なかなか暮れない夏の夕暮れ ― 夏に会いたくなる人々
江國さんの描く夏が好きです。
夏を描くとき、暑さではなく、暑さの中でしか感じられない涼しさを描くところが好き。
暑いからこそ涼しさがこんなに嬉しいんだもんなあ、と思う。
江國さんは、人生の幸福や愉しみを描く天才だ。
『なかなか暮れない夏の夕暮れ』に描かれる50代の男女も、人生の幸福な側面を見ようとする。
夏のさなか、暑さを嘆くのではなく涼しさを楽しもうとする。
「なかなか暮れない夏の夕暮れ」、それは実際の夏の夕暮れのことだけでなく、人生の後半に差しかかった彼らの、人生の午後の時間を表しているのかもしれない、とふと思う。
50代、人生の後半。
まだまだ日々は続いていく、でも陽は少しずつ傾き、これまでのやり方では対応しきれない局面が、ひっそりと積み重なっていく。
きらりと光る夏の夕風のような日々、台風のようにやってくる感情の波をやり過ごす術、やがて訪れるだろう夜の気配。
例えば20代の頃には、50代なんて人生の大方をコントロールできるほど大人だと思っていた。
でも彼らの年齢に近づくにつれ、そうではないことを思い知る。
夏になると毎年読み返したくなるのは、年を重ねたからこそ瑞々しく揺れる彼らの内面が愛おしく、再会したくなるからなのだと思う。
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