろんな素材の酒器で試す。そうすると、そのお酒のいろんな良さが見えてくるのだ。

我が家の酒器もご紹介。日本のアンティーク棚にずらっと並べている。ガラス、磁器、陶器と素材もいろいろだ。これでも全部ではない。

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入りきらないので、飾り棚にも置いている(コーヒーカップも1つ混じってるが)。前列は特にお気に入りだ。

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ちなみに、前から2番目、左から2番目の黒い焼き締めのビール用酒器は、25歳の時に私が初めて自分の書いたものでお金を稼いだ時に買ったもの。「佐藤けい」さんという作家さんのもので、ずっと欲しくて店で眺めていた器。きめ細やかな泡が立ち、味わいもまろやかにしてくれる。今もこれでビールを飲む気分は格別だし、初心に返る。

皆さんも、おうちでお酒を飲むなら、ぜひお気に入りの酒器で。缶ビールをそのまま缶から・・・なんてことはせず、お気に入りのグラスにきれいに泡を立てて注ぐだけでも、ちょっとだけ豊かな気持ちになれるはず。

※器の力を教えてくれたお店は「酒人肴びりけん」。今は移転して北新地にあります。

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