お兄さんを信じる力と道しるべ
何か、困ったことがあったら、闘うか、逃げるかである。逃げるにあたり注意せねばならないのは、逃げ続けるのではなく、戦略的撤退ということで、”いったん逃げる”ことにとどまること。
マエヨメは、長男のお兄さんを逃げさせた。つらかったらやめていいよという切り札を、じゃんじゃか切った。それはもう。なんかありゃあすぐ逃げるヤツになった。ドラゴンクエストだって4コマンド ▶たたかう 、 じゅもん 、 どうぐ 、 にげる 。なのに、お兄さんは ▶にげる 、 かさにかくれる 、 うそをつく 、 ちょっとたえる 。たたかわない。だってお母さんがいいよっていうから。
あれは、お兄さんが小学校低学年、1年生か2年生ぐらいの、ある日のことなんですが、お友達にいじめられたと言って帰ってきた。タケチくん(仮称)にいじめられた、と。ああそうですか、困りましたね。公園で、タケチのやつが、カマキリ捕まえてきて、一緒に遊びたいならこの虫を食えという。なるほど。ふざけんなよ。である。親が出てくのはみっともないことかもしれないけど、ひとこと出ておいたほうがいいかもしれないと思った。
学校に電話して、先生にご説明させていただいて、学校づたいにご家族の方にご連絡いただきコンタクトをとる。タケチさんとお電話でお話。タケチさんは言う。事実関係はわかりませんが、一度、おうちに伺って、お話伺わせてください。気分を悪くされてしまったのであればそれは申し訳ないことと思います。と言う。真摯に回答いただく。ワタシのウチに来ていただく。
ワタシも、ふわっと腹立ったけども、コトを荒立てるつもりはなく、仲良く遊んでいただくことができるならそのほうがいいので、ちょっと今回こういう申告があったもので、ちょっと度が過ぎるのかなと思って連絡させていただきました。で、お兄さんを場に呼ぶ。ちょっとどういうことがあったのか教えてください。起こったことについて、ちょっとお話してもらうようにお願いした。そうしたらお兄さんの目がぐるぐる泳いだ。口をとがらせて、ぴよぴよしだした。しまった、これ、もしかしてウソなんじゃないだろうか。だまされた。子どもの話を信じてしまった。信じられない。さっきまで子どもを守る立場でお話していたワタシ。しょうもない。呼吸がどんどん乱れて、じわじわつめたい汗が出る。信っじられない。お兄さんに、お前、ウソついてんな?と聞くと、口をへの字にしてうなずいた。ウソやん。ウソだったよ。しゃれならんですよ。
ワタシは、しなびるほど汗かいて、こすりつけて頭がなくならんぐらいにタケチくんのお父さん、お母さんに謝って「子どものすることですから」という恐縮しかないコメントをいただき、仲良くしましょうと言っていただく。しゃれならんて。
そもそも、タケチくんはうちのお兄さんに、カマキリを食えと言っていない。いじめられていない。なんならお兄さんが自分の思うとおりに物事が進まず、逃げて帰ってきたらしい。逃げて帰ってウソ吐いて、親を巻き込んで誰もが不幸になった。マエヨメは、そんなお兄さんに、嫌なら友達やめてもいいんだよと言った。
違う。違う違う。その言い方は違う。違うほうに胸がくしゃってなった。
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