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目を凝らせば、もっと面白いことが見えてくるかもしれない。

同じライターでも、私のように「書くことが好きでライターになった」という人ばかりではないということには、結構前から気づいていた。
私が書かせてもらっている日本酒の業界誌など特にそうで、私以外のライター3名は「ライター」というよりも「日本酒の専門家」としての要素が強い。「日本酒が好きで」というところからスタートし、日本酒に関わる手段の一つとして「書くこと」がある、という感じだ。だから、日本酒イベントの監修や日本酒講座の講師、飲食店や酒蔵のお手伝いなど、「書くこと」以外にも日本酒関連の仕事を多々やっている。逆に言えば、日本酒関連以外のことで「書く仕事」はされていない。

私が「師匠」と仰いでいるY氏もそうで、もともとは新聞記者。「デスクより現場で書いていたい」ということで、新聞社を辞めてフリーランスのライターになられた。
年に1、2回、二人で飲みに行くのだが、その時に「僕は書くことが好きで新聞記者になったというわけではなく、『新聞』が好きだったんですよ」と話していたのが印象的だった。
子供の頃から「新聞」そのものが大好きだったのだという。

「はぁ、そうですか」と相槌を打ちながらも、「新聞」が好き、という意味がいまひとつわかっていなかったのだが、Y氏と行動していると、なんとなくその意味が理解できるようになった。
Y氏は常に世の中のニュースを探しているのだ。
と言うと、大事件を追っているようなイメージになってしまうが、そんな大げさなことではなく、「目の前で起こるちょっとしたことに気づき、それを面白く伝える」ことがとても上手いのだ。

それを実感した出来事があった。
Y氏とその日2軒目の立ち飲み屋に入った時のことだ。日本酒のラインナップが素晴らしい人気の立ち飲み屋で、入店すると私はすぐメニューにくぎ付け。何を飲もうかな~と、そればかりを考えていた。
すると、Y氏が突然、カウンターの中にいた店員のお兄さんに、
「すみません、写真1枚いいですか?」
と尋ねて、デジカメを取り出した。(常にデジカメを持ち歩いている)
何を撮るのかと思ったら、その店員のお兄さんにカメラを向けている。
お兄さんも「いいですよ~」と笑っていた。
よく見ると、お兄さんの着ているTシャツには「mont-bell」の大きなロゴが入っている。

mont-bell(モンベル)といえば、登山やアウトドアのグッズ・アパレルの人気ブランド。そういえば、Y氏の趣味は山登りだ。しかし、撮影までするなんて、mont-bellが好きな人にしかわからない限定Tシャツか何かなのだろうか……? 一瞬そう思っただけで、深くは考えなかった。私の関心はまたすぐに日本酒へと移行した。

それが、後日、Y氏がアップしていたFacebookの写真を見て驚いた。
大笑いした後、軽い敗北感も覚えた。

実際の投稿写真とコメント
Y氏のFacebookより拝借

たった1行のコメント「ああ、勘違い」。
そして、「nomt-dell(ノンデル)」のロゴTシャツ!

まさかだった。気づかなかった。
これが「飲んでる」Tシャツだなんて!

居酒屋の店員だからこそのシャレが利いたTシャツ。あの場で気づいたらもっと面白かったはず。でも、私はまったく気づかなかった。Y氏が撮影していた時も深く考えることはなかった。だけど、Y氏は入店してすぐにロゴに気づき、撮影を申し込み、こうして「面白ニュース」に仕立てあげた。

これはほんの一例で、Y氏はいつもこんなふうに街の中に転がっている面白いことを投稿している。短いコメントも上手い。
このnomt-dellの一件があるまでは、「Y氏のまわりではいつも面白いことが起こるんだなぁ」「いいなぁ、そんな面白いことがいっぱいあって」と思っていたのだが、それは大きな間違いだったことに気づいた。
「起こっている」んじゃない。「探している」んだ。そういう「目」で世の中を見ているんだ。
「子供の頃から新聞が好き」というのはそういうことか。自分が発見したニュースを皆に伝えたくて、その手段として「書くこと」を選ばれたのだろう。

私は「noteの毎日投稿」を目指していないが、もし「毎日投稿」を続けていたら、日々noteのネタ探しをすることで、いろいろなものを見る目や、考える力を養えるのではないかと思う。文章力アップ云々より、その力の方が大きいのではないだろうか。
おそらく「書こう」としていなければ、ただ過ぎ去っていくだけのこと。そこに目を向け、考え、文章化する。それは大きな意味のあることだと思う。

そうわかっていながらも、毎日投稿は私にはハードルが高くてやらないんだけど(笑)。
でも、Y氏のような目を持っていると、きっと毎日が楽しいから、私もぼんやり生きずに、世の中の面白いこと・感動することを探しながら生きたいと思っている。
自分の中の”感性の井戸”を涸らしてしまわないよう、いつも潤していたい。
そして、面白いことだけじゃなく、人のあたたかさや優しさ、ひたむきに生きる姿をしっかり見つめていたい。
それを書いていけたら、私にとっては最高の人生だ。

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