“ウィピル”に魅せられて──グアテマラ マヤに伝わる民族衣装
『みずうみ色のウィピル』
先日、すけの あずささん3作目の絵本『みずうみ色のウィピル』が発売されました。たくさんの青色──“みずうみ色”の表現がとても美しい、ロマンス溢れる創作絵本です。
今回は、絵本に登場するグアテマラの民族衣装“ウィピル”について、すけのさんに伺いました。すけのさんを魅了したウィピルの魅力を、みなさんもぜひご覧になってください。
みずうみ色の“ウィピル”──すけの あずさ
グアテマラで出会った民族衣装
10年ほど前になりますが、世界一周旅行で中米のグアテマラを訪れた際に、マヤ系先住民が着る民族衣装、ウィピルの美しさにすっかり魅了されました。
ウィピルは村によって色や文様が異なります。なかでも私が印象に残っているのは、世界で最も美しいと言われる湖、アティトラン湖のほとりの村“サンタ・カタリーナ・パロポ”の女性たちが着る青色のウィピルでした。家事の合間に女性たちが織る、幾何学模様の青色の衣は、それは見事です。
パロポ村では、昔は赤色のウィピルが主流でした。
しかし、いつからか村で青色が大流行し、今では青色のウィピルばかり着られるようになりました。
なぜ青色になったのか。
いちばん有力な説は「旅行者が青色の糸を用意し、村の女性にオーダーメイドで作ってもらったことがきっかけ」だそうです。流行に敏感な若者ほど青色を着ており、年配女性は昔からの赤色を着ている人もいました。
本来、ウィピルは母から娘へ受け継がれるものです。
しかし近年必ずしも「母から娘へ」というわけではないようで、従来は村の中で作られたウィピルのみを着用していましたが、村間の往来も盛んになり、別の村のウィピルを購入する人も増えてきているそうです。
それは、ほかの村の方がオシャレだから、母親が作らなくなったから、などの理由からです。
流行や時代とともに、色や文様も徐々に変化しますが、それでもマヤ文明から代々受け継がれた技術が今なお生きていること自体が稀有であり、日常で不可欠な服を通して、文化や歴史が守られていることは貴重なことだと思います。
“バトンを受け継ぎ、つなげていくこと”。私が創作するうえで大切なテーマです。
ウィピルの文様について
ウィピルに織り込まれる文様には、「マヤ文明の流れを汲んだ宗教上、神話・伝説上の形象」「天体や気象をシンボル化したもの」「植物や動物」などがデザインされたものが多いです。
ウィピル について詳しく書かれている『五色の燦き グァテマラ・マヤ民族衣装』(東京家政大学出版部)によると、ウィピルの文様は“太陽、月、稲妻、雨、虹、波、渦などが文様化あるいはシンボル化”されていて、マヤの人たちが肌で感じた、天象・気象の恩恵と危険を、織物の文様に現しているそうです。
さいごに、そのいくつかをご紹介します。
【イナズマ】
回復/女性の病気、病気を治すのに使われた神聖なツール
【鳥】
絆/大きな鳥、家族・人間・絆、子供たちに対する親の愛を表す
【蝶】
自由
【木】
命
【神様について】
グアテマラでは、カトリックを信仰する人びともいますが、多くは土着宗教を信じています。
大神、雨の神、トウモロコシの神、空の神、死の神、自殺の女神、虹の女神、戦いといけにえの神、織物の女神……日本と同様、あらゆるものに神が存在するとされています。
また、ウィピルは、繊細で緻密な織りに対して仕立てがいかにも粗末に感じますが、「完全なものは神にしかできない」とされ、服のつなぎ目をわざと不揃いにさせているのです。
おわりに
“ウィピル”には、何千年にもわたるマヤの人びとの歴史がつまっているんですね。
美しいアティトラン湖をながめて暮らすパロポ村の青色のウィピルには、絵本に描かれるような、湖と人びとの物語があったかも……と、昔々のマヤの人びとの暮らしに思いをはせるのも楽しいです。
おわりに、すけのさんがグアテマラを旅した当時の絵日記をご紹介します。
グアテマラの人たちは、隣国のメキシコに比べると、シャイな方が多い印象だったそうです。
すけのさんがグアテマラに訪れたときに不思議に感じたことや疑問は、帰国してから書籍などで調べたことも多いそう。
みなさんも、ぜひ、絵本『みずうみ色のウィピル』を読んで、グアテマラやウィピルにも興味を持っていただけたらうれしいです。
そして、ウィピルを知って、絵本もさらに楽しんでいただけますように!
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