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地域住民とデジタル村民が現地とオンラインで交流 コミュニティ自治権を持つ「ネオ山古志村」を構想 竹内春華さん〈後編〉

 6/1放送は、新潟県旧・山古志村(現・長岡市)でNFTアート(ブロックチェーン技術を使って「一点もの」であることが保証されたデジタルアート)の技術を使い、「デジタル村民」という新しい概念による地域おこしに取り組む竹内春華さん(山古志住民会議 代表)の後編でした。

「デジタル村民」は今やリアル住民の倍以上に

 私が3年前から代表を務める「山古志住民会議」は、20年前の中越地震をきっかけに発足した住民団体です。地震のちょうど半年後に平成の大合併が行われ「山古志村」は長岡市に編入合併されたため、村としては消滅してしまいました。しかし「山古志」という地域に誇りをもつ元村民の方々が「自分たちが帰りたい山古志をもう一度つくりたい」と願い、この団体が立ち上がりました。

 旧・山古志村の人々は震災時に全村避難を強いられましたが、2200人ほどいた人口のうち、1700人もの方々がその後戻ってこられました。しかし、時が経つにつれ人口は減り、ついに数年前には800人を切るほどになってしまったのです。

 このままではコミュニティの存続そのものが危うくなり、これまで山古志の復興に参画してくださった方や、山古志に関心を持ってくださった方を「デジタル村民」として正式に認定する取り組みを開始しました。山古志の名産である錦鯉をモチーフにした唯一無二のNFTアート(Nishikigoi NFT)がデジタル住民票を兼ねるという仕組みで、リアル住民の倍以上となる1740名ほどの方が「デジタル村民」になってくださいました。その3割ほどの方々が「帰省」といって実際に山古志に足を運んでくださっています。
 
 初めのうち、地域住民の方々には、どれだけデジタルアートの絵を見せてもNFTの本質的な意味を理解していただけないこともありました。しかし、デジタル村民の方々の多くが「帰省」してくださり、リアル住民のみなさんと接する機会が増えるごとに「同じ山古志を思う仲間なんだ」ということをだんだん理解してくださったように思います。

「デジタル村民」と「リアル住民」がともに地域の活動を盛り上げる

 山古志住民会議は旧・山古志村地域を復興させようと取り組んでいるプロジェクトですが、長岡市自体もオフィシャルパートナーとして正式に応援してくださっています。とはいえ、長岡市全体の人口が27万人いるうち、山古志地域は800人弱なので、行財政的な優先順位が高くなりにくいのが実情です。逆に、長岡市におんぶに抱っこのような形で頼っている部分もありました。それでもなんとか自力で頑張ろうとしてきたのですが、やはり人口が減る中でそれも難しくなってきたため、「共助」の「共」の部分をより厚く充実させるよう、デジタル村民の方からさまざまな知恵や技術を提供してもらっています。  
 
 実際にこれまでは地域住民だけで行ってきたプロジェクトも、デジタル村民の皆さんとオンラインで会議を行って発案レベルから一緒に取り組む試みも始まっています。また、デジタル村民の方々に山古志へ実際に来てもらい、リアル住民の方々のサポートを受けながら参加するアクションもあります。

 つい先日、5月18日に山古志小中学校の運動会が開催されたのですが、小・中学校合わせても生徒が20人くらいしかいないため、ここ数年は団体競技をやりたくてもやれない状況が続いていました。しかし、子どもたちに「山古志を思うみんながいるよ」ということをどうしても伝えたくて、デジタル村民と山古志出身の方々にこの運動会を一緒に盛り上げていただけるよう働きかけを行ったところ、多くの方が賛同してくださいました。最終的には学校の先生にも協力していただき、今年はみんなでつくる運動会を開催することができたのです。

 また、デジタル村民の方々に山古志をリアルタイムで感じていただけるよう、インターネット上にメタバース空間もつくっています。大根をモチーフにアバターを作ってくださったデジタル村民がいらっしゃって、希望する方に無料でプレゼントしています。山古志の四季折々を感じられる仮想空間に大根アバターで入ってもらい、遊んだりコミュニケーションをとったりと楽しい時間も生まれています。

もう一度「村」をつくりたい――「ネオ山古志村」構想

 実は今、デジタル村民と地域住民のみなさんとともに、行政区としては消滅してしまった「村」をもう一度つくることはできないか、と話し合っています。世界中どこに住んでいても山古志村民であるということを唯一無二のデジタルアートで認定した上で、独自の自治権を行使できるようなイメージです。「ネオ山古志村」と仮の名前を付けているのですが、世界中から知恵と資源と想いを集め、地域住民のみなさんとともに、コミュニティ自治権を持つ「くにづくり」を行っていけたら、と夢を膨らませています。

 その実現にむけた動きを一気に加速するためには、地域でリアルに活動しつつ、インターネットやデジタル面にも通じて両者のブリッジ役となる人が私の他にあと二、三人必要だと感じています。ありがたいことに、最近では、考え方や行動で「半分私じゃないかな?」と思うようなデジタル村民や若い地域住民が誕生していて、かれらの未来が楽しみで仕方ありません。ぜひ、もっともっと自分らしさを出して活躍してほしいと願っています。

 私が山古志に移り住んで18年になりますが、苦しいこともありながら活動を続けられたのは、やはり「楽しい」というひとことに尽きます。山古志の方々はとにかく明るくて、人口減少が進むことへの悲壮感は感じられません。それこそ錦鯉を育てている方や牛の角突き文化を守っている方たちは、山古志で生きていることへの誇りをもっておられます。この方々の思いをつないでいくためにも、私はデジタル村民とリアル住民の架け橋となり、活動を続けていきたいと思っています。

◆中村陽一からみた〈ソーシャルデザインのポイント〉
 コピーや改ざん不可能で唯一無二のデジタルアートという最新技術と1000年の歴史ある村が結びついていくところに、現代のソーシャルデザインの妙を感じるお話をうかがった。新しい技術やシステムはどんどん活用していくことが大事だが、同時にそれを担う人や場、地域の歴史や文化とどう結びつけるかが肝要だ。何しろ新しい取り組みなので、当然さまざまな課題があげられるだろうが、それは一つ一つ対処していけばよい。むしろ竹内さんがソーシャルデザイナーとして明るく楽しく活動を継続されていることがとても魅力的に感じられた。今後はデジタル村民とリアル住民をつなぐ「人財」がますます山古志に集まることで、「ネオ山古志村」が誕生していくことを期待したい。 

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