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酒飲みの私が尊敬する、若山牧水という歌人について

お酒を飲みすぎた翌朝、必ず思うことがある。
「今日は絶対に飲まないぞ。休肝日にしよう」

そう誓った時は、いたって本気だ。ものすごく真剣だ。固い固い決意のもと一日を過ごす。
するとどうだろう、夕方になるにつれてだんだん飲みたくなってくる。
気がつくと「酒のアテ」を作っている。
そして、酒のアテをずらりと並べたテーブルの前で言う。

「これはお酒がないとダメやね、うん」

言い終わると、朝の誓いなどなかったように、悪びれることもなく、さも当然という顔をして、冷蔵庫に直行。これから飲むお酒を物色する。

……恥ずかしながらそんな人生を送ってきた。
もうかれこれ30年になる。

私が朝の誓いを破って冷蔵庫から酒瓶を取り出すとき、必ず頭の中に流れる短歌がある。

ほんのりと 酒の飲みたく なるころの たそがれがたの 身のあぢきなさ

若山牧水だ。
おそらく中学の国語で下の短歌を習っている人が多いと思う。

白鳥は かなしからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ

なんとも寂しく、しみじみとした情緒があるうえ、白や青などの色も見えてくる美しい歌だ。
「若山牧水」といえば、中学生の時はそういう美しい短歌を作る人というイメージだったのだが、大人になって知った牧水先生は違った。
なんと、1日に一升飲んでいたといわれるほど大酒飲みで、酒に関する短歌が非常に多いのだ。
それも、ほぼアル中か?と思うような歌ばかり(笑)。
とにかく酒が好きで好きでたまらなくて、飲まずにはいられないという気持ちが伝わってくる。

最初に紹介した短歌も、Kaori語訳でいえばこんな感じだ。

うーわ、ちょっとだけ酒が飲みたくなってきた。夕方のそんな自分がどうにもならないねんなー。(朝は飲まへんって決めてたのに・・・)

はぁ~、牧水先生、すてき。なんて正直で人間らしいんだ!

牧水先生には、まだまだたくさん酒飲みの心をくすぐる歌があるので、今日はKaori語訳と共に厳選した3つをご紹介。

●人の世に たのしみ多し 然れども 酒なしにして なにのたのしみ
(訳:世の中って楽しいことが多いよなぁ。だけど、酒がなかったら、何が楽しいねん?)

●それほどに うまきかとひとの 問ひたらば 何と答へむ この酒の味
(訳:「酒ってそんなに旨いん?」って人に聞かれたら、何て答えたらいいんやろなぁ、このむちゃくちゃ旨い酒の味!それは語れへんで!)

●かんがへて 飲みはじめたる 一合の 二合の酒の 夏のゆふぐれ
(訳:今日はちょっと控えようと考えて飲み始めたら、一合いって、気づいたら二合いってるやん!そんな夏の夕暮れ。まあいいか……)

※あくまでもKaori語訳です。

牧水先生の酒の歌は、どれも正直で人間らしくて、失礼ながら「なーんか可愛いなぁ」と思ってしまう。酒愛の深さにも感動してしまう。
私のような酒飲みにはその気持ちがわかりすぎるものだから、牧水先生の短歌にひたりつつ、また今日も酒が進むのだ。



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