子供の成長と我が家の言葉事情

 世界には3000から7000もの言語が存在するとされ、国・地域・民族により様々な言葉が使われている。しかし、国や民族だけにとどまらず、各家庭においても使われる言葉には微妙な違いがあるのではないだろうか。
家族内でしか通じない「合言葉」的なものが少なからずあるはずだ。
 うちにも家でしか通じないわけのわからない言葉がある。例えば、「ぷにぷにバケツ」は洗濯かごを意味しており、「もけもけ」は私が持つ特定のパジャマを表す言葉だ。
 ひなちゃんが生まれてからは特に隠語的な我が家特有の言葉が増えた。
 新しく使われだしたのは「ゴーアウト」だ。意味は「お出かけ」だ。つまりお出かけを英語にしただけのものだが、うちでは必須の言葉である。
 ひなちゃんは最近お出かけという言葉がわかるようになり、お出かけと聴くやいなや棚までだっこひもとだっこひもカバーを取りに走るようになった。ひなちゃんはびっくりするぐらいお出かけが好きで、ひなちゃんにとって都合のいいことや好きなものを表す言葉の獲得の早さには感心するばかりだ。
そこで困ることが一つある。それはひなちゃんがだっこひもを持ってきたらすぐに出かけなければ大泣きを始めるということだ。そのため日常会話の中ではひなちゃんが反応しないよう「ゴーアウト」と言い換えた。使用例としては
夫「明日のゴーアウトは午前にする?午後にする?」
私「ひなちゃんのお風呂を午後にしたいからゴーアウトは午前がいいかな。」
という感じだ。
 二つ目の言葉は「黄色いあれ」だ。今年の流行語にもなった阪神の「あれ」にあやかったかどうかはわからないが、夫の発明したバナナの言い換えだ。
ひなちゃんはバナナも大好きなのだ。バナナと聴けばいつでもバナナが食べられると思っているようでこれまた騒ぎ出す。ご飯中もバナナと聴こえれば
「あるんだろ?早く出せ!」
と言わんばかりに体をゆさゆさ揺らしはじめ、途中まで食べていたご飯やおかずを食べなくなってしまう。
 そこでどうしようかと考えたが、バナナは英語にしたところでアクセントの位置が変わる程度ですぐにわかってしまう。そんな中「黄色いあれ」はポっと生まれた。
 ただスーパーでは「黄色いあれ」は通じない。みんなでスーパーに行くと、店員さんに買い物の手伝いをしてもらっているのだが、
「いつも買われてるバナナどうしますか?今日バナナ安いですよ!バナナは何本入りがいいですか?」
と親切にバナナを大きな声で連呼してくれる。その度に
「きゃはは」
とひなちゃんは喜びだっこひもの中で、足をバタバタさせはじめ、落ち着きをなくす。他の商品に気を取られてかごに追加したバナナの存在を忘れてくれることもあるが、バナナをすぐに食べられないことを知りぐずりだすこともある。新たな困った事態の出現だ。
 もちろん「お出かけ」や「バナナ」と聴き騒ぎ出すようになったのも、言語を理解しつつあるひなちゃんの成長あっての反応だ。
 ひなちゃんの言葉の獲得という目覚ましい進歩の裏で生じた使いづらい言葉問題への対処として「ゴーアウト」や「黄色いあれ」のような新しい我が家の表現が生まれた。
 私は学生時代英語を中心に言語とそれを取り巻く文化について学んだ。当時は
(いろんな文化の中でたくさんの言語が作られていくんだなあ、すごいな。)
と実態を伴わない無味簡素な感想を持ったに過ぎなかった。しかし、今こうして自分たちが日々使う言葉に思いをはせ、子供の言葉の獲得過程を日々目の当たりにする中で、言葉を学び、使い、新たに作り出せる人間の豊かさを実感した。

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