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スイッチが切り替わるおばあさんの話

私が薬を届けている高齢者施設にとあるおばあさんがいる。

かずこさん(仮名)は認知症の患者さん。
一緒に入居されてる他の方も、程度の差はあれ、認知症の方ばかり。
でも皆さん認知症とは思えない穏やかさで全員で歌を歌ったり、楽しく朗らかに体操したりしている。


さて、そのかずこさんだが、介護をしているスタッフにも抑揚のない、淡々とした口調で、すごくすごくひどいことを言うのだ。

文章にするのを躊躇ってしまうほどの内容を。

私が薬を届けに行っても、
アイツは誰なんだ?
頭がおかしいのか?
仕事が遅い。馬鹿なのか?
お医者さんか?それともニセモノか?そうか、お前はニセ医者だな!!!

などと暴言を吐いている。

激昂したり、強い口調で言うのではなく、あくまで淡々と。


私はかずこさんのそんな一面を知っているから、ああ、また言ってるなぁ、今日も暴言を吐けるくらい元気なんだなぁ、なんてやり過ごしている。

が、介護のスタッフや一緒に入居されてて毎日長い時間かずこさんと接している方は、そんなふうに割り切れないところもあるんじゃないのかな、と思う。

さて一方、月に2回ある医師の診察(回診)の日。
散々毎日いろんな人に暴言を吐きまくっているかずこさんだが、なんとその日は必ずパタリと暴言が止むのだ。
医師の前では必ず。
医師の隣でいつもの看護師と私も同席しているのに、全くひどい言葉一つも出てこない。

「先生、今日はありがとう。いつも私は寒がりだからあったかい格好をしております。今日は...(と体調に関わる話がどんどん続く)」

かずこさんの暴言スイッチがカチッとオフになる。

たぶん、かずこさんの頭の中、心の中のスイッチは、我々とはモードが全く違うのだろう。我々を基準にしたら、かずこさんの言動は理解できない。
パーツや動き方、エンジンのかかり方など具体的にどう違うのか?それは医学的知識を持ってしてもまだわからないことだらけだ。



また同じく認知症と括られる人たちの中でも症状の出方はさまざまで、ひとまとめにはできない。

忘れていくことやわからなくなることが不安で、ソワソワしてしまう方もいれば、怒りや徘徊に繋がる方もいる。
延々と同じことを数分ごとに繰り返すだけの方もいる。

自分がそういう状態になった時のことを想像し、共感したり寄り添ったり、また本を読んで知識として勉強し、慮れる部分はある。が、全てはやはり理解はできない。だってまだまだわからないことが多いのだから。

そんなかずこさん、先日薬を届けに行ったとき様子を見ていたら、なんだか静かでなのである。

いつもの、あの、"暴言"がない。

特に精神を鎮めるような薬は服用していない。
どうしてしまったんだろうか。
具合が良くないのか?
それともまたスイッチが違うモードに入った?いや、入りっぱなしになった??


そんなかずこさんに今週もまた会いに行く。医師の診察に同行するために。そしてその後に処方された薬を届けるために。
暴言は嫌なことだけど、そして周りの同居してる方や介護してる方を振り回してしまうけど、やっぱり今までとまた違うモードになっているかずこさんが、私はとても心配である。

もしかしたら、ご本人が一番不安に思われているのかもしれないが。

薬という立場からなんとかかずこさんの生活、精神面を支えてあげられたらと願うばかりである。出来ることがたとえ少なかったとしても。

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