これは「私たち」の物語である|松村圭一郎 【『第七の男』を読んで #2】
英国孤高のストーリーテラー、ジョン・バージャーと写真家ジャン・モアによる伝説のルポルタージュ『第七の男』。移民労働者の実存に迫る半世紀前の名著が、現代を生きる私たちに提示するものとは──。文化人類学者の松村圭一郎が綴る。
Cover Photo: 移民労働者のための受付センター。ジュネーブ。『第七の男』より
© JEAN MOHR, 1975/JEAN MOHR HEIRS, 2024
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生きる糧を求め、新天地に夢を託して国境を越える。 それはあなたの祖父母のことかもしれないし、子や孫の姿かもしれない。
日本では、もっぱら移民労働力の受け入れの可否が議論されている。 だが、この国がずっと移民が働きにくる土地でありつづける保証などない。
ヨーロッパの南部や東部からフランスやドイツなど豊かな国に出て働く男たちの姿。 本書が描きだす「彼ら」の生は、「私たち」の物語である。
松村圭一郎|Keiichiro Matsumura 文化人類学者。岡山大学文学部教員。著書に『人類学者のレンズ:「危機」の時代を読み解く』(西日本新聞社)、『所有と分配の人類学:エチオピア農村社会から私的所有を問う 』(ちくま学芸文庫)、『旋回する人類学』(講談社)、『小さきものたちの』(ミシマ社)、『くらしのアナキズム』(ミシマ社)、『これからの大学』(春秋社)、『はみだしの人類学:ともに生きる方法 』(NHK出版)、『うしろめたさの人類学』(ミシマ社)など。共編著に『文化人類学の思考法』(世界思想社)、『働くことの人類学【活字版】 仕事と自由をめぐる8つの対話』(黒鳥社)がある。
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