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【続編】弱くてもされどワン・ツー~第一話~きっかけは嵐

  • 弱くてもされどワン・ツーのその後を描いてます。果たして主人公はどうなっていくのか(続編:全七話)

  • 一番下に第二話以降のURLを載せてあるので続きはそこから見れます。

  • 【弱くてもされどワン・ツー/始まりの物語】は、クリィエイターページの固定からか、またはマガジンにまとめてあります(全5話)
    よければ覗いてもらえたら嬉しいです。宜しくお願いします。

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和生人(なおと)が前の美容室を辞めてからあっという間に一年が過ぎようとしていた。それこそ本当に、あっという間だった。

和生人は以前、代官山に店を出す、大手の有名なヘアサロンにアシスタントとして勤めていた。しかし人間関係の問題や、クレーム&ミスが重なり、颯爽と辞めてやった。といえば聞こえはいいが、そのうちクビになっていたのを自分から前倒しで辞表をだして辞めたのだ。

和生人は先天性のADHD(発達障害)だ。
それを個性と捉えるか、頭の固い、ヤバい奴と捉えるかは、相手次第だ。
和生人の性格は、曲がった事が大嫌いで、計算も苦手。それに加えて空気を読むのも、自分から話しかけるのも苦手。人の名前や顔を覚えるのも苦手。
ゆえに現代社会を生き抜くには、相当なハードモードを覚悟しなければならない。
お店を辞めてから、引きこもりがちになった和生人を外に連れ出すきっかけをくれたのが兄貴の雅人(まさと)とその息子、大河(たいが)だ。また二人を見守る兄嫁の沙月(さつき)さん、三人の存在はかなり大きい。また髪を切る希望をくれたから。三人には言葉では伝えきれない程感謝している。

今でも大河の髪を切るのは和生人の誇らしいお役目だ。大河と一緒にヘアカタログを見るのは楽しい(あの喧嘩した日から俺も少し成長し、大河の好みを探ろうとしている)
しかし大河が指さして微笑むのは女性の髪形ばかりで、なんと返答したらいいのか困ってしまう。

また和生人の生活も少しづつ、変わり始めてきた。まだ前職でのトラウマが消えた訳ではないが、人と話す練習をし始めた。しかもそのやり方が'マッチングアプリ'という荒業だ。
これは和生人的には女の子とも話せて、かつ今の髪形のトレンドも見れて、あわよくば彼女も、という一石三鳥……なんて現実はそう甘くない。

いざ女の子とマッチングしてデートの日が決まると、震えが止まらないのだ。しかもある程度外見は整える事ができても(和生人の見た目はそんなに悪くない)いざ女性を目の前にすると銅像にでもなったかの様に言葉が出ず、喉がカラカラに乾き、一歩も歩きだせない。そして異様に目も血走るし。
結果、気持ち悪がられて目の前から相手の女性が消える。今まで全敗だ。

俺の春はまだ少し先らしい……な。電車のドアに頭を預け、今日の為におろした服も香水も、全部が虚しい。けど、会話の練習、どうしよう。
マッチングアプリに限界を感じていた時、和生人の携帯が鳴った。
それは見た事のない番号からで、普段なら絶対出ないのに、なぜかその時は通話ボタンを押していた。

和生人「はい、もしもし?」
「あー!!こんにちは。雅人君の弟さんの携帯であってるかしらね?こちら美容室ノエルの店長、関根と申します」
和生人「はあ……」
関根「突然電話してごめんなさいね。実は雅人君、貴方のお兄さんの髪を切らせてもらってる美容師なんだけどね、人手が足りないのよ~~~」
和生人「……」
関根「ほら、もうすぐクリスマスがくるじゃない?うち私含めてスタッフが二名しかいなくて。藁にもすがる思いで来るお客さん全員に愚痴ってたらさ」
関根「雅人君、弟、美容師ですけど……とか言うじゃない?でも極度の人間アレルギーで人見知りだっていうから。まず、お電話してみたってわけ」

相手の関根はめちゃくちゃ明るく、声が大きい。しかし威圧的ではなく、なんというか近所のおばちゃん(←失礼)のような気さくさで会話をサクサクと進めていく。

関根「んで、和生人君、どうかな?」
どう、、とは?
和生人「……あ、俺、上手く人と話せないですし、ここ最近は子供の髪しか切ってないので、その、すみません」
関根「あー!!いいの、いいの、会話はね、私がするから!その代わり鋏さえ握れれば、うちはOKだから!」
矢継ぎ早とはまさにこのこと。関根は明るい声のまま続ける。
関根「大河君の髪、切ってるの君でしょ?なら大丈夫。カット続けてるみたいだし、技術、OK♪あと不安な点とかはさ、会って何でも聞いてくれればいいから!んじゃ、明日早速お店に来てもらえるかな」
和生人「あ、明日!?」
なんちゅー急な!
関根「そ!一度見学に。あ、まさかデート~~~?」
和生人「とかではないので、明日伺います」(キッパリ)
関根「本当!?どうも有難う、んじゃお店の住所とかは雅人君にラインしておくから。( `・∀・´)ノヨロシク♪」
と言って、通話が終わった。ひ、久しぶりに人とまともに話した……。
汗やばい。動悸凄い。それにしても兄貴の奴~!

和生人は早速雅人に連絡をした。しかし仕事中なのか電話では話せず。結局ずっと携帯を意識しながら晩御飯を食べ終え、お風呂に入って、寝る支度をしながらソワソワ連絡を待っていたら、雅人からようやくラインがきた。

雅人〈連絡遅れて悪い。そして明日早速見学なんだってな!?やるなー!住所はここ。大丈夫、きっとお前が緊張しない場所だから〉
雅人〈んじゃ、俺、今から大河とお話タイムだから、またな!早く休めよ〉
このメッセージのあとにグッドラック⭐︎というスタンプもきた。

人の気も知らないで兄貴め。でも兄貴には頭上がらないし、見学だけいってすぐ帰ってこよう!よし。
既読無視……だとなんか大人げないから、壁に手をついてショックを受けているスタンプを一個、返事として送信した。

ノエル、店長の関根さん。。和生人は心で復唱する。忘れない様に、一応ちゃんと挨拶できるように!
明日、か。緊張するな。でもデート程ではないのはきっと、電話で話した時の関根の雰囲気が良かったからかもしれない。

どんな所なんだろう、少し、楽し(み)。。和生人は夢の中にそのままゆっくり落ちていった。

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【続編】弱くてもされどワン・ツー~第二話~不思議なご縁~

https://note.com/bluemoon699/n/nc159f51eeb6a

【続編】弱くてもされどワン・ツー~第三話~魔法使い~
https://note.com/bluemoon699/n/n6e42c3af6a6b

【続編】弱くてもされどワン・ツー~第四話~あらぬ誤解~
https://note.com/bluemoon699/n/n672e89936aba

【続編】弱くてもされどワン・ツー~第五話~和生人の課題~
https://note.com/bluemoon699/n/n7144a297942f

【続編】弱くてもされどワン・ツー~第六話~責任の所在~
https://note.com/bluemoon699/n/n580a4a9a952f

【続編】弱くてもされどワン・ツー~第七話~優しい棘~
https://note.com/bluemoon699/n/n9b9f03ae141c

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