【展覧会レポ】Robert Bosisio「Oltre」
中目黒の、春には桜で有名な桜橋を越え、お洒落な雑貨店が立ち並ぶ中やっと見つけた104galerie
ここでは現在イタリアの現代作家 ロバート ボシシオによる個展「Oltre」が開かれています。
訪れたきっかけ
恥ずかしながらこの個展に訪れるまでロバート ボシシオ氏をよく存じ上げなかったのですが、イタリア語で「〜を越える」という意味を持つ「Oltre」を題にしたこの展覧会に(ロスコの大ファンである私は)心惹かれ104galerieへと向かいました。
作品
私が訪れた日は丁度展示替えがあった日、もしかしたら訪れるごとに違った作品を見ることができるかもしれません。あくまである日の展示ということで、、
雲の作品
まず入って1番に目を引くのは今回の目玉である雲をモチーフとした作品
黒い背景にぼんやりと浮かぶ雲。群れることなくそこに存在する実態は、手で掴むことのできない雲のイメージを地上に下ろしてきたような感覚。
近づいて見てみると雲の周りには紫のようなピンクのような色があり夜空に浮いた雲をイメージさせます。
大きなキャンバスに描かれたこの作品は、前で立ち止まればその黒い背景に引き込まれてしまいそうな不思議な力を持ちます。
人物画1
対照的に小さなキャンバスに人物が描かれているこの作品は入り口のすぐ脇にあります。帽子を被った男性の像。しかしその目や口元は陰で明確には描かれておらず、表情も読み取れません。
キャンバスの表面が浮き出て見えるのは横から見ると実際に凸凹があり、描かれた影と実際のライティングによって生み出された影が重なり合います。
このような人物像は鴨居玲やつい最近表参道で見たJUN TAKAHASHIの作品を思わせます。
個人的には信仰に厚い人物が神に祈りを捧げている場面のように感じられました。
2つの部屋
こちらはボシシオの作品で多く登場する部屋の構図。
扉のない部屋の向こうは黄色から緑そして明度の低い色へとグラデーションになっています。仕切りを「越えた」先に待つ世界はどんなものなのだろう。自然的ではないその色使いからこの世界やリアルではないなにかが広がっている、そんな想像が膨らみます。また黒く表されたこちら側の壁の隅は虹色のようにも見えます。幻想的な色使いでありながら遠近感を失わない不思議な表現だと感じました。
同じように部屋と、その向こう側を描いた作品
先ほどの絵と逆にこちら側の部屋は黄色、オレンジをベースとした明るく暖かみを感じる様に、そして向こう側は闇として描かれています。この展示は実際同じような構図の小部屋に展示されており絵画で感じる内と外の関係をギャラリーでも追体験することができるという点で感心した展示でした。
人物画2
このように二冊の画集の奥に展示されていた一つの作品。ボシシオが題をつけるとしたら『head』になるでしょうか。
最初の方に紹介した、小さなキャンバスに描かれた男性の頭部に似たこの作品。
先ほどの作品は実際に表面が波を打っていましたがこの作品を横から見てみると
一本一本手書きの線によって、まるでそこにガラスによる仕切りがあるように表現されています。線の向こうにぼんやりと描かれた人物像はベージュで人型の何かとして描かれています。それは人物画ではなく原初的な人間を表したものであり、表情や衣服などの情報を持たずただ先述の人物画のように俯いているということだけが分かるのにもかかわらず独特の哀しさを醸します。
人物画?3
そして私が1番目を奪われたのがこの作品。
さらに人間的な要素を剥がされ、まるでギリシア彫刻が横たわっているような作品。
頭を左に傾けると不自然に出っ張った頭部と額にある穴に気付かされます。
出っ張った部分にも不自然な傷が、額の穴からまるで血液のようなものが垂れています。あまり感情的な顔面の表情を持たない彫刻と異なり口はわずかに開いており、頭部を縁取る赤褐色も不気味な印象を与えます。
まるで銃によって撃たれた人間のよう
そう思わせるこの作品。細部に注目すると、
遠くから見ただけでは分からない、小宇宙のようにさまざまな色彩によって構成されていることがわかります。画面の印象とは正反対なようなパステルカラーも多く使われており、この作品が醸し出す静謐さ、神聖さがここから生み出されているのだと感じます。
最後に
今回画集を買えなかった(もう売り切れでした)のは残念でしたが、これまでの画集を見てボシシオの作品には大きな意味を付与するような題がなかったり、題自体がない(untitled,head,interiorなど)ことに気付きました。
ギャラリー内にも作品名の展示はありません。
あの絵、あの雲の絵、としか表現できない悔しさと共に、作品から醸し出される独特の存在感はまさに雲のように掴むことのできない何かを「越えた」結果生み出されたものなのだと思い出します。
中目黒に開かれた静謐な異世界へ是非訪れてみてはいかがでしょうか。
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