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練武知真 第10話『地に足をつける為の武術』

中国武術の修行は【站樁功(たんとうこう)】と呼ばれる

特定の姿勢を維持して立つ訓練から始まることが多いです。

 

車派形意拳では、

「馬歩站樁功(まほ)」や

「三体式站樁功(さんたいしき)」を。

 

九宮八卦掌では、

「馬歩站樁功」、「八卦站樁功(はっけ)」や

「虎座式站樁功(こざしき)」を。

それぞれ最初に学びます。

 

その目的は、各武術に必要とされる基本的な身体の要領を身に付けるため。

 

「勁(けい)」と呼ばれる繊細な運動ができるようにする為に、

「立つ」という動きを封じた状態のなかで、

身体各部の要求項目を満たしてゆき、全身の調整をしてゆきます。

 

そして複数種あるこの「站樁功」に共通して求められるのが、

『根が生えたように大地に立つ』

という要領です。

 

グラグラしない、傾かない、

真っ直ぐに天に向かって伸びた大木のように立つことが要求されます。

 

それは武術で必要な安定感を得る為だけではなく、

「勁」という力の出し方が、大地の反動を利用することから始まるので、

大地にしっかりとアクセスできる身体が必要とされるからです。

 

さてこの站樁功の訓練ですが、初期はどうしてもぐらついしまいます。

足裏が大地にベタッと着かず、踵や指先が浮き上がってしまったり、

身体の緊張が解けず、プルプルと震えてしまったり・・・。

 

それを何とか克服しようと、

前後左右に重心を移動させてみますが、

なかなか安定するポジションを探り当てることができなかったりします。

 

実はここには気付くべき「大きなポイント」があるのです。

大地に根を張るように・・・

大地の反動を得る・・・

立つ・・・

 

そう。テーマは『大地と繋がる』ことなのです。

そして大地のチカラとは・・・『重力』。

つまり、前後左右ではなく、

「重力方向(垂直方向)」に体を整えることを求めているのです。

 

そしてそれを叶えるには、力むことを止め、

重力に身を任せる感覚が必要不可欠なのです。

 

勿論、基本的な腰や体軸の作りなどは必要となりますが、

その先は自分の筋力でバランスを取るのではなく、

首や胸、肩や股関節、膝や足首の力みを取り除いて、

足裏ベッタリと大地にくっつくこと。

足裏と大地の区別が判然としないくらいまで大地に同化します。

 

それは『放鬆(ほうしょう)』と呼ばれ、力みからの解放を意味します。

 

武術としてしっかりと立つというのは、

コンクリートのように脚を硬化させるのではなく、

大地と力のやり取りが出来るように柔らかく立つことを指すのです。

 

またこの立ち方は身体の安定だけでなく、

心の安定にも役立ちます。

 

もし日常において、

体がふらつく、心が落ち着かない、

不安で震えがくる、緊張で動悸が激しいなど

いわゆる「地に足が着かない」時は・・・

 

姿勢を真っ直ぐにして、

そして、

足裏に集中します。

 

私達の足裏にある『大地』をしっかりと感じるようにすること。

この際、力むのは厳禁。

ただ大地を感じる。

 

次第に呼吸が落ち着いてくるはずです。

そして同時に胸や肩の緊張がと解けてゆきます。

 

なぜか。

 

一つは、自分や周囲の状況とは無縁の「大地」に意識を集中しているから。

緊張や不安の原因から自分が解放される為です。

 

もう一つは、いつでも私達の足下にある、

大地という「ゆるがない絶対的な存在」

に身を任せる安心感・安定感からです。

 

そして、そこから気づく、

『私は今ここに立っている』

という自分の存在への実感。

 

やがては、

ちょっとやそっとでは、心も体もぐらつかない

大木のような人間になるのです。

 

 

 

2024年4月17日 小幡 良祐

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