人気者と嫌われ者と探偵と
街灯がぽつぽつと灯り始めた横浜の住宅街。
茜色の空は冬の訪れを告げるかのようにあっという間に深い藍色に染まっていく。
路肩に停めた車内は吐く息が白く見えるほど冷え込んでいた。 フロントガラスは外気と車内の温度差で薄っすらと曇り、閉め切った空間をさらに狭く感じさせる。 二人の探偵は寒さに耐えながら独身偽装の男が現れるのを待っていた。
探偵A:「なあ、カブトムシってなんであんなに人気なんだろうな」カップラーメンのフタを指で押さえながらぼそりと言った。
探偵B:「は?」
探偵A:「いやさ、見た目はゴキブリと大して変わらないじゃん?黒くて、硬くて、触覚もあって。けどカブトムシは角があるだけなのにかっこいいって言われて、ゴキブリは汚いって嫌われる。なんか不公平だなって思ってさ」
探偵B:「……確かに」手元の缶コーヒーを軽く振りながら考え込む。
探偵A:「でも、よく見ると違うんだよな。カブトムシはツヤがあるしなんか高級感あるだろ」
探偵B:「高級感?」
探偵A:「そう、高級感。服装で例えるとカブトムシはタキシードで、ゴキブリは汚れた部屋着だ」
探偵B:「なるほどな。でもお前はさ、タキシード着たゴキブリでも好きになれるのか?」
探偵A:「それは無理だ」即答だった。
探偵B:「でもさ、ゴキブリだって必死に生きてるんだよな。どっちも虫だし差別するのは人間の勝手な価値観だろ」
探偵A:「そうかもな。でも虫同士の世界でもカブトムシはモテるんじゃないか?だって力強いし、カッコいいからな」
探偵B:「虫のモテ基準って何なんだよ……」
2人の探偵は一瞬黙り込んだが、張り詰めた空気が緩むのを感じたのかまたどちらともなく笑い声が漏れた。
探偵A:「なぁ、でも一つだけゴキブリに勝ち目があると思うんだよ」
探偵B:「何だ?」
探偵A:「カブトムシって短命だろ?夏が終われば大体死んじまう。でもゴキブリはタフでしぶとい、下手すりゃ冬も越す」
探偵B:「……お前、それ張り込み中の俺らのこと言ってんのか?」
探偵A:「いやいや、そういうつもりじゃないけど……まぁ、似てるよな」
探偵B:「似てねえよ」
そのとき車の外で物音がした。
2人は一瞬で空気を張り詰めさせる。対象者の男がようやく現れたようだ。
探偵A:「ま、どっちにしろ俺らはカブトムシでもゴキブリでもねえ。ただの探偵だ」低い声で呟いた。
探偵B:「どんな虫だって結局捕まえる側が一番強いんだよ。さ、行こうか」ニヤリと笑い、窓越しに目を凝らしながら囁いた。
静かな街灯の下、2人の探偵の張り込みはようやく実を結びつつあった。
終わり
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